息をするように本を読む

初めて読んだ本も、読み返した本も、
ジャンルも著者もおかまいなしの私的読書記録
と、なんだかだらだら日常のことなども

野の白鳥

2013-06-30 10:07:17 | 著者名 あ行
ハンス・クリスチャン・アンデルセン 著

アンデルセンの物語はとてもよく知られているようでいて、
実はマイナーなものも多い、と思う。

本が大好きな子どもだった頃、手当たり次第に読んだ童話は、
妙な記憶の断片となって、頭の中にばらまかれている。
未熟な分類・検索機能では処理しきれなかった情報なんだけど、
記憶容量だけは余裕があったので、とりあえず格納しておきました、的な。

そして何かの折にその断片がちらりと顔を覗かせて、「あれって何?」
「もう一回読みたいのにわからな~い」という欲求がわいてくるのだ。

このブログを書くようになって、過去に読んだ本を読み返したり、
整理したりする機会が増えた。
それとともにあちこちの断片たちがしかるべきところに収まってみたり、
つながってみたりもするようになった。

この断片たちの特徴は、そのときの私にとってちょっと遠い存在であったということ。
知らない食べ物、欧風の暮らし、聞きなれない植物の名前、たくさんの雪と氷。
頭に浮かぶ映像はそのときの私の最大限の想像力から生まれたものだ。

これは継母によって白鳥に姿を変えられた11人の王子と、兄たちを救いたいと
願った王女エリサの物語だ。
王女の姿を汚すために使われたくるみの汁。澄んだ湖。網に包まれた空の旅。
兄たちのためにとげのあるイラクサで糸を紡ぎ、帷子を編む王女。
イラクサが生える暗い墓地。
それもこれも鮮やかに心に残っている言葉、そして心に浮かぶ絵。

話自体はよくありそうなものだけれど、こんな背景と言葉によって、
美しい北の国のイメージとなった。
そして、これを書こうと思い出すまで、私はこれがアンデルセンであることを
忘れていたのだ。

捜査官ケイト 愚か者の町

2013-06-29 10:35:51 | 著者名 か行
ローリー・キング 著

ホームレスが殺された。そして仲間により火葬されていた。
容疑者は“愚者(フール)”は言葉をもたない男。
彼の口からはシェイクスピアの一文や、聖書の引用しか出てこない。
彼は尊敬され、大切にされている。

女性捜査官ケイト・マーティネリは、トラブルから仕事に復帰したばかり。
コンビを組むホーキンとともに捜査を始める。

同性愛者であるケイトを始め、登場人物が実に丁寧に描かれている。
そして背景となるキリスト教の考え方や、警察の捜査方法なども
しっかりとした裏付けのもとに書かれていることがわかる。

なので、どんどんひき込まれていくのだ。
そして、日本の刑事ドラマなどでありがちな仕事のありかたとの違いも感じる。

“愚者”には宗教的背景がある。これは日本人にはわかりにくい感覚だ。
しかし、彼が背負うものの大きさ、その苦しみは伝わってくる。
事件の捜査だけではなく、そこにまつわるさまざまなものが重いのだ。
姿を消した“愚者”はバークレーの神学大学院ユニオンにいた。聖職者エラスムスとして。
どちらが本当の顔か。

解決したからすっきり、というわけにはいかない、ずしんと心に残る事件だ。
読み応えがあり、シリーズを追いかけていきたい、と思わせる。

催眠

2013-06-28 10:44:39 | 著者名 ま行
松岡圭祐 著

小説デビューとなった本書は話題のミリオンセラーとなり、映画化もされた。

主人公は怪しげな催眠術師・実相寺。
巨大な緑の猿み催眠術をかけられている、と主張し、自分は宇宙人だと言い張る
女性・入江由香と出会い、その読心能力を商売にしようと思い立つ。
原宿の「占いの城」で、由香は人気を集めていく。

しかし、そんな中、不審な男が連日のように「占いの城」を訪れるようになった。
彼は「東京カウンセリング心理センター」の催眠療法課課長・嵯峨敏也。
由香を多重人格ではないかと疑い、身辺を探り始めた。
そして由香のことを見張るひとりの男に気がつく。

