息をするように本を読む

初めて読んだ本も、読み返した本も、
ジャンルも著者もおかまいなしの私的読書記録
と、なんだかだらだら日常のことなども

鳥辺野にて

2013-12-30 17:21:19 | 著者名 か行
加門七海 著

著者はやっぱり小説がいいと思う。
不可思議な体験が盛り込まれたエッセイも面白いけれど、
それが物語に昇華したときの凄みがいい。
どれもこれも日本文化を下敷きにした恐ろしいけれども
美しい短編集だ。

表題作は京都の古い葬送の地を舞台に、悪行を尽くしてきた男が出会う
静かで恐ろしい一夜の話が語られる。
死という境があいまいになり、夢とうつつが入れ違う世界。

「阿房宮」「赤い木馬」「朱の盃」は異形コレクションで既読。
表題作もシリーズに入っているのだが読んだことがなかった。
しかし、時間をおいて読むと既読のものも変わらずおもしろい。
研ぎ澄まされた世界観と美意識。
そして意外なまでの展開。
う~ん、面白いなあ。

ただ、怖いだけじゃないホラーってこんなものではないか。

もう一人の私

2013-12-25 10:42:04 | 著者名 か行
北川歩実 著

表題作というのはない。
タイトルはこの短編集全部にかかるテーマなのだ。
はじめからネタバレ的なのに、ちゃんと読ませてくれる。すごい。

少し古いのでネット環境の話などはずいぶん変わっているところもある。
それでも変わらずある人間関係の隙間や問題点をうまくあぶり出す。

ネット上のなりすまし、新生児の取り違え、身代わりの婚約者、
自分自身までだましてしまう思い込み、いとことのすり替え。
どれも怖い。どれもありそうだ。

それぞれに目的があって、理由があって“もうひとり”が生まれる。
それが生まれたばかりに、本当の私は追い詰められていく。
最初はごく普通の人だったはずなのに。
少なくともそう見えていた人だったのに。
最後に残るのは狂気とも言えるなにか。

豊かに思える社会の隙間にあるもの。
時代の流れにのれず、ひっかかってしまったもの。
そんな小さな小さなひずみと人間の狂気がシンクロしたような
ちょっと怖い、そしてスパイスの効いた短編集だ。



狂王ルートヴィヒ

2013-12-24 10:07:22 | 著者名 か行
ジャン・デ・ カール 著

ノイシュヴァンシュタイン城の美しさは誰しもが認めるところだ。
しかし、これは中世の姿でありながらその時代のものではなく、
ただただその時代に憧れた王が作った作品である。

その王はバイエルン王国のルートヴィヒ二世。
美貌と知性を併せ持ち、素晴らしい血統のもとに生まれた彼は、
類まれなる芸術的感性の持ち主でもあった。
しかし、その繊細な精神は次第にむしばまれていく。

音楽家・ワーグナーへの狂信的な愛。
政治や戦争への嫌悪感。
期待に満ちて迎えられた若き君主は、時代の波に弄ばれ病んでいく。

彼が壊れたのは恵まれていたからだ。
ごく普通の民として生まれていれば、いや貴族として生まれていても、
芸術に造形の深い放蕩息子、という程度に終わったはずのことが、
権力をもつ王として歯止めをうしなっていく。
音楽が好きで音楽家を寵愛するだけでなく、彼のために劇場を建て
自分だけのために作品を作らせ、ひとりだけの観客の前で演奏させる。
あこがれの中世の城を再現すべく、各国へ視察の使いを送り、
ベッドカバーひとつに“女性30人が7年間働”いた、というのだから
その贅沢の規模が桁違いであるのは分かる。
そしてバイエルンは破綻し、王は失脚した。

彼に関わる人物たちはそれぞれに個性的で魅力的だ。
オーストリア皇后エリーザベトはとくによき理解者であったらしい。
しかし、彼を理解するには限りない愛と根気、そして体力は不可欠らしい。
……無理。
彼の最期はシュタルンベルク湖で、医師のフォン・グッデンと共に水死体と
なって発見されるという悲しいものであった。
ただこれほどに美意識の高い人を相手に、凡人がなにかいうことはできない。
彼にとってそれが幸せだったのか、彼の人生においていつが一番よいとき
であったのか、それは彼にしかわからない。
ただ私たちは、彼が残した美しいものたちを愛でるだけしかできないのだ。

GOSICK

2013-12-23 10:40:06 | 著者名 さ行
桜庭一樹 著

不思議の国のアリスをイメージさせる影絵の表紙。
ずいぶんヒットしていることも知っていたし、シリーズ化していることも
わかっていたが、なんとなく気になりながらも読みそびれていた。

20世紀初頭、西欧の小国ソヴュールにある名門校、聖マルグリット学園。
その図書館の最上階にある植物園には美しい少女・ヴィクトリカがいる。
そして極東の国から留学してきた少年・久城一弥は、なぜか彼女に
授業の資料を届ける役割を押し付けられた。

パイプをふかしながら膨大な書物を読む博識なヴィクトリカ。
謎に包まれた彼女のことは、学園の生徒ですら知らない者が多い。

あるとき、ヴィクトリカと一弥は豪華客船に招待され、殺人事件に巻き込まれる。
それは10年前に起こった幽霊船の伝説につながるものだった。

まあ、謎解きはそんなに複雑ではないし、なんとなく展開も読めてしまう。
雰囲気といい、文体といい、あまり本を読まない人にも入りやすいミステリ、と
いう感じだ。
著者の作品、ということで期待するとちょっと肩透かしをくうが、かといって
面白くないわけではない。

舞台設定は嫌いではないので、もっと書き込んでほしかったかも。
時代背景とか、貴族社会の匂いとか、名門校の姿とか。
シリーズを読み込めばそんなものも楽しめるのかなあ。

クッキング・ママと仔犬の謎

2013-12-22 10:52:40 | 著者名 た行
ダイアン・デヴィッドソン 著

ずーっと読み続けているこのシリーズ。
16冊だって!びっくりである。

トム・シュルツとの結婚ですっかり幸せいっぱいになったゴルディだが、
なんだかんだとトラブルに巻き込まれるのはいつものことだ。

ケータリングの手伝いをしてくれている友人ヨランダは放火により
焼け出され、大叔母・フェルディナンダとともに私立探偵のアーネストの家に
転がり込む。しかし、その家も不審火を出し、アーネストは死んだ。
そこに残されたのは9匹の仔犬。

ゴルディのすすめによってヨランダとフェルディナンダ、そして仔犬たちが
家にやってきた。
しかし、その日からゴルディの家の周辺にも不審人物がうろつきはじめる。

頼りになる警官の夫トム、その部下でヨランダに気があるボイド、
すっかり成長したアーチ、相変わらずお金持ちで太っ腹なマーラ。
いつものメンバーたちの魅力はもちろんであるが、美貌のヨランダ、
キューバからの移民である誇り高いフェルディナンダが醸し出す
雰囲気はちょっと異国の香り。そしていつものお楽しみ、料理にも
キューバの香りが漂う。

一年のうち雪の心配がないことなんかないのではないか、と思える
アスペン・メドウの町だが、厳しい季節の移り変わりはやはり美しい。
今回は、ゴルディの巻き込まれ方が自然というか、あまり強引さがなく、
いらつきがなくすんなり入り込めた。

これから新たな家族を迎えようか、という気持ちを持ち始めたゴルディとトム。
まだまだ続きそうなシリーズ、次が楽しみだ。