息をするように本を読む

初めて読んだ本も、読み返した本も、
ジャンルも著者もおかまいなしの私的読書記録
と、なんだかだらだら日常のことなども

秘帖・源氏物語 翁‐OKINA

2015-01-13 12:38:08 | 著者名 や行
夢枕獏 著

『源氏物語』を夢枕獏が描く……幻想的で美しく、妖しげではかない。
予想はしていてものの想像以上の世界だった。

まあしいて言うならば光の君は『陰陽師』の清明のキャラにかぶる。
いや美しく知識が豊富で、つかみどころがなく魅力に満ちた男……
となると、似てくるのも仕方がないかもしれない。

妻・葵の上にとりついたもののけを祓おうとするも、普通の陰陽師では
手に負えず、ついに怪しげな外法をあやつる陰陽師・蘆屋道満を
呼び寄せた光の君。

なにものかによって「獣の首」「黄金の盃」異国を思わせる謎かけをする
葵の上。その答えが彼女を救う鍵になりそうだが、誰にもわからない。

ドラマティックな話でありながら、つねに静かな水面を見ているような
ゆらぎのない落ち着きがあるのは光の君の描写のせいか。

人の行き来もままならないような遠い昔にも、宗教や文化は伝わり
流れあっていたのだなあということを改めて思い起こした。


ザビエルの首

2014-12-16 10:18:01 | 著者名 や行
柳広司 著

日本にキリスト教を伝えたといわれるフランシスコ・ザビエル。
彼の首が鹿児島県で発見されたという報告が入った。
どう考えても怪しさいっぱいのこの情報を調べるべく、
雑誌記者・修平は現地へ向かった。

ザビエルの首と対面した瞬間、修平に異常が起こる。
彼の意識はザビエルに同調し時空を超えた。

ありがちなタイムトリップものなのだが、ザビエルの周辺の人の
肉体に入り込み視点を共有することで、違和感がなくかつ冷静な
傍観者となる。
またそれが時代を徐々にさかのぼって4回にも及ぶために、読者は
ザビエルの生涯を少しずつ理解していくことになる。
タイムトリップの終わりのほうになると、乗り移った人物よりも
修平の意識のほうが強くなり、そこで起こった殺人事件を解決し、
修平の言葉で説明する。

修平はその明晰な頭脳で多くのことに気づき、斬新な分析を
加えていく。その過程はとても面白い。
時代考証もよくされている。
ただ、宗教観に関してはもうひとつかな。
ザビエルは聖人だ。もう少しそのあたりの感覚を掘り下げたら、
重みのある作品になったような気がする。

犬はどこだ

2014-11-27 14:57:15 | 著者名 や行
米澤穂信 著

東京での仕事を病気で断念した紺屋は、故郷の町で犬さがし専門の調査事務所
「紺屋S&R」を開設した。
幸先よく初日から依頼者が現れたが、なぜかそれは人探しだった。
間をおかず、次に現れた顧客からは古文書の解読を依頼される。
押しかけ従業員のハンペーに古文書の件を託し、人探しに走り回る紺屋。
しかし、これは単純なものではないことがわかってくる。

小さな町だけに、ささやかなことも関係してくるのがリアル。
そして誰が何をしているか、すぐにバレバレになってしまうのも。

いいかげんなコンビに見えるのだが、なかなかに仕事の能力は高い。
また、ブレーンであるネット仲間も優秀だ。

失踪していた女性は、ストーカーから逃れるためであったことがわかり、
そこに古文書に描かれた情報が絡んでいたことが判明したとき、
紺屋は新たな事件を発生させないために走る。


しかし、時は遅かった。
初めての依頼は終了し、そして紺屋は刃物を携帯するようになった。

何とも後味の悪い、そしてせつない結末だ。

おしゃれステーショナリーのつくり方

2014-10-03 10:07:55 | 著者名 や行
矢崎順子 著

身近な小物は使いやすいのがいちばんなのであるが、それでいて
他人の目に触れることも多いから、みかけもいいにこしたことはない。

買ってきたほうが早いに決まっているのだが、どんなに手間がかかっても
自分でやってみたい派というのが一定数いるのだ。
はい、私もです。

そんな一定数にはたまらない一冊。いや、そんなのめんどくさいという人にも
かわいいもの好きなら見るだけで楽しい。
何しろそのへんにありそうなものでできるのがいい。
実際に作ったことがあるものもあったりして、センスがいい人がやると
こうなるんだなあという参考にもなる。

しかし、やや内容が薄いかな?
絵本感覚では十分楽しめるのだけれど、自分でつくることを前提にすると
もう少し応用デザインがあればいいのになあと思った。
贅沢か?

天皇家の健康食

2014-07-20 10:15:33 | 著者名 や行
横田哲治 著

「御料牧場」という言葉は時々耳にする。
皇族方の食事を調達するところ、という漠然とした知識はあったのだが、
今回はオーガニックを調べていてこの言葉に出会った。

御料牧場とは明治の食医・石塚左玄の「食養生」の思想をもとにつくられ、
完全有機農法を行っている日本有数の農場だったのだ。

最高の環境で十分手をかけて育てた野菜や動物を、新鮮なうちに
シンプルな調理法で食べる、という究極の贅沢がここにある。
天皇家の食事は塩分控えめで健康的である、ということは聞いたことがあるが、
それはこんな食材があってこそ実現しているのだ。
安く大量につくられた材料にさまざまな添加物や工程を加えてつくる
ジャンクフードの対極ともいえる。

興味深かったのは、伊勢神宮の「神田」「御園」だ。
有機栽培でコメをつくり、原始的な方法で火をおこし、調理して神に捧げる、
という伝統が脈々と守られているという。
それは古いものを伝えるという素晴らしさのみならず、日本人の原点を残す
という意味でも、その方法でコメをつくることがまだ可能だという証明としても
大切な役割を果たしていると思う。

気になることはなんとなくブレがあること。
いくつかの健康法や考え方がミックスされて、どっちつかずになっている。
あるいはまとめ方がそう取れるかたちになっている。
とてもよいことが書かれているだけに、そんな読みづらさが残念。