精神医学、カウンセリングなどの場面で起こる信じられないような出来事を、
冷静に分析し、医学的見地から説明する。
この淡々とした感じは非常に面白い。

サイコホラーなのか、とか荒唐無稽だとか、読む前に頭にあったあれこれは、
すっかりなくなって、どんどん引き込まれていく。
これはシリーズがヒットしているのもわかるわ。

催眠術師として活動していたこともあるという著者だけに、エンターテインメントと
医学の違いをはっきりと区別していて安心して読める。
結構古いのにそれを感じさせないのもさすが。

スペイン子連れ留学

2013-06-27 10:39:53 | 著者名 か行
小西章子 著

あったあった!
スペインつながりの本を読んでいて、ああ、あれが読みたいと思い出したのだ。
初めて読んだのは高校生の時。
ガウディを知り、スペインという国に興味をもったとき、学校の図書館で見つけたのだ。

いまではそう珍しいことでもない子連れ留学であるが、これは1974~1975年の話。
身一つで苦労する覚悟の学生でも、十分留学のハードルが高かった時代だ。

もちろん著者自身は、アメリカ、カナダに留学経験がある才女であり、
それなりに留学とはどんなものかを理解していた。
それにしたってすごいでしょ。
子どもは3人。7歳、4歳、2歳。パパは日本でお留守番である。
この時代にこの発想からしてただものではない。

当然ながら幼児を家に置き去りにはできないので、ベビーシッターの女子大生が同伴した。
留学生活は、自分の勉強に専念できるどころか、あらゆる雑多な問題を背負い込み、
怒涛の日々となる。
その反面、単身の学生であれば決して知ることのなかった、子どもを通じての情報が
どんどん流れ込んでくる。
小学校の制度、給食(ジャガイモのオムレツに関わるエピソードが微笑ましい)、
子どもならではの地域への溶け込み方などは、すごいなあと思う。

そして時代背景も緊張している。ちょうどフランコ政権終焉のときで、スペインの節目とも
言える頃。のんきな日本にいるように安穏とはしていられなかったであろう。

ほがらかに前向きに進む著者であるが、子どもを連れて行くにあたって、実に慎重な
下調べがされている。インターネットもなかった時代、大変だったと思う。
そして、この留学によって得たもので、自身のキャリアを不動のものにしている。
しっかりと結果を出しているのだ。
行き当たりばったりでも楽しい旅は出来るかもしれないけれど、なにかを成し遂げようとする
人は、こういうところが違うのだなあと、楽しく読みつつも考えさせられた。

バルセロナの厨房から

2013-06-26 10:42:22 | 著者名 た行
高森敏明 著

スペインってなんだか惹かれる国だ。
とくにバルセロナは、スペインとひとくくりにできない個性の強さと、
ガウディの存在によって、一度は行ってみたい場所となっている。

まあ、ダラなのでなかなか実行にいたらずこの年になっているわけだが。

そして、スペインに行った人は必ず「美味しかった」と言う。
オリーブオイルが苦手という人以外だが。
ある知人は留学したことで10キロ太ったという。
これは量にも問題があると語っていた。

著者は吉祥寺で店を営むスペイン料理のシェフ。
本場での修行時代にであったさまざまな食事情を語る。
それは食事への考え方や時間であったり、食材であったり、店の種類であったり、
これからスペインへ行こうとする人、スペインが好きな人、
スペイン料理を食べたい人、誰にでも楽しめる内容だ。

どうしてもパエリャ、トルティーヤそしてサングリアが思い浮かぶスペイン料理。
しかしこれらは観光用の店でない限り、そう見かけるものではないという。
意外。
オリーブやトマト、魚介類など、地元の食材を使った料理の数々は
おしゃれでそれでいて庶民の心に沿ったものばかり。
乾いたスペインの土地と暮らしにぴったりというのがよくわかる。

やっぱり一度は行ってみたいなあ。
でも、旅行中の食事って案外難しいよね。誰かいないと。
と、つらつら考えながら、遠い実行の日を夢見てみる。