息をするように本を読む

初めて読んだ本も、読み返した本も、
ジャンルも著者もおかまいなしの私的読書記録
と、なんだかだらだら日常のことなども

わが家への道

2012-09-12 10:55:14 | ローラ・インガルス・ワイルダー
ローラ・インガルス・ワイルダー 著

これまでの大草原シリーズとは文体も雰囲気も違う。
ローラとアルマンゾが日照り続きのダコタに見切りをつけ、
幼いローズを連れて新天地を目指す旅日記だからだ。

推敲された物語の楽しみがないかわりに、日常の細かいあれこれが
記録されており、興味深い。

加えてその旅の頃、一家がどんな状況にあったかをローズが
書いた文章がある。
インガルス家も決して裕福とは言えなかったが、結婚以来
豊作に恵まれず、家事や息子の死、病気とアルマンゾの後遺症など、
次々と困難に見舞われていたワイルダー家は困窮していたようだ。

ローラもお針子として朝から晩まで働き、100ドル貯めて移住の
準備金とした。子ども目線だったインガルス家の物語では
移住の費用などについてはあまり触れられなかったが、やはり
大変な賭けであったことがわかる。

写真で見た「大きな赤いりんごの土地」を目指し、馬車で旅をする一家。
途中で通った町の描写とともに当時の写真があって、イメージがふくらむ。
すでに一面の大草原という土地は少なかったのか、割合人の住む土地を
選んで進んだのか、インガルス家の旅ほどワイルドではないが、その厳しさは
十分にわかる。
たまに川遊びなどで休息の場面があるとほっとする。

とうとう手に入れたロッキーリッジで、一家は農場経営に成功する。
すべてを自力で行い、夫は体に麻痺が残るとあっては、ローラがどれだけ
働いたか想像に難くないが、それが出来た彼女だからこその成功だろう。
やがてその暮らしぶりを書いた文章が認められ、文筆家への道がひらけた
ローラだが、生涯をここで過ごし、幸せだったようだ。

生活のすべてが描かれているだけに、結構気が強いローラ、なあなあにしようと
しがちなアルマンゾの性格が現れているのも面白い。

農場の少年

2012-07-23 10:02:03 | ローラ・インガルス・ワイルダー
ローラ・インガルス・ワイルダー

昨日にひきつづき大草原シリーズ。
これは一冊だけローラの夫・アルマンゾを主人公にした作品だ。

ニューヨーク近郊のマローンに住む富裕な農家の末子として生まれたアルマンゾ。
厳しい寒さの中、学校へ向かうところから話がスタートする。

当時この地区は回り持ちで先生の宿をつとめていたらしい。そういえばローラも教師に
なったとき校区の家に下宿していた。そうでもしないと宿舎もないからなあ。
その日きょうだい4人と泊まる先生はワイルダー家へ帰宅する。
しかし、すぐに待っているのは家畜の世話や家事。
子どもたちは手分けして精いっぱい働く。
貧しくてもお金持ちでも当時は子どもが大切な働き手であったことがよくわかる。
豊かな暮らしぶりを実感するのはその食事だ。

香ばしく焼けた豚の脂身がのった「ベークド・ビーンズ」、塩漬けの豚、
ハムのグレービーをかけた粉ふきいも、ハム、やわらかいパン、
蕪のマッシュ、やわらかく煮込んだカボチャ、プラムのプリザーブ、
いちごジャム、ぶどうのジェリー、スイカの皮のピクルス、パンプキンパイ。

これでもかと登場する豊富なメニュー。量も“おなかがはちきれんばかり”。
塩漬け豚とパン、じゃがいもでどうにか食べつなぐ開拓地の生活とは
大きな違いがある。
この話はローラの夢の子ども時代を描いたものでもあるという説があるが
それもうなずける。

大家族を余裕をもって養い、貯蓄もしている父は、周囲からも尊敬される人物だ。
宿泊している先生が手を焼く悪童たちを追い払うアイディアも彼が出した。
そして誰よりも労働に価値を見出し、子どもたちにもそれを教えていた。

母も父に並ぶ驚くほどの働き者。羊の毛を染めるところからはじめ、布を織り裁断し、
家族の服をつくる。靴下を編み、保存食をつくり、合間につくるバターは高価で取引される。
姉たちも母に習った手仕事の達人。後にローラを教師として教えたイライザ・ジェインの
強引なお姉さんぶりや、男の子のようなところがあるアリスのキャラクターも
魅力的で楽しい。

兄ローヤルは教育を受けた結果、農業よりも商売をしたいと願うようになる。
両親としては複雑な思いだったようだ。
のちにアルマンゾとともに西部に行き、飼料店を営んだ彼だが、その糸口を
ここでつかんだのだろう。
農業や馬をとことん好きだった弟とは大きく違う。

