息をするように本を読む

初めて読んだ本も、読み返した本も、
ジャンルも著者もおかまいなしの私的読書記録
と、なんだかだらだら日常のことなども

少女たちの植民地 関東州の記憶から

2014-04-24 10:56:53 | 著者名 は行
藤森節子 著

植民地で生まれる、ということの複雑さを思い知らされた。
まぎれもなく日本人として生まれ、その常識のもとに育てられた著者。
しかしその暮らしを取り巻くものは、まぎれもなく異国であり、
そのうえ、それは戦争とともに失われた地であった。

金融の仕事をする父について暮らした関東州。
小さな町とはいえ、支配階級である日本人は豊かな暮らしをしていた。
子どもたちはみな高い教育を受け、服装も住まいも当時としては
恵まれていたようだ。

子どもであるから国籍など関係なく遊ぶ。
しかし、無意識に口にしていた中国語のからかいの言葉は、
相手を下に見る侮辱の言葉だった。
いたるところに差別はあり、それは彼女の心の傷になっている。
そして敗戦のとき、それはさまざまな形で日本人への敵視となった。

少女の素直な目が見つめた記録は貴重だ。
当時はどんな時代だったのか、そこには誰がいて、どんな暮らしが
あったのか。何を楽しんで、何に苦しんだのか。

外地からの引き揚げ記録は悲惨なものが多いが、著者はまだ比較的
安全に帰れたようだ。もちろん書かれない苦労も多々あったのであろうが。
それでも、兄も姉の夫も戦死、大切にしていた銀行券は紙くずになり、
一家の日本での再出発が大変なものであったことは想像できる。

こんな時代の変化に耐えられるか?と問われたとき、できると答える
人がいるだろうか。
人間は強いけれど、強くなりたくないときもある。


居場所のない子どもたち―アダルト・チルドレンの魂にふれる

2014-04-23 10:57:00 | 著者名 た行
鳥山敏子 著

著者は宮澤賢治の教えに賛同し、NPO「東京賢治の学校」の代表を務めている。
それだけに教育に対する姿勢は真摯で、よき教師であろうというひたむきな
想いが伝わってくる。

著者は30年にも及ぶ公立小学校教諭生活の中で、子どもたちが抱える
数々の問題と、その裏に潜む親自身の問題を見てきた。
子ども時代をどう過ごしたか、どう育てられたかは、人が人として育ち、
親となっていくにあたり、とても大きな影響を及ぼす。

それは一見問題児という形で子ども自身に現れることもあれば、
虐待や子どもを愛せないという形で親に現れることもある。

子どもは生まれる家も親も選べない。
育てられる環境をただ受け入れ、生き延びるしかない。
疑問をもつというわずかな隙さえ与えられない。

長子だから、女だから。
母と祖母の仲を取り持たなければならないから。
両親のつなぎ役が自分しかいないから。
子どもに無理を強いる原因はあまりにも理不尽なものばかりだ。
しかし、受け止めること以外の選択肢をもたない子どもは
自分には重すぎる荷物を黙って持ち、つぶれるしかない。

著者は問題を抱えたまま成長し、さらなる大きな問題を抱え込む
アダルト・チルドレンたちの心を開放するワークを開催している。
そこで語られる切々とした想いは読むだけで胸が痛くなるほどだ。

社会が変わったから、核家族だから、共働きが増えたから。
原因をひとまとめにするのは簡単だが、子どもの想いはそれだけでは
解決しない。
私自身似たような経験があり、それだけに穏やかな思いでは読めない。
適切な時期に適切な助けの手が伸びますように。
こんなワークのような心を開放する手段が一般的になりますように。
そう願うのみだ。

凍える森

2014-04-22 10:50:58 | 著者名 さ行
アンドレア・M.シェンケル 著

1950年代、ドイツの南バイエルン地方で起こった未解決事件。
人里離れた農家で、家族全員とその日来たばかりの家政婦が殺された。

実際に起こった事件をもとに書かれた作品だ。

友人、郵便配達夫、家政婦の妹、教師、神父……家族にかかわった
人々が、それぞれの口で彼らについて語る。
それは噂の域を出ないものであったり、語り手の想像が混じっていたり、
立場上語れなかったり、表現が拙かったりする。
それだけに、まるで現場で取り調べを覗き見しているような
リアリティにあふれているのだ。

ひとつの話が終わるごとに祈りの言葉が続く。
信仰篤いといえば聞こえがよいけれど、それが行き過ぎてがんじがらめに
なった人々や閉塞感に満ちた村の雰囲気を醸し出す。

少しずつ少しずつ浮かび上がる犯人像。
最後ははっきりと示して終わるが、それよりもいろいろなものを
含みながら、この家の周辺にいる人々のほうがよほど怖かった。

もののけ本所深川事件帖 オサキと江戸の歌姫

2014-04-21 10:26:32 | 著者名 た行
高橋由太 著

第五弾は大雨で出水におびえる本所深川の人々と、江戸版アイドルの
「本所深川いろは娘」の物語。
なんていうか、A○Bだよね? 秋○らしきプロデューサーみたいな
人物も登場するけど、絶対モデルだよね?
モー○ング娘。だよとか、つ○くだよという以外の異論は認めない。

伝説の「十人の仔狐様」を歌うことで雨をとめようとする娘たち。
ただただ金儲けをたくらむ大人たちは、興業の利益のみを考えている。
中央で歌う歌姫様であった小桃の急死後、目をつけられたのは
献残屋の一人娘・お琴。周吉は身の回りの世話という名目で、
娘たちが暮らす寮に住み込むことになった。

神社の敷地内に建てられた寮は出入りが制限されている。
なのに、娘たちは次々と死んでいく。
そして雨は降り続き、大川はいよいよ危険な状態になってきた。

華やかな歌組の娘たちも、所詮は金で買われてきた商品。
いまはちやほやされていても、いずれは遊郭なりに売られることは確実。
そこに金繰りに困る者がかかわればなおさら。
なんとか逃れよう、それがだめなら来世に賭けようと考える娘たちが哀れだ。

しかし、軽い!
あっという間に9人もの人が死に、背景も悲惨そのものなのに、
あれあれっと終わってしまう。
さらっと読めるのがこのシリーズの強みであるが、これに限っては
裏目に出た感じ。っていうかこのシリーズでなくてもよかったのでは。
アイドルと江戸時代っていう組み合わせはそれなりに面白くつくれそうだし。
最後に読んで正解だったかもしれない。

もののけ本所深川事件帖 オサキ つくもがみ、うじゃうじゃ

2014-04-18 11:05:11 | 著者名 た行
高橋由太 著

第六弾。間違えたまま突き進む。
でもこれって短編集だし、登場人物がわかっていればさして問題なし。

お見合いだの初鰹だの、江戸の庶民にとって身近な話題を取り上げている。
身近といってもそれが誰にでも手に入るものではないのも事実。
平和な世に食べるにも困るような武士の切ない暮らしの様子も語られる。

もののけとひとことでいってもさまざまであるが、付喪神と呼ばれるものは
長く長く人に使われていたものが変化しただけに、人そのものよりも
人のことを知っているようだ。
それでいて、人とは違うところがあるもののけのこと、そのちょっとした
ずれがいとしくもおかしい。

さらさらっと読めるのに、そこにきちんと心が動く。
気持ちのよいシリーズだ。
電獣ビリビリのクロスケがちょこっと登場するものマニアにはうれしい。