息をするように本を読む

初めて読んだ本も、読み返した本も、
ジャンルも著者もおかまいなしの私的読書記録
と、なんだかだらだら日常のことなども

夜啼きの森

2011-10-31 10:35:05 | 著者名 あ行
岩井志麻子 著

かの有名な「津山三十人殺し」。「八つ墓村」のモデルにもなった事件だ。
これを新たな切り口から書き上げた本書は、著者の初長編でもある。

閉鎖的空間、近親婚と常にお互いを監視しあう状況。
地方の寒村にありがちな光景は、溶け込めない者、差別される者にとって
耐えがたい。
そして徴兵検査という基準が、また新たな一線を引き、お国のためにすら
働けない失格者としての烙印が押される。

夜這いの風習は健在で、性についての鷹揚さは、それができないという
差別も生み出す。

田舎の小さな集落であるからこそ、不動のものとなった格差。
因習と苦悩の中で爆発する負のエネルギー。

読み進めるごとに起こるべくして起こった事件という気がしてくる。

一章ごとに新月から満月まで、月が丸くなっていく。
その光と影の中で、ある者はふてぶてしく、ある者は流されて
暮らしていく。
性以外の楽しみをもつ余裕もなく、無知であることの哀しさが
しみじみと切ない。
揶揄されていることがわかっても、幼い頃からその場所しか
知らなければ起死回生するチャンスもない。
犯人・辰男のやるせなさも、その緻密な計画性も、
優等生からの転落と絶望を考えると自然な流れにすら感じる。
彼に手を貸した集落の男も、度重なる妻の裏切りや、
虐げられた婿としての自らを“殺して”もらうことが
目的だったとしたら、あまりにも哀しくやるせない結末だ。

最初と最後は老婆の語りなのだが、いまひとつこれが生きておらず
残念な気がした。

素晴らしき家族旅行

2011-10-30 10:16:45 | 著者名 は行
林真理子 著

大家族の人間模様。
昭和のホームドラマみたいなざっくばらんなドタバタ劇は、
笑いながらさらっと読むのに最適だ。

主人公・菊池忠紘は24歳にして、12歳も年上の人妻と恋におち、
結婚した。
つまり、結婚に際しては、とくに母親に複雑な思いがあった
わけで、それが10年後の同居によって表面化する。
嫁姑の確執といえば、ホームドラマの定番であるが、
陰湿さはなく、豪快にやりあう感じなので安心して読める。

なかなかに面白かったのが、主人公の妹の玉の輿願望。
できないことまでもとりつくろい、なんとかセレブ婚に
漕ぎ着けようと必死の妹と母親を横目に、ポロポロと
地を出してしまう妻・幸子。
結局は落ち着くところに落ち着くのだけれど、これって
ものすごくありそうなんだなあ。

どの家族にも大問題となる介護だって、さっぱりと引き受ける幸子。
何ともパワフルで、かといっていい子ちゃんでもない。
頼りになる妻、といえば一番近いかな。
お坊ちゃんの主人公の結婚は正しかったと思わせる。

そうなのだ、結構重いテーマを扱っているのだが、
全然そう思わせないのはなかなかのものだ。

アフリカの瞳

2011-10-29 10:47:23 | 著者名 は行
帚木蓬生 著

HIVの蔓延。それがもっとも集中しているのはアフリカだ。
絶望と貧困、無知と差別。
あらゆる苦しみが伴う中で、かすかな希望を胸に働く
日本人医師の物語。

病と闘う人々にとって、敵はHIVだけではない。
高額な治療費を払えないという立場を利用し、欧米の製薬会社は
無料配布の体裁をとった人体実験を行っていた。
そして経済的な格差は国単位でも大きい。
政治的にもHIVは重荷であると同時に利用できる要素でもあるのだ。

日本のように安全は約束されていない。
それなのに見えない敵に向かって声を上げ、不正を暴こうとする
医師たちの姿には胸が熱くなった。
やがて事実が判明したときには、爽快感を感じた。

それにしても、HIVに対する知識はまだまだ不足している。
いまだ0歳児に対してまでレイプが行われてしまうのも、
それが治療になるという都市伝説がもたらしている。
何の根拠もないこれらの話や病への過剰な恐れを減らすには、
正しい知識と希望がもてる治療が必要だ。

日本も実はHIV大国。対岸の火事ではないことを知らなければならない。

糖尿列島―「10人に1人の病」の黙示録

2011-10-28 10:50:07 | 著者名 か行
鴨志田恵一 著

ちょっと古い本なのだが、日本人と健康を語るとき避けて通れない病気
「糖尿病」を知るのに役立つ本。
当時に比べると患者およびその予備軍の数は、2倍にも激増したという。
5人にひとりって、要するにあの人もこの人もってことだ。
そして自分だって例外ではない。

病気自体はかなり昔からあり、口の渇きや急激な痩せなどで知られていた
らしい。そしてそれが贅沢な食事によるものではないかとも。

みんなが豊かに好きなものを食べられる時代。
これまで人類が進化してきた中でもっとも幸せなこの時代に、身体は
ついてきていない。悲しいことだが、目の前に贅沢な食べ物があっても
それを口にすることができない人が増えているのだ。

糖尿病患者が食に固執し、入院中ですら隠れてものを食べる様子は
哀しくさえある。しかし、そんなことをさせる病とは恐ろしいではないか。
律していくのには生半可でない意思とエネルギーを要し、しかも
そんな人でもきっかけがあればグダグダに崩れる。
自分がその立場に置かれたとき、きちんと節制できる自信はない。

その反面、一病息災そのもので、健康にいきいきと暮らす人もたくさんいる。
そしてそんな人がいるだけに責められる人もまた多い。

……難しい。生きていくことと食は切り離せないのだから。
しかし、こんなものだということをわかっていると、いざとなったときに
力になると思う。そんな一冊だ。

ねじの回転

2011-10-27 10:01:10 | 恩田陸


恩田陸 著

へとへとになるよ~。

近未来の日本、人類滅亡の危機を救おうと、時間遡行技術を用いて、
過去を修復が試みられる。
「二・二六事件」を舞台に3人の軍人が取り組むこの課題は、
完璧でなくてはならない。
「不一致」この言葉はミッションの中断を意味し、そして
やり直しを意味する。
息遣いさえ聞こえるような緊張感、疲労困憊。
絶対参加したくないと思ったわ~。

あの時にもどれたらと考える人は多いようだが、それが技術として
成立したとき、人間は過去の過ちを正そうと試みた。
そして結果的に1つの過ちを消したことによって100の過ちを
生み出してしまったのだ。

実在の事件、実在の人物をモデルにしたからこその臨場感。
SFなんだけれど歴史小説のような適度な重厚感もあり、読み応えは
なかなか。
上下巻あっとう言う間に読み終えた。