息をするように本を読む

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と、なんだかだらだら日常のことなども

「魔」の世界

2013-07-13 10:48:03 | 著者名 な行
那谷敏郎 著

光があるところ、必ず闇がある。
人間が神の存在を知ったとき、同時に魔も生まれた。

中国、ヒンドゥー、イスラム、ヨーロッパ。
世界各地で信じられたきた「魔」を紹介し、分析し、その違いや
共通点を書いた、とても興味深い作品だ。

たとえば蛇がどのように捉えられるのか。
メソポタミアのギルガメッシュ伝説では、人間に禍をもたらすもの。
エジプトのパピルス文書では、聖性と祝福のあかし。
ギリシア神話では原初の宇宙。
やがてはそれがさらに神聖化され、ドラゴン、龍へと変化していく。
遠く離れた地でありながら、どこか共通点があるこれらの伝説は
蛇を見た昔の人の想いを考えさせる。

「魔」の紹介書のようであるが、実は「魔」を切り口にした異文化分析。
現在のように多くの人々が長距離を行き来するわけではないから、
狭い世界の中、口伝え、噂は生き生きと命をもっていた。
似たような「魔」でも土地のカラーははっきりしている。
そんな文化の違いを読み取るのも楽しい。

ヨーロッパからアジアまで網羅して整理したこういう本はあまりない。
ちょっと駆け足になっているのが惜しいが、闇の世界に興味があるなら
読んで損はない、と思う。