息をするように本を読む

初めて読んだ本も、読み返した本も、
ジャンルも著者もおかまいなしの私的読書記録
と、なんだかだらだら日常のことなども

求愛

2014-12-11 14:42:08 | 柴田よしき
柴田よしき 著

親友が自殺した。その衝撃の事実がどうしても納得いかない弘美は、
自分なりに調べ、真相を突き止めた。
それをきっかけに探偵事務所で働くことになる。

出会う事件を自分なりに解決していく連作となっている。
弘美は才色兼備で男勝りな女性だが、彼女がひとつひとつの事件に
向かい合い、やるべきことを組み立て、実行していくという過程を描く
いわばビジネス小説のような印象も受けた。
そのへんはタイトルからイメージするものとは違った。

面白いし、どんどん読めるし、ワクワクするし、なのだが、
しいて言うなら弘美ができすぎ。
欠点も弱さも描かれているのだけれど、それがネガティブではなく
ハードボイルドでも読んでいるかのような、失敗までもがかっこいい
世界になってしまっている。
でもやっぱり著者の作品は好きだなあ。

象牙色の眠り

2014-11-26 14:37:38 | 柴田よしき
柴田よしき 著

京都の高級住宅街でつぎつぎと起こる殺人事件。
人もうらやむ豪邸で、退廃的な暮らしをする家族たちを、
家政婦の視線から見つめ、語る。

主人公は夫の経済的失敗のために家政婦として働く瑞恵。
夫の浮気を知り、絶望感を抱いている。

そんな中で起こる殺人事件。疑惑をかけられる瑞恵。
まあこのあたりから、犯人はなんとなくわかり始める。

読み進めていく過程で、瑞恵の思い込みの激しさや
話の整合性のなさに結構うんざりした。
いや、それがストーリーには重要な要素なんだけどね。

ラストは何とも後味の悪い感じ。
絡んでいるのが少年だけに、未来を案じてしまう。
その一方で、金があるってすごいことだなあとも思う。

面白くないわけではないのだが、なんとなく心が重くなった。

ふたたびの虹

2014-08-12 09:53:34 | 柴田よしき
柴田よしき 著

丸の内にある小料理屋「ばんざい屋」。
季節の料理の描写だけでも魅力的だ。
女将のほっとくつろげる雰囲気に惹かれて通う人も多いし、
なかなか食べられない“ごはんとおかず”を楽しみに
している人もいる。

さまざまな職を持ち、人生を生きつつそこに集う人々。
おいしいものを食べるために来るという単純な行為は、
心を許し、素の自分をさらけ出すひとときでもある。
そんな空間で起こる小さな物語が綴られる。

クリスマスを憎むOLや常連客の殺人事件などにまつわる
これまで誰にもいえなかった秘密を女将ならではの観察眼が読み解く。
といっても、女将の推理が冴えわたる、とかいう雰囲気ではない。
あくまでも、お客への視線が小さなことに気づき、それが
事件の解決の助けになる……という感じだ。
そしてそんな心の機微を読み取る女将には、誰にも言えない
秘密があった。

女将に恋する骨董店の店主・清水を糸口に少しずつ明かされていく過去。
それは悲しいながらも美しくて、そして重い。
ゆっくりと癒えていく心の動きがよく表現されている。

さらりと読んでも、じっくり読み込んでも楽しめる。
柴田よしき、いいなあと思った一冊。

ぼくとユーレイの占いな日々

2014-05-11 10:39:50 | 柴田よしき
柴田よしき 著

大学4年の石狩くんは就活がうまくいかないままドツボにはまり、
パソコン代の支払いのためにした徹夜の重労働バイトでは
もらったバイト代をすられてしまう。
そんなこんなで追い込まれた石狩くんは、不本意ながら占い師・
麻耶優麗が率いる魔泉洞に就職することになった。

ぜったい辞めてやる!という強い決意を胸に、毎日優麗の
わがままにふりまわされる石狩くん。
周囲は個性的にもほどがある面々だし、持ち込まれる相談は
厄介そのもの。
しかしそれを独自の観察眼でずばりと見抜き、解決へと導く
優麗に、少しずつ尊敬の念を抱いていく。

ドタバタ展開の話なのだが、いっぽうで新卒が少しずつ社会にもまれる
成長の物語でもある。
どこにいたって社会は理不尽ばかり。
でも自分自身が成長するにつれ、それがただの上司の勝手ばかりでは
ないことにも気づいていく。

軽~く読める楽しい物語ながら、おばさん目線ではなかなかに深い部分も
あるのだった。

神の狩人 2031探偵物語

2012-12-21 10:01:31 | 柴田よしき
柴田よしき 著

2031年を舞台にした近未来探偵小説。
少子化、高齢社会、情報化、ドラッグ、自殺など、現代社会における問題は
さらに進行している。

主人公の探偵・サラは、ひとりの女性から行方の知れない姉を探して欲しいと
依頼を受ける。
しかし彼女には曖昧な記憶しかない。姉は実在するのか?
それを探るうちにサラは元探偵の老人・風祭に行き着く。

連作短編集のかたちであるが、ひとつの大きな物語としてまとまっている。
謎解きも十分に面白いものだが、やはり魅力はこの世界観。
細やかな設定の一つひとつが、来たるべき近未来にきっと現実となりそうで、
思わず引き込まれてしまった。

全ての食物が生産工場でつくられる。
医師の診察に触診はない。
妊娠計画は保健所が管理する。
美容整形、アンチエイジングの進化は人から見た目の年齢を奪う。
インフルエンザは抗ウィルス・エアドームにより都市から排除される。
オゾンホール対策のため人工雲が常に頭上を覆う。
個人のトーク・カードは、行く先々でネットにつながり、キャラクターが
マネジメントを務める。

もうすぐそこにある技術も、そうなってほしくない技術もある。
これが書かれたのは2008年、それから現実に近づいた技術もある。

そしてサラのやや無機質なキャラクターとハードボイルドな風祭の対比もいい。

シリーズ化するらしいのでこの先が楽しみ。