林郁 著
満州とはなんだったのだろう?
『わが半生―「満州国」皇帝の自伝』や『流転の王妃の昭和史』などを
読む中で、ますます大きくなってきた疑問だ。
それはさまざまな政略が絡みあっていたのだろうが、はたして本当にこの国が成立し、
日本に利益をもたらすと思われたのか? それとも戦争へと向かう時代、いわば
口減らしとして、移民が送り出されたのか?
その国が壊滅したとき、大きな犠牲をはらったのは弱者である一般の人々だった。
略奪と強姦、飢餓と極寒。耐えがたい季節を生き抜いたのはわずかな人数のみ。
しかし、もとをただせば、彼らが勇んで移民していった土地は、現地の住民から
二束三文で取り上げたものだった。
何も知らず豊かな土地への期待にあふれて開拓団に参加したのは、貧しい土地の次男、
三男。そしてかつては好況だった製糸業の後退から行き場を失った女性たち。
日本にいても食うや食わずの暮らしを余儀なくされる立場の人たちが、
それこそ一切の家財を処分して旅立ったのだ。
華やかな大陸文化もあった一方で、その富を生み出す基礎はこの人たちが支えていた。
しかし、現地の人々の怨みはつもりにつもる。
底なし沼の表面に砂をまいてみても、そこは乾いた土地にはなりえない。
敗戦と暴動。そこには地獄しかなかった。
そこで捨てられたり、親とはぐれたり、あるいは集団自決から生き残ったりしたのが
残留孤児たちである。中国人に育てられ、文化大革命の嵐を生き抜いて、自分の素性を
あきらかにできる時代が来たとき、帰国を望んだのは当然といえる。
開拓団の生き残りの人たちの尽力もあり、交流や帰国は一部実現した。
それはきれいごとではなく、多くのトラブルや苦労がつきものであったことも
語られる。文化の違いや引取り側の経済力の限界、そしてなによりも
残された中国の養父母の嘆きが胸をつく。
登場する人ひとりひとりが、残酷な過去を背負い生きている。
過去を言いたがらない人、言ってほしい人。
帰国永住が実現したことで、新たに始まった中日間での家族の別離もある。
幻の国が生んだ多くの悲劇。赤い夕陽を懐かしむ人と忘れたい人。
多くのことを考えさせられる、重い重い一冊だった。
満州とはなんだったのだろう?
『わが半生―「満州国」皇帝の自伝』や『流転の王妃の昭和史』などを
読む中で、ますます大きくなってきた疑問だ。
それはさまざまな政略が絡みあっていたのだろうが、はたして本当にこの国が成立し、
日本に利益をもたらすと思われたのか? それとも戦争へと向かう時代、いわば
口減らしとして、移民が送り出されたのか?
その国が壊滅したとき、大きな犠牲をはらったのは弱者である一般の人々だった。
略奪と強姦、飢餓と極寒。耐えがたい季節を生き抜いたのはわずかな人数のみ。
しかし、もとをただせば、彼らが勇んで移民していった土地は、現地の住民から
二束三文で取り上げたものだった。
何も知らず豊かな土地への期待にあふれて開拓団に参加したのは、貧しい土地の次男、
三男。そしてかつては好況だった製糸業の後退から行き場を失った女性たち。
日本にいても食うや食わずの暮らしを余儀なくされる立場の人たちが、
それこそ一切の家財を処分して旅立ったのだ。
華やかな大陸文化もあった一方で、その富を生み出す基礎はこの人たちが支えていた。
しかし、現地の人々の怨みはつもりにつもる。
底なし沼の表面に砂をまいてみても、そこは乾いた土地にはなりえない。
敗戦と暴動。そこには地獄しかなかった。
そこで捨てられたり、親とはぐれたり、あるいは集団自決から生き残ったりしたのが
残留孤児たちである。中国人に育てられ、文化大革命の嵐を生き抜いて、自分の素性を
あきらかにできる時代が来たとき、帰国を望んだのは当然といえる。
開拓団の生き残りの人たちの尽力もあり、交流や帰国は一部実現した。
それはきれいごとではなく、多くのトラブルや苦労がつきものであったことも
語られる。文化の違いや引取り側の経済力の限界、そしてなによりも
残された中国の養父母の嘆きが胸をつく。
登場する人ひとりひとりが、残酷な過去を背負い生きている。
過去を言いたがらない人、言ってほしい人。
帰国永住が実現したことで、新たに始まった中日間での家族の別離もある。
幻の国が生んだ多くの悲劇。赤い夕陽を懐かしむ人と忘れたい人。
多くのことを考えさせられる、重い重い一冊だった。