息をするように本を読む

初めて読んだ本も、読み返した本も、
ジャンルも著者もおかまいなしの私的読書記録
と、なんだかだらだら日常のことなども

掌(て)の中の小鳥

2013-03-17 10:37:57 | 加納朋子
加納朋子 著

さすがだなあ、うまい。
いつの間にやら引き込まれて読みすすめてしまう。
このペースのつかみかたは著者ならではなのだ。

カクテルが充実していて季節の花が咲き誇る。
そして取り仕切るのは美しい女性のバーテンダー。
すべてを知り尽くしたような老紳士が常連であったりする。

そこでは殺人もなければ陥れる人もいない、
後味がいい謎解きが語られる。
恋人たちの小さな秘密。
偶然がもたらすささやかな出会いと別れ。
それとは知らずに起こり、解決した事件。
どれひとつとっても魅力的な物語。

おしゃれなのに気取らない、クールなのにあたたかい会話が交わされて、
日常の中に潜む不思議が解決されるさまは実に爽快。
ただ難を言うならばあまりにも見事な謎解き過ぎて、しばらく時間を
おかないと読み返す楽しみがないことくらいかな。

そこに身を置かないとわからないようなトリックが多々あるところを見ると、
ずいぶん周到に取材されたのではないかと思う。
きっちりと緻密に構成されながら、ほんわかした読み物であるところが贅沢だ。

魔法飛行

2012-08-11 10:47:24 | 加納朋子
加納朋子 著

ファンタジックなのにいきいきとした現実のパワーが満ちている。

主人公・駒子は短大生。“書きたい”という思いを抱きながら
ためらいを捨てきれずにいる彼女は、知人・瀬尾から「手紙のつもりで書けばいい」と
背中を押される。

身近に起こる出来事とそこにまつわる小さな謎。
駒子の目で切り取られた世界は、細やかな観察眼と若々しさがある。

ひとつの物語が終わるごとに瀬尾からは丁寧な感想が届けられる。
小さな謎の答えとともに。

ほのぼのとしたやりとりは心があたたかくなるようだが、推理ということに
期待してしまうとちょっと物足りないかも。
何しろ、「創元推理文庫」だし。

本書は『ななつのこ』の続編にあたるらしい。……またやってしまった。
普通に読む分には問題ないのだが、どうも人間関係がいまひとつつかめない
気がしたのはきっとそのせいだ。
そちらも近々読んでみることにする。

これは1993年に発表された作品だ。
このちょっと前に短大生だった私にとって、背景の折々に時代が感じられて懐かしい。
交通不便な立地にある地味目の女子短大というのは、どこもこんなふうだったのかな。
駒子は私よりもずっと賢く現実を見つめているが。

加納朋子の世界はいい意味でガールだ。
ひらひらふわふわとは少し違うけれど、少女が少女であることを否定されない世界。
女性であることを無理にアピールしなくても、きちんと女性である世界。
異性を意識しないで安心していられるところが女子校っぽいかもしれない。

虹の家のアリス

2012-03-08 10:17:16 | 加納朋子
加納朋子 著

螺旋階段のアリスのシリーズ。
所長と助手だけの小さな探偵事務所を舞台に、読みやすくやさしい文章で綴る物語。


育児サークルへの嫌がらせ、密室の産院から姿を消した赤ちゃん、バラ泥棒、そして
なぜかアルファベットの名前順に殺されていく猫。
持ち込まれるのはごくごく日常的な小さな謎ばかり。
事件と言うよりは困りごとといったほうがいい出来事の解決は、助手アリサの力が
大きく影響している。

前作「螺旋階段のアリス」は“夫婦”をテーマにしていたが本書のテーマは“家族”。
さらっと読める作品ばかりなのだが、アガサ・クリスティにインスパイアされていたり、
ちゃんと一つ一つに「不思議の国のアリス」のモチーフがあったり、じっくりていねいに
読む楽しさはひときわだ。

これまであまり出てこなかった主人公二人の家族の話も登場し、キャラクターに
深みが出てくる感じもする。

ほのぼのしっかり、が魅力の著者。そのよさが堪能できる作品だ。

ささらさや

2012-01-27 10:28:41 | 加納朋子
加納朋子 著

突然の事故で夫を失い、まだ赤ちゃんの息子とともに佐佐良の町でくらすことにしたサヤ。
ピュアで人を疑うことを知らない彼女にもどかしさを感じる反面、亡くなった夫が
彼女のどんなところを好きだったかよくわかる。
ずっと一緒にいて守ってやろうと思って結婚したのだろう。
それが叶わなかった悔しさ。
そして、彼女と息子をおいていかなければならなかった悲しみと心配。

赤ちゃんを引き取りたいという義姉。
次々と起こる事件。
いろいろなものから自分と息子を守るために、頼りなかったサヤは少しずつ強くなる。
どうしても二人を置いていけなかったであろう夫は幽霊となって見守り、
折に触れて手を貸す。

佐佐良は人づきあいの濃い町だ。
おせっかいなおばあちゃんたち、ヤンママなど個性的な面々が良くも悪くも
ほっておけずにかまってくる。ひとりぼっちのサヤにとって大きな助けとなっていくのだ。
私だったら無理だなあと思うけれど、サヤは助けてもらい、それを返していくことによって
自立の道を探っていくのだ。

童話のようなファンタジーのような不思議な短編集だ。
ストーリー自体もサヤの運命以外は日常的なことが中心で、斬新な謎解きや事件が
起こるわけではない。
ほのぼのとやさしい気持ちになれる、そんな作品だ。
ちなみに『てるてるあした』は姉妹編。人物を知るのに違う角度から読むのも面白い。

てるてるあした

2011-12-09 10:23:28 | 加納朋子
加納朋子 著

結構優秀だったのに、何不自由なく育ってきたつもりだったのに、
現実に気付いてみると、高校進学さえ断念するはめになった照代。

わけがわからぬまま、遠い知り合いという老婆のもとに身を寄せ、
やりきれない想いをもてあましながらアルバイトを始める。

不思議なメール、女の子の幽霊。
押しつけがましいけれど、やさしさにあふれた人たち。
時にいらだち、時に涙しながら、あきらめと意欲を育てていく。

いかにもいまどきの子どもだった照代が、少しずつ心を開き、
自分の生きる道を探り始める過程は素晴らしい。
そしてそれとともに、自分自身にまつわる謎が解明していく。

不器用でどうしようもない母親を結局は照代が容認する形になるのだが、
こればかりは、娘をもつ母として納得できなかった。
いくら大切に思っていても、いくら自分が愛し方を知らなかったとしても、
子どもは子ども。一人前になるまで育てるのは産んだ以上当たり前。
なんだか都合よく言いくるめられてる気がするのだ。

「ささらさや」で出てくるさやさんが、キーパーソンとして登場する。
彼女の柔らかい雰囲気に癒され、そして強さに感動する。
こんな人たちに囲まれ、大切な人を見送り、多くを経験した照代が
どう生きていくのか、彼女のこれからの成長がとても楽しみになる作品だ。