息をするように本を読む

初めて読んだ本も、読み返した本も、
ジャンルも著者もおかまいなしの私的読書記録
と、なんだかだらだら日常のことなども

丸山蘭水楼の遊女たち

2017-12-03 22:42:47 | 著者名 あ行
井上 光晴 著

明治維新まであとわずか、時代の変わり目にある長崎の遊郭が舞台だ。
私は長崎の生まれであるから、ここに出てくる長崎弁は懐かしい。
これは長崎戸町で育ったという著者だからできたことだろう。
その一方でこんなにリアルに表現したら、わからない人も
いるのでは?と不安になった。それくらい現実に沿っている。

つまり、そのほかの時代背景もそうだということだろう。
あの当時、丸山界隈ではこんな暮らしがあったのだ。
今でも残る華やかな街の名残りを思い出しながら読んだ。

閉じ込められている遊女たちにも、ひたひたと時代の波が
押し寄せてくる。
3年越しで貯めた金を懐に太夫・尾崎を名指しで蘭水に上がってきた又次は、
船乞食であることがばれてしまい、捕らわれる。
当時の身分では当然のことであったらしいが、これが少しずつ
人々の心にひびを入れ、揺らぎを与える。

長崎ならではのあいのこ(ハーフ)であったきわは、
利発さを見出され、教育の機会を与えられる。
それは愛人として囲われてのことであるが、
身寄りもない少女には、未来が輝くように見える。

恋物語もあるのだけれど、そう簡単にかなうものではない。
危ない橋はいたるところにあり、幕末の不安定な状況は
いつ誰が捕らわれるかわからない怖さの一方で、
ご禁制のキリシタン、密輸されているらしいもの。
うまく生き抜いて成功を手に入れる可能性がそこら中に
ある。

おそらく長崎が一番輝いていた時代。
ほんの何人かの男女の物語がこれほどにいきいきと表現する。

いまさらながら、著者が井上荒野の父であることを知る。
やはり才能とは遺伝するのか、環境をつくるのか。


プリズン・ガール

2017-02-24 18:14:14 | 著者名 あ行
有村朋美 著

チャラチャラした女の子がアメリカ遊学でドラッグにでも手を出して、という予想をいい意味で裏切ったなかなかの作品だった。
確かにチャラ…くらいはあるけど、親の金で遊学…でもあるけど、ドラッグがらみだけど…でもなんか違う。それってやっぱり著者の賢さなんだろう。
逮捕のきっかけをつくった彼のことも、好きだったのに騙された…ということ以上に、ロシアンマフィアと知っていて付き合った自分を省み、ポリシーとして司法取引に応じないことを決めている。刑務所の暮らしでは自分なりの居場所や役割を探し、外では思いがけないくらい長く感じる日々を何とか乗り切っている。日本人としては信じられないくらいトンデモぞろいの受刑者たちに対しても、それぞれ良いところを見つけコミュニケーションをとったり、摩擦を避けてやり過ごしたりしている。
なんていうか、人間力とか基礎的な教養とか、そんなものまで問われちゃうのかもしれない。その反面、お上品な人なら死んでしまいそうな劣悪な環境のなか生き抜くずぶとさも必要だし。
何よりオフィサーたちのいい加減さにはびっくり。これは日本で刑に服している外国人はものすごいカルチャーショックを受けているのではないだろうか。

凍りついた香り

2015-02-03 12:16:24 | 著者名 あ行
小川洋子 著

ともに暮らしていた恋人が死んだ。
彼は調香師をめざしていた。

びんの蓋をあける。
ムエットをつまむ。
その美しい一連の動きを涼子は記憶している。
遺されたデータには
「岩のすき間からしたたり落ちる水滴。洞窟の湿った空気」
「締め切った書庫。埃を含んだ光」
「凍ったばかりの明け方の湖」
という言葉が並んでいた。

彼の生きてきた時間をさかのぼる旅が始まる。
彼の履歴書はでたらめだった。
少年時代、数学の天才ともてはやされていた彼は
高校中退後家出して、まったく別の人となった。
きっかけとなった数学コンテストの謎を追い、
涼子はプラハへと渡る。

生と死のはざまにあるような洞窟と孔雀の番人に出会い、
涼子は少しずつ、彼の死を受け止めていく。

どこまでが事実でどこからが夢か。
あるいはすべてが無なのか、わからない。
しかし、香水、スケート、数学などの小道具が、
一人の人間の輪郭をはっきりと描き出し、彼を愛した人々をも
映し出す。
何もかも秘密のままで死んでしまった彼のことを知る過程が
弔いの過程となる。

透明感のある、そして凛とした世界観がとても好きだ。

そっと覗いてみてごらん

2015-01-06 21:02:53 | 著者名 あ行
明野照葉 著

主人公・日和はあらゆることに恵まれている。
それは自分が勤める会社の創業者一族に生まれた、ということが一番の理由だ。
住まいはかわいがってくれる叔母から格安で借りているマンションで、
通勤に便利でゆとりあるスペースは、普通のOLには決して手が届かないものだ。
人もうらやむ暮らしの中でも、何か充たされないものを感じる日和の息抜きは
ブログだった。

どうでもいい日常を書き綴っていたブログは、いつしか反応を求め、
過激になっていく。
周辺の人を面白おかしくあげつらい、暴露する文章は、それなりに反響を呼んだ。

そんな日々に少しずつ違和感が忍び寄る。
周囲の人々がなんとなく冷たい。
今まで許されていた小さなことが、厳しく指摘される。
少しずつ少しずつ悪くなる居心地。

そして、これまでの心地よい暮らしは砂の城のように崩れ始めた。

驕り高ぶり、と言ってしまうにはあまりに無邪気な日和。
きっといいおうちのお嬢様ってこんなものだな、と思う。
何も気づかずに与えられる特権を享受し、そこで生きていく。
その周りには当然ながらねたみや恨みは生まれてしまうのだけれど、
とことん無垢な存在からは跳ね返されてしまうのだ。
まあ、それは私の個人的意見だが。
日和は自分の黒い部分をブログで世に出してしまった、それが
小さなひびを亀裂にし、さらに崩壊させるきっかけにしてしまった。

まあ、ややご都合主義な感じはするものの、現代の暮らしに潜む危険や恐怖を
見事に描き出した作品だと思う。

新・戦争論 僕らのインテリジェンスの磨き方

2015-01-04 10:23:54 | 著者名 あ行
池上彰 佐藤優 著

著者ふたりの個性が非常にいい組み合わせ。
世界情勢を佐藤優が奔放に語り、それを池上彰がさらに解説する、という形式は
正直理解力があるとは言えない私にとって最強の一冊であった。

テーマは「イスラム国」「エボラ出血熱」「スコットランド独立」など
多岐にわたるが、ニュースだけではあいまいなままで流していたことも
歴史や背景まで含めて語られるため、実にわかりやすい。
読み進めていく過程は目からうろこの連続で、新聞やニュースがいっそう
興味深く面白くなる。

中でも「集団的自衛権」についての解説は、かなりショッキングでもあり、
またもっと知られるべき、という想いをもった。

強いて言うなら、タイトルがなあ。
ちょっと内容とは違うような。
しかし、これは賛否は分かれると思うが読んでおいて損はない。