豊かな暮らしを営むことは、それだけ仕事も多くなる。特に当時はそうだったんだなあ。
夜明けから日暮れまで休みなしの労働なんて私にはできそうにない。
砂糖と油脂がたっぷりの食事をたくさん食べていたのは理由があるのだ。
そしてそれすら十分用意できず働く人たちはもっと大変だったということ。

何より違うのは衛生観念かもしれない。
お金持ちのワイルダー家でも浴室はなく、冬でも行水、それも週一回。
洗濯だってこれだけ女手があって、しかもフル稼働でも週一回。
無理だ~。
っていうか、結婚ひとつとっても今とは意味が全く違うよね。
この時代の男一人暮らしなんて命の危機を感じるわ。

大草原の小さな家

2012-07-22 10:50:50 | ローラ・インガルス・ワイルダー
ローラ・インガルス・ワイルダー 著

シリーズ2番めの作品であり、シリーズタイトルともなっている。
大きな森の小さな家』を出て新天地を求めることになった一家。
まだ寒いある日、親戚たちに見送られて一家は旅立つ。

凍りついた湖を渡り、野原や掘立小屋でキャンプし、雨で足止めされて震えながら過ごすなど、
幼児二人と赤ちゃん連れにはあまりにも過酷な日々。
家財道具を幌馬車に積み込み、一番後ろにつくった小さなベッドにローラとメアリーが座り、
大きな大きな円天井の真ん中を、草を踏み分けながらただ進む。
しかし、この風景はあまりにも希望に満ちていて、一家の結束を感じさせる。そして
大切なものがぎゅっとひとつにまとまってここにある、という実感があって
子どもの頃いちばん憧れた風景でもあった。
一日の旅が終わってのキャンプの光景はほのぼのとして、パンと肉とコーヒーだけの貧しい食事も
親子の楽しい時間となる。たった一晩の滞在でも、あたりを片づけ、花を飾る心を教え、
膝のうえのトウモロコシパンだけの食事でも、マナーの大切さを教える両親の姿に、
誰が見ていなくても正しく生きることの美しさを教えられた。

ようやくたどり着いたところは先住民族の居住地。
近い将来ここも白人の開拓者に解放されるはず、という噂を信じての入植だった。
それだけ西へ向かう人が増え、恵まれた土地は残り少なくなっていたようだ。

丸太を切りだし、夫婦で積み重ねる。こんな重労働を当時の動きにくい服装の女性が
行ったのは驚きだが、やはり無理があったのか丸太を支えきれず、母・キャロラインは
けがをしてしまう。
人里離れた地でのけがや病気がどんなに怖かったか、想像にあまりある。
しかし、これがきっかけになり、長い縁となるエドワーズさんとの出会いがあった。
独身の彼はインガルス家を優先して、家を建てるのを手伝ってくれ、そののちも
なにくれと手を貸してくれる。

何よりも素晴らしいエピソードはクリスマスだ。
冷たい川を泳いで渡り、何十キロもの道を歩いてローラとメアリーのために
プレゼントを持ってくれたエドワーズさん。インガルス家ではずっとこの話が
語り継がれていくのだ。

先住民族との摩擦、家族全員がマラリア感染するなど、重い問題も多い。
結局努力を重ねた末に生活の基盤ができかけたところで、やはりこの土地は
原住民のために保護されることになる。
一家は去らなければならなかった。

何もかもがとことん自分の手で行われる生活の豊かさ。
その反面、厳しい自然条件や食生活で一度健康を害してしまうと、すべてが
たちゆかなくなる怖さ。

幼い子ども向けの本でありながら、さまざまなテーマをずっしりと伝える。

大草原の小さな町

2012-04-13 10:34:05 | ローラ・インガルス・ワイルダー
ローラ・インガルス・ワイルダー 著

長い冬』のあと『この楽しき日々』までの日々を綴る。

過酷な冬のあと、待ちに待った春がやってくる。
どんなに陽光を浴びても足りないほどにうれしく、菜園で育つ野菜のひとつひとつが
愛しく思える春の日々。
とはいっても、この年雪解けは5月にずれ込み、そのあとは長雨があったようなので、
通常の種まきや植え付けができたとは思えず、それなりに苦労は多かったと思う。

農地での暮らしに満足していたローラだが、シャツの縫製の仕事をもちかけられ、
内心はためらいながらも引き受ける。
わずかな賃金でももしかしたらメアリーが盲人大学にいくときの助けになるかも、
という思いからだ。
そして草原に薔薇が咲く6月を、ずっとうるさい町の中でシャツを縫って暮らす。
自分の役割やお金のこと、将来のことなどが目前になってくる。
教師の収入はお針子の何倍にもなる。そして母・キャロラインの夢はわが子のうち
誰かに教師になってもらうこと。
どうしてもローラは教師になるしかなかった。

