息をするように本を読む

初めて読んだ本も、読み返した本も、
ジャンルも著者もおかまいなしの私的読書記録
と、なんだかだらだら日常のことなども

呪い唄 長い腕Ⅱ

2014-05-27 10:14:18 | 著者名 か行
川崎草志 著

長い腕』の続編。
明治の名棟梁・近江敬次郎の呪いはまだ続いていた。

主人公・汐路は故郷の早瀬に戻ってきていた。
根強く残る因習と暗い闇から逃れられない土地。
そこは戦時中、駐屯していた部隊の兵士が行方不明になっている土地でもあった。

「かごめ唄」をキーに繰り広げられる事件。
それは現代と江戸時代を行き来しながらも粛々と語られる。
一見何の関係もないように思えるそれらがどう収束するのか、
読み進めるごとに期待感が増す。
時代を超え、距離を超えて張り巡らされた伏線は、
翻弄される人々をあざ笑うかのようにラストで見事にまとめられる。

期待以上に面白かった。
前作以、著者は健康状態が悪化し、実に10年もの間執筆は滞っていた。
ようやく生まれたこの作品は、まさに待ちに待ったもの。
そして期待に十分こたえたものだ。

どうやらシリーズにはⅢがある模様。
はやく読んでみたい。

ケガレの民族誌──差別の文化的要因

2014-05-25 10:41:39 | 著者名 ま行
宮田登 著

ケガレとされ、忌み嫌われるものは、いつからそうなったのか。
そしてそれがケガレとされる経緯はなんなのか。
日本人の心の底に流れている汚いものへの恐れのもとを探り、
民俗学の視点からまとめている。

流血への恐怖感から始まった血穢のケガレ感は、時代を経るにつれて
月経の流血への恐れが加わり性差別となった。そしてそこには宗教界の
力関係とそれを奪い合う争いがかくされている。
また、住み着く場所を固定しないことから、常民とは異なるものと
されていた製鉄民族への感覚。被差別に特有であった白山信仰など、
さまざまな視点からケガレの歴史と概念が語られる。

ケガレとはたんなる汚穢ではなく、ハレを喚起する力である、
この考えは私にとってとても新鮮で、それでいて納得できるものであった。

七人の役小角

2014-05-23 10:29:15 | 著者名 や行
夢枕獏 監修

修験道の祖・役小角を題材に、司馬遼太郎、黒岩重吾、永井豪、坪内逍遙、
六道慧、志村有弘、藤巻一保の7名がさまざまな手法で競い合う
アンソロジーである。

それぞれにとても面白いのだが、何しろ小角は伝説の人物。
残っている記録などほんのわずかである。
想像や創作で個性的な色付けがされているとはいえ、
根本となるものがあまりにも少ないのだ。
つまり、なんだか似たり寄ったりなのだなあ。
個性的なのに飽きてくるこの矛盾。

それぞれが力量のある作家たちだけに何とももったいない。
つまりアンソロジーとしてはあまり成功していないといえる。
バラバラで読んだらすごく印象的だったと思うのだ。

しかし魅力的な題材であることは確か。
もう少し関連本を探してみようかな、と思わせられた。

人を殺すとはどういうことか―長期LB級刑務所・殺人犯の告白

2014-05-22 10:39:11 | 著者名 ま行
美達大和 著

刑期が10年以上、重罪の囚人のみが収監される
L(ロング─長期)
B(比較的罪が軽いA級に対して罪が重く犯罪傾向が進んでいるB級の意)
級の刑務所は、全国でも5カ所しかないという。
そのひとつに入所している著者は、過去に二人の殺人を犯した。

特殊な環境の内側や、そこにいる人々の暮らし、そして犯罪を犯すにいたった
己の成育歴や仕事に対する考え方、そして収監されてからの心理の移り変わり。
他に真似のできない内容が、わかりやすくきちんとした文章で語られている。

優秀な頭脳とタフな肉体に恵まれ、豊かに育てられた著者。
一歩違っていれば、おそらく日本の中枢を担うような立場にあり、
あるいは世界を相手にビジネスを繰り広げるような日々を送っていただろう。
それはほんの小さな一歩だったと思う。それほど優秀さ、カリスマ性を
感じさせるのだ。

その一歩の原因はいささかゆがんだ価値観をもった父親の教えをストレートに
受け止めたことだった。
よい息子だったのだ。期待にこたえる高い能力、男らしいゆらぎのない生き方。
父にとってそれは誇りだったと思う。
しかし、息子がそこまで自分に縛られているとも考えなかっただろう。

彼の罪は取り返しがつかないほど重いものだった。
だからこそ、長い時間社会から離れることになった。
それでも自分の流儀から離れなかった彼だが、少しずつ変化があらわれる。
それは必要な時間だったのだろう。
服役を自分にとって意味のあるものだと受け止めた彼は、無期懲役を文字通り
無期とすることを決めた。

彼の心の動きや暮らしぶりも興味深いのであるが、一般的に受刑者たちが
まったく反省などなく仮釈放だけを楽しみに生活している、というのも
驚きだった。そんな中では勉強する、ものを考える、仕事をするという
普通のことすら難しいらしい。周囲の人によって暮らしは変わる、
というのが体現されている。
罪と償いとをどう処理するか、本当に難しいことなのだ。

竜が最後に帰る場所

2014-05-20 10:57:35 | 恒川光太郎
恒川光太郎 著

手が届きそうなすぐそこに見え隠れしていそうな、
それでいて手に取れないもどかしさ。
著者の生み出す世界は私にとってそんな存在だ。
既視感がある。
懐かしさがある。
そこに行ってみたい。
戻れなくてもいい。
それなのに行けないことが悲しい。

この5編もそれぞれにしっかりとした世界観が構成されながら、
各々個性的な作品だった。
時間の感覚も独特だ。
行きつ戻りつしたり、長い時間をかけてつくりあげられたり、
世代を超えて受け継がれたり。
いったいどこからこんな物語が生み出されるのだろう。

最も好きなのは「夜行の冬」。
錫杖をもった赤い帽子姿の女が先導する徒歩の旅。
行きついた町は自分がこれまで住んでいた場所のパラレルワールド。
そこで旅をやめてもいいし、さらなる世界を求めてまた
歩き始めてもいい。ただ、脱落したものは闇にのまれる。
とても怖くそれでいてファンタジック。
赤い女の脈絡のない姿には、逆にリアルを感じてしまう。

著者の作品はずっと読みたいと思う。