息をするように本を読む

初めて読んだ本も、読み返した本も、
ジャンルも著者もおかまいなしの私的読書記録
と、なんだかだらだら日常のことなども

アジアもののけ島めぐり─妖怪と暮らす人々を訪ねて

2013-07-26 10:05:51 | 著者名 は行
林巧 著

アジアの島々には数え切れないくらいもののけがいる。
その不思議な力や恵みについては聞いたことがあるし、
今も受け継がれる生活習慣の根拠には、このもののけたちが関係していることも多い。

すっかり効率化された日本の都会暮らしからは信じられないほどに、
もののけたちは恐れられ、大切にされ、ともに暮らしている。
いや、日本だって地方にはたくさんそんなところがあるわけだが、
本書に登場するほどにはオープンにならず(できず?)慎ましやかに存在している。

その例外が琉球(沖縄)らしい。
アジアの島々とともに紹介される沖縄の話は、『怪』ファンの私には大変面白い。

それにしても南の海に散らされ、浮かんだ島々はそれだけで美しい。
その点々とした島ひとつひとつにこんな話があるなんて、なんと素敵なのだろう。

そう思って読むと、バリに移住し、そこでもののけたちと出会った女性の
エピソードはとても興味深い。
移住はどこへ行くにもそれなりに大変だが、こんな独自のルールを知らずに
もののけの怒りを買ったのではたまらない。
郷に行っては郷に従えって、実はこういうことなのかも?

まったく実行力と行動力に欠ける私がこんな島めぐりを実現することは
ないだろうが、ちょっと行ってみたくなってしまったのは本当だ。

このベッドのうえ

2013-07-25 10:32:22 | 著者名 な行
野中柊 著

さらっと読めて読後感もさわやかな短編集。
ふわふわと消えてしまうはかない雰囲気ではあるけれど
女性の心の動きが細やかに描写されている。

そしてどの作品にもお酒が登場する。
それは手づくりの柘榴酒であったり、ワインであったり、
ミントジュレップであったり、マティーニであったり。
エピソードにぴったりと合うお酒は、さらにイメージをふくらませてくれる。
そして少し大人の雰囲気も醸し出す。

勢いで進むだけでは物足りない恋愛。
それはいつも叶うわけではないけれど、人生を美しく彩ることを
彼女たちは知っている。

季節感の表現がとてもじょうずで、いつの間にか自分のその中に入り込んでしまう。
そして折々に登場する食べ物がとても魅力的。
つられてお腹まですいてしまう。

何かがしっかりと残る、という作品ではないが、
心地よい時間と、穏やかな気持ちは残りそう。

大江戸あやかし犯科帳 雷獣びりびり

2013-07-24 10:25:16 | 著者名 た行
高橋由太 著

本所深川、といっても現代とは違い江戸のはずれ。
夕暮れともなれば人気も少なく、静かな場所となる。
それなのに晴れた日でも雷が鳴るとは?

江戸には妖怪改方(ようかいあらためかた)があり、数多いあやかしたちから
民を守ることになっているのだが。
平和な時代が訪れるとそんな体裁は失われ、強いものほど疎まれる。
妖怪改方はいつか深川の地に追いやられ、それに耐えられない志をもつものは
去っていった。

かつて妖怪改方長官をつとめ、最強であった筧三十郎の死が決定打となった。
筧の妻子は深川でうまいと評判の飯屋を営み、筧の血筋か有能な統子は幼いながら
雷獣とともに母を助けている。
その筧に育てられ、統子の許嫁とされている冬坂刀弥は妖怪改方の同心となったが
実力はまだまだ、あやかしたちに翻弄されるありさま。
妖怪改方に新たな長官・夜ノ介が赴任したことで、ゆるい役人体質そのものの
妖怪改方にも変化が生まれてくる。

耳慣れた妖怪の名前と江戸の町。
まるで手に取るように浮かんできてとても楽しい。
そこここに闊歩する妖怪変化も個性的であり、やる気があるのかないのか
それでいていつの間にか解決へと進む夜ノ介の有能ぶりもすごい。
キャラクターがそれぞれしっかりとしていて、生き生きと動く。
軽快なテンポに釣り込まれどんどん読めていく。

う~んこれははまりそう。
シリーズを読んでしまう自信あり。

ふちなしのかがみ

2013-07-23 10:12:12 | 著者名 た行
辻村深月 著

ちょっとゾクリとする短編集。
舞台はすぐそこにある日常。
普通の家族に起こること、起こりそうな事の中に潜んでいる恐怖が描かれていく。

しかし決して子ども騙しではない。
しっかりとした構成と文章でじっくり楽しませてくれる。
暮らしの中に潜んだタブーや言い伝えを上手に利用し、そこに狂気が加わって
ありえない出来事へとつながっていくのだ。

ただ起承転結を求めてしまうと苦しい作品もある。
たとえば「おとうさんしたいがあるよ」なんて、どこまでが主人公の頭の中なのか
現実なのか、幻なのか、わからないままに終了する。
その非日常感まで楽しめるとハマるのであるが、結局なに?という疑問でいっぱいに
なる人も多そうだ。
それから「ブランコをこぐ足」もちょっとその傾向があるかも。

個人的には「八月の天変地異」が好き。
少年たちの友情と嘘。それをなんとか現実にしようという焦り。
そんな心の動きと成長が、真夏の田舎を舞台にいきいきと描かれている。
なんともせつなく哀しい物語でもある。

そして「踊り場の花子さん」。
学校を舞台にしながらも、教育実習生を重要人物として扱うことで、
深刻な内容をとてもうまくまとめている。
悲惨で救いのない話なのだが、学校の七不思議をキーに謎がとけていく。

好みは分かれるだろうが当たり外れはあまりないなと思った。

ドッペルゲンガー奇譚集 ―死を招く影―

2013-07-22 10:36:32 | 書籍・雑誌
阿刀田高ほか

これもアンソロジー。
ひとつ読み返すと、また読みたくなってしまうんだよなあ。

ドッペルゲンガー、ドイツ語のdoppelganger、もうひとりの自分自身や
分身などのことで、それを見た者は死ぬなどという伝説もある。

一番テーマらしい感じで始まったのは赤川次郎「忘れられた姉妹」。
自分が知らないところで悪評がたち、実は自分は双子だったことがわかったが、
もうひとりは亡くなっていて……と、畳み掛けるように進んでいく。
もちろんそこから話は展開して行くのだが、途中までのセオリー感が、
幼い頃からもっていた「ドッペルゲンガー」のイメージまんまだったのだ。

やはり私自身は増田みず子「分身」とか小池真理子「ディオリッシモ」とかの
異空間へ行ってしまう系が好きだ。
「分身」の舞台となる故郷の洞窟やそこにある石仏なんて、すぐにでも見に行きたい。
今の季節いいだろうなあ。ノスタルジックな夏。
いやいや怖いから行きませんけどね。イメージはいいよねえ。

「ディオリッシモ」は仕事で疲れて乗った電車がいつの間にか異世界へという、
感情はリアル、現象は非現実的というのがとても好みの舞台設定だ。
すごく忙しい日が続くと、心だけどこかに逃げ出しそうになったりするよね。
電車にただ身を任せていたら、なんか違う!ええ?って。
起こらないんだけど起こりそうというか。起こるといいなというか。
いまやそういう働き方から離れてしまったから、よけいにあの感覚が蘇る。

今の自分自身についていろいろ考えているのかなあ。
こういうものを読むって事自体が。
なぜか落ち込む今日である。