息をするように本を読む

初めて読んだ本も、読み返した本も、
ジャンルも著者もおかまいなしの私的読書記録
と、なんだかだらだら日常のことなども

ぬしさまへ

2011-05-31 10:33:15 | 畠中恵
畠中恵 著

病弱若旦那とあやかしのほのぼのストーリー第二弾。
これは短編集なのだが、連作となっており、しゃばけの続きであり、
サイドストーリーでもある。

なにしろ主人公が病弱につき、行動範囲もすこぶる狭く、冒険もかわいいもの。
幼児に毛が生えた程度しか動かないのだから。

それでも江戸のにぎやかな商家の様子や町の喧騒も覗き見ることができ、
ついでに見える人の少ないあやかしたちにまで会える。

ここでは、主人公の兄やである、顔が良くて凛々しくて外を歩けば袖の中には付文がいっぱいの
仁吉のはかない恋の物語や、←相手は誰よ?と思うよね?
生き別れとなっていた主人公の義理の兄←腹違い?だとしたらいったい?と思うよね?
の秘密なども登場し、しゃばけのストーリーを肉付けしていく感じ。

ふんわりやさしい物語なのに、きちんと一本芯がある。
そんなところはそのままに、ますます楽しく読めた一冊。

時の娘

2011-05-30 15:20:38 | 著者名 た行
ジョセフィン・テイ 著

イギリスの歴史的悪役リチャード三世は、本当に二人の息子を殺したのか?
現代まで伝わる証拠だけを頼りに、その謎に立ち向かうのは、
なんとけがで身動きができない入院中の警部。
つまり、究極の“安楽椅子探偵”なのだ。

そんな歴史的事実みたいな話を今さらどうにかできるのか?
と思ってしまうわけだが、できるのだなあ。
もちろん、犯人を目の前において指さしすっきり解決というわけには
いかないが、きちんと納得できるゴールにはちゃんとたどりつく。

そのストーリーの面白さもさることながら、薔薇戦争あたりの
どうにもごちゃつくイギリス史を整理しつつ、話が進むのがよかった。
もちろん一度でアタマに入って英国通!になれるはずもない私であるが、
順を追って人物の関係を説明されつつ話を追うだけで十分に楽しめた。

善悪だけで語るのはわかりやすくて面白い。
悪役は憎らしいほどワルであってほしいのが人情であろうし、
そっちが何かとうまくいくのも事実だ。

でもこうやって角度を変えた視点から掘り下げていくと、悪役の違う顔も
見えてくる。
歴史研究の楽しさと推理小説のスリリングな喜び。コツコツと事実を探り
完成に近づく職人のような探偵の仕事ぶり。
じっくり読んで楽しみ、また時間がたったら読み返す。
そうして何回も読み重ねていきたいと思わせる。

豊饒の海 奔馬 

2011-05-29 12:10:17 | 著者名 ま行
三島由紀夫 著

豊穣の海の第二巻。春の雪の続きとなる。

豊饒の海では清顕の友・本多繁邦が見届け役ともいえる立場におり、
時代の移り変わりや姿かたちを変えて生まれてくる清顕を探す役割を果たす。
第二巻では彼の存在はさらに大きくなり、控訴院判事となった彼の前に一人の少年が現れる。

春の雪で死んだ侯爵家の跡取り息子清顕は転生し、勲となっていた。
彼は清顕付きの書生であった飯沼の息子として生まれ、国を憂い変革を求める
志をもつ仲間とともに、天皇を守るためのクーデターを謀っていた。

明治政府に対する士族反乱を描いた著書『神風連史話』に憧れ、銃ではなく刃をもって
はじめた戦いはすぐに終わりを迎え、かねてからの憧れのとおり勲は自死を遂げる。

タイトルそのままにありあまる情熱と、もてあます力と若さの
行きつく先が死であったというのが哀しい。
しかし、彼がそのエネルギーを方向転換し、何かに向かっていけたかというと、
それは難しかったという気がする。

ひたすらに純粋で美しく哀しいのが『春の雪』、誰にも止められないほとばしる力を
自分自身に向けた切なさが『奔馬』と言えるだろう。
天皇への崇拝、国家への憂いは、後の三島由紀夫の運命を予感させる。
転生、自死となるとまるでベタなドラマのようになりそうなのだが、
決してそうではなく、凛々しく美しく昇華されているのがさすがだ。

きみはポラリス

2011-05-28 11:48:36 | 三浦しをん
三浦しをん 著

いまさらである。相当に恥ずかしい……。
なんかヘンだと思っていたようないないような。

三浦しをん、ずーっと“しおん”って書いてたよ。ごめんなさい。
しかも結構読んでる作家だっていうね……。


で、気を取り直して。
恋愛小説、とはいうものの、いろいろな立場の人たちの日常を切り取った
短編集だ。
11の小さな物語は、舞台も登場人物もさまざまで、恋愛とひとことでくくるのは
難しいほどだ。

でも三浦しをんらしい“毒”がところどころにちくりと効く。
ハッとする結末とか、ぐらりとくる心の動きとか、それはその物語それぞれに
違うところなのだけれど、決して甘くとろけるだけのストーリーに終わらせない。

個人的には「私たちがしたこと」が印象深かった。
サバサバとした雰囲気の女の子二人が、繊細なウェディングドレスのビーズを縫い
薄いベールに刺繍をする。そして、共通の暗い秘密を隠している。
なのに、別に罪におののくわけでも、恐怖におかしくなるわけでもない。
輝く白い布はビーズでずっしりと重みと光を増し、祝福の日がやってくるだけだ。
その淡々とした雰囲気がラストの「素敵な不毛だ」という言葉を彩る。

好き嫌いはあるだろうな。私は好きだ。

まんまこと

2011-05-27 10:39:01 | 畠中恵
畠中恵 著

まんまこと。 ほんとうのこと。真実。

しゃばけシリーズがとても楽しくて、続けて読んでいるが、
同じ時代ものでも、このような人間模様が描き出される作品も素晴らしい。

江戸・神田では古名主の玄関先がすなわち家庭裁判所のような役割をもっている。
小さなもめごとと困り果てた人々。
その難問に立ち向かうのが、やや頼りない跡取り息子。
それでもなんとか事件を解決に導き、その合間には恋模様もある。

当時の暮らしぶりがよく映し出され、歴史好きならそれだけで楽しい。
ありがちなもめ事も、現代のようにドライに解決とはいかず、
人情味あふれる解決をさぐるようすがほほえましい。

難問といえども、それは本人の思うところであり、実際はほんの少しの出来事が
こじれて困っているに過ぎない。そこを解きほぐす主人公には、ちょっと
尊敬できたり感心したり。傷つくひとは少なく、困る人は原因をなくし、
なるべくよかれと解決していく話は心が温かくなる感じ。

歴史だから……なんて避けている人ほどハマるかもな~という一冊です。