ムクドリの来襲と言う思わぬ災難がふりかかったものの、家族の想いを込めた
手作りの服をもって、メアリーは大学へ行くことになる。当時ごく普通の子でも
教育を受けることは困難だったのに、目の見えない女の子を寮に入れてまで大学へ
行かせるというのは、大変に進歩的な考え方であったといえる。
それだけメアリーが勉強好きだというのもあったろうし、大変な苦しみを背負った子に
せめて精いっぱいのことをしたいという家族の愛情のあらわれでもある。

前年の経験からたっぷりと食料と燃料を蓄えた町の人々は、万全の態勢で冬を迎える。
そしてローラは町の学校に通い始める。
アルマンゾの姉・イライザ・ジェーンが教師であったが、彼女との間には
誤解と行き違いが絶えず、ローラにとって初めての人間関係のトラブルになる。

誰もいない大草原に生まれた小さな町は、ほんの3年ほどで急成長し人口が激増した。
ローラ自身も大変な変化と自身の成長の節目を迎えている。
これまでほとんどの時期を僻地で暮らしていたのに、町で働くことや
他人の暮らしぶりを近くで見ること、長期で親のいない家の留守を守ること、
自然災害の恐怖、そして大人数の学校に通うこと、人間関係。
そして自分の進むべき道を探すこと。これは大変なことだったと思う。

どこを読んでもとても読み応えがある物語だが、やはり好きなのは冒頭の
春の農地の描写。のどかで幸せに満ちている。

そして、猛暑の仮小屋でメアリーのために一番上等の冬服を縫う場面。
どこに出ても恥ずかしくないようにと心を込めて針を進める姿は、愛情表現
そのものだ。

この楽しき日々

2012-04-02 10:38:40 | ローラ・インガルス・ワイルダー
ローラ・インガルス・ワイルダー 著

春だなあ……というわけで、「大草原の小さな家」シリーズの青春版。
ローラの初めての就職の物語でもある。

こんなタイトルであるが冒頭は緊張感と酷寒の中から始まる。
15歳で教師の試験に合格し、辺鄙な土地にある学校への赴任が決まった
ローラ。厳冬の時期、通勤どころか週末の帰省すらあやういほどの地で
まったく知らない家に下宿しての勤務となる。

馬ぞりでローラを送る道々、父・チャールズは助言と励ましをくれるが、
そもそもローラ自身、盲目の姉・メアリーの学費を助けること以外、
教師への意欲は少なかったし、人が少ない僻地で育ったこともあり、
知らない人へと恐怖感は大きかった。その状態での就職はとてつもなく
気が重かっただろう。

下宿先のブルースター家は夫婦と小さな男児の3人家族。しかしまさに
掘立小屋そのもので、プライバシーも何もあったものではない。
ただ、カーテンを引きまわした長椅子が自分のスペースだ。
校舎も開拓を断念した掘立小屋の再利用だし、生徒たちの家はもっと
大人数で狭いらしい。
この状態でも助け合ってわが子に教育を、と願った親たちには
尊敬の念を抱く。
しかし、ブルースター家の妻はこの下宿には反対であったらしく、
ローラはつらい思いをする。

学期の間中帰省できない覚悟を決めていたローラだが、週末ごとに
危険を冒してアルマンゾが送り迎えをしてくれる。
大寒波がやってきて命に危険があるような日もそれは変わりなかった。
ローラのホームシックも仕事の大変さもそれとなく理解している彼に
対し、少しずつ信頼が芽生えていく。
恋も結婚もまだ興味がなかったローラだが、任期を終えたあとの
そり遊びへの誘いは素直に受け入れ、交際が始まっていく。

アルマンゾはローラより10歳も年上だったらしいので(物語では
違う設定)、おしつけがましくないアプローチはうまかったのかなあ。
現代の目線でみるともどかしいようなお付き合いであるが、
ゆっくり愛情を育てやがて結婚へ至る日々はまさに“楽しき”日々だ。
何があるわけでない田舎町だけれど、馬車でドライブし、野葡萄をつみ、
夕陽を眺める。共有する時間の豊かさに驚く。

ところで「歌の学校」をあえて夜開催していたのって、こんな出会いを
つくる意味もあったのかな? 日中は農作業や家事で忙しくて時間も
とれないだろうし、夜にゆっくり若者たちが集う機会をつくっていたとか。
深読みしすぎ?
でもとても楽しそうだったな。