息をするように本を読む

初めて読んだ本も、読み返した本も、
ジャンルも著者もおかまいなしの私的読書記録
と、なんだかだらだら日常のことなども

手とぼしの記

2011-04-30 15:37:54 | 宮尾登美子
宮尾登美子 著

週刊誌に連載されていた古いエッセイ集だが、そんなに古さは感じない。
東京・狛江での生活、作家として10年目、軌道に乗りかつ作品数が徐々に増えて、
さらに作品の映画化も進んできた頃だ。

著者は体が弱く、無理がきかないから……という理由で、
毎日コツコツと仕事をし、主婦業も手抜きなしとまじめ一徹の日々。
体調がどうであろうが、連載は待ってくれず、税金は追いかけてくる、
泣き言もいう時もあるのだけれど、そこにアクセントのように、
着物だの講演だのパーティだのの華やかな話がちりばめられている。

東京だけれど、まだ多くの自然が残る狛江だけに、季節の移り変わりの描写が
鮮やか。
そして主婦であることを手放さないからこその生活感が、文章に厚みを添える。

作家の身辺雑記は多いし、さすがの文章で楽しいものも多いけれど、
個人的には1、2を争うほどに好きな作品だ。

六番目の小夜子

2011-04-29 16:40:25 | 恩田陸
恩田陸 著

テレビドラマにもなったよね……と珍しく言ってみる。

栗山千明がすごくサヨコのイメージに合ってたので、
(単にああいう自分にないきつめ美人系が好きなだけの気もする)
舞台は高校のはずが中学にされちゃったり、よくわからない追加キャラが
いたりしたわけだが、我慢した。私にしては本当に稀なことである。

それはどうでもいい。
地方の高校に脈々と引き継がれている伝説・サヨコ。
3年に一度誰かが選ばれ、その任務を遂行しなければならない。
しかし、そこに沙世子という名の謎めいた転校生が現れたことから、
今までにない物語が展開する。

部活、夏期講習、学園祭……いきいきとした高校生たちの姿と
闇の気配が漂うサヨコ伝説。
対象的なのにどちらも眩しく感じられるのは、きっと自分の年齢のせいだろう。

謎解きと大団円を期待すると少し違うかもしれない。
何もかもすっきりわかりやすく解決するわけではない。
それを不満に感じる人もいるかもしれないけれど、私はこれが
この物語の終わり方にふさわしいと思う。


怪談

2011-04-28 13:11:08 | 著者名 か行
ラフカディオ・ハーン著
小泉八雲 著)

日本をこよなく愛し、帰化した著者。
各地の伝承や民話を調査し、見事にまとめ上げた。

「耳なし芳一のはなし」などは教科書でも取り上げられ、一度は目にしたことがあると思う。
目にしないまでも、耳にしたことはあるだろう。

まったく風土が違う国で、昔からの口での言い伝えをもとに、多くの話を拾い集め、
心のひだに響くような文章を書く。
それだけでも大変なことだと思う。
大げさな表現を好まず、他所の人間にはわかりにくいといわれる日本の文化。
同じ出来事でも、下敷きとなる文化が違うとまったく受けとめ方が変わってくるし、
地方色が強い言い伝えであればなおのことだろう。
これらの異文化理解には、著者がこよなく愛したという妻・節子の力が大きかったのではないか。

心にしんと響く怖さをもつ怪談の数々。
じっくりと時間をかけて読みたい、と思わせる。

落下する花─月読─

2011-04-27 12:26:30 | 著者名 あ行
太田忠司 著

『月読』の続編である。
短編集で、月読・朔夜がかかわり、月導を読む死者の周囲の人たちをモチーフにしている。

前作ではパラレルワールドの印象が強く、現代のこの世界との違いが大きく印象に残ったのだが、
自分の中で整理できたのか、それとも作者もそこまで印象付けようとしなかったのか、
現代の物語としてもさして違和感なく読めた。
もちろん、救急車を呼ぶにも携帯電話はなく、インターネットで何かを調べることもできない。
月導の研究につぎ込まれた人と金と時間の浪費によって、進むべき研究がなされなかったから。

前作でも取り上げられていた月導の特徴のひとつとして、
“必ずしも深い意味があるものではない”ということがある。
あくまでも故人が死の瞬間何を思ったか、というだけのことであって、
いたずらに重きをおくべき言葉でもなく、その人となりを表すのとも違うようだ。

通常は葬儀の一環として僧侶や神官が「故人は皆様に感謝している」というような
ありきたりの言葉で月導を読んだ、ことにするらしい。
朔夜のような職業・月読に50万円もの読みしろを払って“本当に”読んでもらおうと
するのは、個人の遺言があった場合、遺族に特別な想いがある場合などに限られる。

つまりこれほどに月導が当然の世界でありながら、月導の意味を理解している人は
そういないということで、それだけに、月導の意味や出方によっては遺族が苦しむことも
ありえるのだ。

そんな想いや理不尽な怒りをも受け止める月読。月導が証拠にはならないことを知っていても
それを無視はできない刑事。
ありえない世界でありながら、すっと入り込め、共感できる。

月導──たとえば表題作の冒頭に出てくる先端が輝く蔓のようなもの。「般若の涙」で出てくる
ふりそそぐ金の糸。田んぼの上に浮かぶオレンジ色のガラスのような物体。
一度でいい、見てみたい気がする。

TENGU

2011-04-26 10:29:13 | 著者名 さ行
柴田哲孝 著

大藪春彦賞受賞。
『RYU』の著者。

UNA、伝説、SFなど魅力的なキーワードがてんこ盛り。
米軍までからんで、不可思議な事件の謎がときほぐされていく。
まるでレポートのように、いつどこで何が起こったかを説明していく。
スケールが大きく物語の展開も面白い。

リアルタイムで事件を解決するのではなく、26年前に起こった事件を一つ一つ
調べ直していく、というじっくりと進む形もよかった。

が!

え~っと思うのが、そうなの?それで片づけちゃうの?っていうUMAの扱い。
それでもいいんだけど、そうだったらそうで、最初からそういう話の運びとかが
必要なのではないか。
ぐいぐいひきつけて、どんどん引っ張って、こんな力は尋常じゃない!
これって何? で、出た答えがこれかあって感じだ。

そして登場する女性が見事なまでに道具。
キャラが立っているだけに、どうにもやりきれない。
これは私が女性だからかもしれないが。

そうだなあ、男性が読むともっと入り込めて面白いのかもしれない。