息をするように本を読む

初めて読んだ本も、読み返した本も、
ジャンルも著者もおかまいなしの私的読書記録
と、なんだかだらだら日常のことなども

狗神

2012-03-31 10:05:36 | 坂東眞砂子
坂東眞砂子 著

日本の憑きもの』にも登場するイヌガミ。
いわゆる憑物筋といわれる家に生まれた者が使役するという。

高知の山奥で「狗神筋」と忌み嫌われる家に生まれながらも、
表面上は穏やかに紙漉きをして暮らす女性。
あるとき赴任してきた若い教師との出会いから運命が揺らぎ始める。

似たりよったり、名字までみな同じの閉鎖的な集落であれば
すべて平等に感じるのが当然と思われがちだが、均質であればあるほど
微細な違いが注目され、そこを突いた差別がある。
憑物筋というのもさまざまないわれが伝わっているが、もとをただせば
たいしたことのない差が後年まで伝わったということだと思う。

おどろおどろしい田舎の物語を書かせると素晴らしい著者であるが、
本書は舞台設定や小道具は効いているのに、物語の構成がもうひとつ
物足りない感じ。
おもしろくないわけではないのだが、きっと求めるものが大きくなって
しまうのだろうな。

血をめぐる暗いつながり、守らなければと縛られる伝統。
そしてそれはやがて殺人や放火、過去をあぶりだすことにもつながっていく。
決して後味がいいラストではないが、この物語にはふさわしい。

黒い仏

2012-03-30 10:52:56 | 著者名 さ行
殊能将之 著

石動戯作(いするぎぎさく)シリーズ。
調査に行った寺で見つけた本尊は顔が削り取られていた。

本格ミステリ?と思わせるが、実はユーモアあふれる
エピソードがいっぱい。遊び心あふれるストーリーは
まじめなファンが怒ったという逸話もある。

ホラー要素もあり、好きな人にはたまらない。
あれ?っと思ったときにはもう遅く、思わぬ方向へと
引っ張られながら物語が勝手に進んでいく感じ。

こんな意外性が成り立つのは筆力あってこそ。
好みは分かれるもののここは評価されるべきポイントだと思う。

で、私個人としては、一度でいいかな?という感じ。
意外性とスピード感に引き込まれたけれど、その結末が
見えてしまうとお腹いっぱい。
作者の実力には感服しました。


チポリーノの冒険

2012-03-29 10:58:15 | 著者名 ら行
ジャンニ・ロダーリ 著

出会いは岩波少年文庫、小学生の時である。
野菜と果物の国を舞台に玉ねぎのチポリーノが大活躍する物語で、
当時ファンタジーをむさぼり読んでいた私にとって、まずまず
満足の一冊、という感じだった。 

まさかその15年後、意外なところでチポリーノに再会するとは?
3歳の娘が当時住んでいた関東某県の市立保育所に入所した。
ここは公立でありながら(田舎のせいか)特長ありありの保育所で、
“さくら・さくらんぼ保育”を取り入れて、実にパワフルな保育を
していた。
身体が資本、リズム運動に散歩、豪快なお絵かきや工作。
月に一度のお弁当の日には、時間を気にせず河川敷へ行き、
土手を滑ったり、虫取りをしたりする。
指導者の負担は大きいが、健康でのびやかな子育てを目指すなら
ひとつの答えともいえる保育方法だ。

そこでよく口ずさまれていたのが「チポリーノの冒険」。
クラス名も「さくらんぼ」「かぶ」「れもん」など、歌からとられていた。
この歌はさくら・さくらんぼ保育園の園歌である。

学生時代保育を学んだ私にとって“さくら・さくらんぼ”は懐かしい言葉で
あったし、チポリーノとの再会はうれしかった。
肉体の基礎をつくる時期にこんな保育を受ける機会に恵まれたのは、
私たち親子にとってとても幸運だった。

と、思って読み返してみたが、なぜあえてこの物語が選ばれたのか
よくわからない。いい話だけど、単に冤罪の父を救うために、権力と
闘い、冒険する玉ねぎだよ? いや面白いけどさ。
強いて言うなら、子供が苦手にしやすい野菜が多く登場するから?
う~~ん、とりあえず謎は謎のまま残るのであった。

天鵞絨物語

2012-03-28 10:10:18 | 著者名 は行
林真理子 著

財閥の家に生まれ、豊かにかつ自由に育ったお嬢様・品子。
昭和初期から終戦までを描くドラマチックな物語。

もちろん裕福で何もかも手に入り、家柄も十分でありながら、
当時としてはひらけた考え方をもつ両親にも恵まれ、文化学院で
新しい教育を受ける品子。

彼女が幼い頃から恋していたのは、酒巻男爵の落胤・泰治。
お洒落で粋でいかにもお坊ちゃまで教養も深い。
しかし、決して誠実でも思いやりが深いわけでもなく、
まず自分が大切なタイプだ。
それでもいいのだ、品子はそんな彼を愛しているのだから。

しかし、それが成り立つのは平和な時代であり、経済的な裏付けが
あったからこそ。
日本が戦争へと向かう時代、品子は辛酸をなめることとなる。

品子はわかっていたのだと思う、初めから。
泰治が愛しているのは自分ではないこと。
家柄や容姿という外側の条件が合ったから結婚したにすぎないこと。

だからすべてを許し続けるしかなかった。
それで泰治をつなぎとめるしかなかった。

誰もが自分のことで精いっぱいの時代、行方をくらましていた泰治は
かつての恋のライバルであった真津子との間に生まれた子を連れて
突然品子のもとに現れる。

困ったときだけ、都合のいい女として扱われているのが明白なのに、
品子は突き放せない。
泰治が真津子に惹かれたのはその気高さと手に入りにくさだったことも
わかっているはずなのに、簡単に許してしまう。

人を好きになってしまうってこんなにも弱くなることなのだ。
優雅な上流階級の物語の中に織り込まれる哀しい恋の物語が切ない。

ロコ! 思うままに

2012-03-27 10:49:51 | 著者名 あ行
大槻ケンヂ 著

表題作は『「異形コレクション」オバケヤシキ』で出会った作品。
著者のうまさに脱帽した。

狂気の男により、お化け屋敷に監禁されて育った少年・ロコ。
お化けだけを友達に生きてきた長い年月。虐待されることに慣れ、
外の世界をまったく知らない少年はある日、遊びに来て
貧血で倒れた少女・リサに出会う。

もう一度彼女に出会うために外へ出ようと決意するロコ。
悩み、迷う彼の背中を押したのは、拷問部屋にいる男・ボブ。
父親代わりの存在だった彼に「ロコ!思うままに」という
言葉をもらい、ロコは外へと飛び出す。

旅立ちの季節、いろいろなことを意味づけてしまう物語だ。
ロコの過酷な運命を想うと楽観ばかりもできないけれど、
それでも外へ出る力を得たことを祝いたいと思う。
そして恋ってすごい力をもつんだなあと思う。

ほかに『縫製人間ヌイグルマー』を思わせる綿状生命体が登場する
『モモの愛が綿いっぱい』もいい。
ぬいぐるみっぽい主人公の描く物語は泣ける。

設定も登場人物もトンデモっぽいのに素直に感動できる。
軽く読めるのにじっくり考えさせる。
独特の魅力がある。