息をするように本を読む

初めて読んだ本も、読み返した本も、
ジャンルも著者もおかまいなしの私的読書記録
と、なんだかだらだら日常のことなども

ブック・ジャングル

2015-01-23 10:57:12 | 石持浅海
石持浅海 著

閉鎖されることになった市立図書館に、5人の男女が集まった。
図書館職員を父に持つ百合香は、思い出の本を貰い受けるために
友人ふたりとともに忍び込んだ。
しばらく日本を離れていた沖田は、友人とともに一夜の思い出に
浸るために忍び込んだ。
面識のない二組は、突然襲い掛かるラジコンヘリから身を守るために
ともに戦う羽目に陥る。

図書館は大好きだ。本棚の森の中、足音を忍ばせながら目的の本を
探すのは至福の時。時間を忘れて過ごしてしまう。
なので、どうも現実味はいまいち。
ラジコンについては知らないが、こんなに緻密な操縦が可能なものなの?

まあそこらへんは置いておいて、密室の中でどこから襲ってくるとも
知れない敵と戦うスピーディな物語だ。
息つく間もなくどんどん追い込まれ、何とか生き延びるために
頭をフル回転させる。

犯人は意外であり、またそれは残酷な事実でもある。
夜が明け、戦いが一段落したところで幕が下りるが、
その先の物語を考えると、少し切ない。

この国。

2013-10-06 19:59:10 | 石持浅海
石持浅海 著

一党独裁の管理国家“この国”。
あきらかに現実の国をモデルにした皮肉の効いた短編集だ。

これが本当によくできている。
個人として考えるなら、さまざまな問題がありそうな“この国”であるが、
あらゆるバランスを考えると実に素晴らしい。
しかしそれを実現するためには、強大な権力をもつ治安警察の存在が必須であり、
そこには切れ者が集まることとなる。

番匠はまさにその代表と言える。
彼の視点から語られる“この国”のさまざまな顔は、驚きと怖れと、そして
あきらめを表現している。

12歳で将来が決まる、とか。今でも都市部では近いものがあるのではないの?
中学受験である程度ふるいはあるし、驚く程かなあと思った。
公的な売春なんか、なさそうでありそうなのが現実であろうし、
軍隊のぼや~んとした姿もありそうだ。それよりも公開処刑は衝撃的。
これが娯楽になる日が来たら、価値観は根本から覆るだろう。

それにしても、表現力が秀逸。とても面白く読んだ。
そう、ある意味ぞっとしながら。

心臓と左手 座間味くんの推理

2013-04-05 10:24:43 | 石持浅海
石持浅海 著

警視庁の大迫警視が仕事でかかわった事件について語り、
かつて“あのハイジャック事件”で活躍した“座間味くん”が
そこに思いもかけない解説を加える短編集。

大迫は現職なので、いま動いている事件ではなく、同僚から聞いた話や
過去に起こった事件がテーマになる。
だから、座間味くんの推理が直接犯人逮捕につながるわけではないが、
そこに新たな視点が加わり、思いもかけない解決の糸口が見える。

しかしあくまでも世間話テイスト。わかっていてもそのままにすることもあり、
そこは関係者の感情や周囲の状況に応じて、という感じだ。

男ふたり書店で待ち合わせし、美味しい肴を食べ酒を飲む。
これがとてつもなく楽しそうでうらやましい。
頻繁に会うわけでも、年齢が近いわけでもなく、仕事上の関係もない。
しかし頭の回転の速さや正義感は共通するものが多く、絶妙な組み合わせ。
切れるってこんなことなんだなあと思う。

最終話の「再会」は、大迫と座間味くんの出会いのきっかけとなった
“あのハイジャック事件”の続編となる。
人質だった幼児が11年後に抱える問題の重さ、事件の影の暗さはつらい。
しかし、それを乗り越えて自らの将来を切り開こうとする姿は頼もしい。
人間の弱さや強さってなんだろうということを改めて考えた。

BG、あるいは死せるカイニス

2012-10-07 10:07:45 | 石持浅海
石持浅海 著

全ての人間が女性である社会。
出産を経て男性化するのが通常だが、これは一部の選ばれし存在だ。
主人公・遥の姉優子は、男性候補の筆頭といわれる優秀な生徒だった。
しかし流星群の夜、天文部の観測に出かけたはずの学校で殺される。
しかもレイプ未遂の形跡を残して。

男性が極端に少ないこの世界において、女性がレイプされることは
考えられない。謎が謎を呼ぶ中、優子の後継者とも言われる現・天文部長の
小百合が殺害された。

トンデモな設定に見えるが、きちんとした構成なのでそんなに違和感はない。
ただ、ちゃんと頭に入れて読まないと何がなんだかわからなくなる可能性はある。

天文部の部員たちに語られる都市伝説「BG」は優子が残した言葉でもある。
その正体は誰にもわからず、ただ飛び抜けて優秀な男性を指すことだけが
暗示されている。

国家がからむ研究にまで話は広がり、男性化は自然におこる単純なものだけでは
ないことがわかってくる。

男性は優秀なもの、という思い込みがこの世界に広がっているのだが、
そこにはそう思い込ませて保護し、利用するという政治的な目論見が透ける。
子孫繁栄のため、給与を上げ暇な部署に異動させる。
いいことばかりのようだが、その反面で仕事でのチャンスや、人間的な成長の
機会は奪われる。
役割分担が違う意味で機能しているのだ。これって皮肉だよなあ。

目線を変えることで、まったく違うものを見せてくれる物語だ。

セリヌンティウスの舟

2012-06-23 10:23:33 | 石持浅海
石持浅海 著

石垣島でのダイビングツアー。
大しけの中でお互いの体をつなぎあい、命を取り留めた仲間たちは
だれよりも強い友情で結びついているはずだった。

メンバーの一人・美月が自殺した。ダイビングの打ち上げの夜、青酸カリを
飲んだのだ。友人たちが寝ているすぐそばで。
しかし、即死をもたらしたはずのそのビンは口がきちんと閉められていた。

本当に美月は自殺だったのか。そうでなければいったい誰が手をくだしたのか。
遺された5人の間に生まれた疑心暗鬼。
マンションの一部屋を舞台に謎解きが始まる。

友情や性善説がさきにあるので、なんだか疑うのが心苦しい。
そんなところからのスタートだけに、さぐりさぐりのストーリーはテンポが遅い。
美月がうつぶせに倒れていたこと、ビンが転がっていたこと。
小さな出来事を思い出しながら、その理由や根拠を探す。

ディスカッションを重ねていくにつれ、それぞれのキャラクターが明確に
浮き彫りにされていくのも面白い。その過程を楽しむ作品ともいえる。

ずーっと引っ張っていった割にはラストはあっさりなのが個人的には残念。
ここは好みが分かれそうだ。