息をするように本を読む

初めて読んだ本も、読み返した本も、
ジャンルも著者もおかまいなしの私的読書記録
と、なんだかだらだら日常のことなども

こいわすれ

2015-01-09 10:17:25 | 畠中恵
畠中恵 著

まんまことシリーズ第三弾はせつなくほろにがく終わった。

江戸を舞台にほのぼのと語られる物語だが、人間の気持ちはいつも変わらない。
やきもちとか、失った子への忘れられない想いとか、富くじにまつわる狂騒曲とか。
江戸町名主とは近隣で起こるさまざまなもめごとを解決する役目。
その玄関では非があるものもないものも、関係者が集められ、決断がくだされる。
それは悲喜こもごもなのだが、そこに出てくる人物たちはしいて言うなら、
現代よりも素直で周囲に乱されないという感じがする。
きっと今では忘れられた矜持とか、そんなものがあるのだろう。

幼馴染3人組のドタバタ劇は健在なのだが、それぞれに成長し役目をもち、
そして家庭をもつようになった。
自分だけではなく守るべきものをもった男たちは、とてつもなく強く、
その一方で果てしなく弱くなる。
それがひとつの終わりを迎えてしまったのが今回の物語。
江戸時代、そんな悲しみはきっといまよりもずっと身近にあったのだろう。



やなりいなり

2013-12-16 11:12:34 | 畠中恵
畠中恵 著

あやかしと暮らす若旦那シリーズ。
今回はおいしいものがたくさん出てきてお腹がすく。
章ごとにレシピが掲載されているのだ!
当時はものすごく贅沢であっただろう卵とか砂糖などが、
長崎屋の財力を見せつけるかのようにふんだんに使われる。
そしてあやかしたちは食べ物に絵を描くことを好むため、
キャラ弁ではないが、なにやら可愛らしい楽しいものになっている。
しかしながら若旦那はやっぱり病弱で、おおかたを鳴家のつまみ食いで
奪われてしまうのはいつものこと。

若旦那はもともと賢い。だから店のものや友人たち、あやかしたちとの
関係の中で、成長しもまれてもいる。
しかし、なにしろ体が弱いので、兄やたちにひたすらかばわれることになり、
思うように動けないもどかしさがある。
今回、生霊をテーマにした作品が二つもあったことはだからなのかな、と
思った。

それでいて物語自体はちょっと浅い。
江戸という舞台も、あやかしという存在も生かしきれていないかなあ。
シリーズも長くなると辛いのは分かる。なんと10周年とか!
でもこうやってずうっと追っかけて読んでしまう人もそれだけいるのだ。
せっかくだからペースを落としながら、じっくり書き続けてもらいたいなあ。

ちょちょら

2013-09-18 10:48:31 | 畠中恵
畠中恵 著

ビジネス小説だ。下手なノウハウ本よりもすごい。
舞台は江戸時代であるがどう仕事をしていくか、どう自分の藩を有利にもっていくか、
そのための捨て金、接待、人脈などなどを駆使し、自分自身の能力を磨く。
そこにはお役の先輩があり、上司がいる。

現代よりもさらに賄賂や付け届けが堂々とまかり通るだけに大変だ。
金がなければ身動きはならず、かといって金があればよいというものでもない。
生きた金を使い、最大の利益をもたらすために各藩には江戸留守居役という役職があった。

兄の急死、留守居役の出奔という事件があり、まるで棚からぼた餅のように
主人公・間野新之助は部屋済みから役付となった。
彼は兄の死の真実、先輩留守居役であり、かつあこがれの女性そして兄の婚約者であった
千穂の父の行方を追うため、役目に立ち向かうが、そこには想像を絶する難問があった。

他藩とはいえ、組合を同じくする留守居役の先輩たちが、新之助を鍛えるさまには
企業の新人研修のような愛情と厳しさが感じられる。
遊びまでもものにしなければ、相手より優位にたつのは難しい。
これは将軍の妻になった『天璋院篤姫』でも出てきたなあ。

数多く登場する侍たちもそれぞれに魅力的。ことに美丈夫で遊びにも長けた岩崎には
新之助はまったく頭があがらない。

と、思いきやお手伝い普請という高額の出費から逃げるために知恵を絞り、考えられない
方法で目標を遂げた新之助。その成長と活躍はすがすがしいほどだ。

舞台も環境も異にしても、仕事に取り組む真摯さは共通。
いま、ビジネスというにはのんびりすぎるところに身を置いている私には
面白くて夢中になりながらもやや辛いものがあった。

つくも神さん、お茶ください

2012-12-11 10:09:55 | 畠中恵
畠中恵 著

著者はじめてのエッセイ集。
なんとデビューのきっかけとなった「日本ファンタジーノベル大賞優秀賞」の
受賞の言葉までおさめられているのでファンにはうれしい。

このかた40歳過ぎてのデビューだったんだなあ。
もともと漫画家だからストーリー作りや背景の作り込みはお手の物だろうが、
小説を書こうと思ってから実に7年間小説講座で修行を重ねたという。
まさに万を辞して、という感じだ。

大好きなお江戸の話はコミカルでわかりやすく、たくさんの研究や知識に
基づいているのがよくわかる。
今と昔を軽快に行き来しながら紡がれる物語の数々は、そこここに妖たちが
顔を出して不思議と楽しさに満ち溢れている。

著者の手にかかれば、古さも不便さも闇もなにもかもが魅力的に見えてしまう。

杉浦日向子さんにささげる一文がとても好きだ。
違う角度からだけれども、江戸をしっかり切り取り、読者に見せるふたり。
二人が江戸について語り合うのを聞きたいなあ。無理だけど。

ゆんでめて

2012-12-10 10:05:22 | 畠中恵
畠中恵 著

おなじみ「しゃばけシリーズ」である。

すっかり顔見知りのキャラクターたち、そして見慣れた感のある離れ。
身体が弱い若旦那が主役だけに、行動範囲は狭め、と思いきや。

すごく凝った作りの話だった。
物語は「屏風覗き」を失って哀しみを抱えた若旦那の姿から始まる。

ゆんでとは弓手と書く。左手のこと。
めては馬手。右手のことだ。
どちらにいくか、とっさに行くべき方向を誤った若旦那。
それは小さな違いだったが、転がり続ける雪玉のように大きく膨らみ、
「屏風覗き」との別れをうんだ。

一話ずつ話は時間を遡る。
そしてついにあの日まで戻ったとき、生目神が関係していたことが
明らかになり、改めてもとの道を通る運命がスタートする。

この仕掛けにはあっと言わされたし、しばらくは戸惑いも感じたが、
最後のすとんと落ち着く感じは悪くない。
そして仕掛けを別にしても、ちょっと大人になった若旦那が経験する
出来事はとても楽しく読める。
中でもお花見の話は、こちらまで心が浮き立つようだった。
ほんわりとした花の靄に包まれて夢でもみたかのような物語。

これだけお約束化したシリーズで驚きをかんじさせるのはさすが。