息をするように本を読む

初めて読んだ本も、読み返した本も、
ジャンルも著者もおかまいなしの私的読書記録
と、なんだかだらだら日常のことなども

いのちのハードル

2010-10-31 14:53:40 | 著者名 か行
木藤潮香 著

ドラマ化もされた『1リットルの涙』の主人公、木藤亜也さんの母の手記。
これは『1リットルの涙』『 ラストレター 「1リットルの涙」亜也の58通の手紙』
と合わせて3部作として読むのが正しい。

というのも、ドラマで話題になった頃、『1リットルの涙』だけを読んで、
いまひとつ流れに乗れない、という声をよく聞いたからだ。
潮香さんの視線からの話があって初めて、亜也さんがどんな状態だったのか、
どんな闘病だったのかが理解できる気がする。

だんだんと動けなくなる病と闘いながら、けなげにいきる娘。
どう支えていくのか、母親のつらさが身に沁みる。
妹が年頃になっても姉に遠慮しておしゃれできずにいるのを、
「お姉さんには、最高のタオルと一万円以上するネグリジェを着せているの。
妹がきれいなのはうれしいはずだからおしゃれをしなさい」
とさとす場面は、女性ならではの切なさを感じる。

また、働くことが不可欠という立場にあって、病気の子を持つ苦しさが
よく伝わってくる。
「辞めればいいじゃない」「辞めるべきだ」
幼児や病人、老人を抱えていると、ごく気軽に言われる言葉だ。
女性だけが。

作家の山崎洋子さんは、自分が生活のすべてを担い、夫の借金まで
背負っているのにもかかわらず、夫が倒れたとき、合言葉のように
この言葉を言われたという。
世間的に地位を確立していてもそうなのだ。

多くを乗り越えた母の強さ、美しさに心を打たれる。
そしてまた、家族の皆さんが幸せであるよう願ってやまない。

余談だが、騒音おばさんとして逮捕された女性は、亜也さんと同じ
脊髄小脳変性症を患う家族を2人も抱えていたという。
そしてトラブルのもとになったのは、その家族の車の乗り降りのため、
路上駐車せざるを得なかったことだとか。
そこにご近所からの宗教がらみの嫌がらせ(病気を治したいなら入信しろ)が
絡み、追い詰められていったらしい。
罪は罪としてほかの要素を切り捨てても、これだけの病の人を2人……と思うと絶句した。

夜市

2010-10-30 10:22:28 | 恒川光太郎
恒川光太郎 著
第12回日本ホラー小説大賞受賞作

台風のように発生し、誘われた人を取り込んで何かを買うまで帰さず、
いずこかへ消え去る夜市。
異世界とのつながりの場でもあるそこに、弟を買い戻そうと踏み込む男と
巻き込まれた女。
私の大好きな異空間ものです。
なにしろ、うまい! なのでおもしろい。ぐいぐい読まされる感じ。

そして、しっかりと怖い。


収録されている「風の古道」も素晴らしい。
ふと紛れ込んだ脇道から、時空を超えた異世界の街道が開けている。
現代の東京で暮らす小学生の男の子が、迷い込んだ古道で友人に死なれ、
生き返らせたいと旅をするのだが、何しろ深い。
深く深く考えされられる。
なのに、読後感は古道の風のような軽さ、さわやかさがある。

この作者の作品はまだまだ読みたい。
読んだのもあるけど、それはいずれ

永遠の森 博物館惑星

2010-10-29 13:36:21 | 著者名 さ行
菅浩江 著

博物館惑星ですよ?
もうこの言葉だけでときめくこと間違いなし。

予想を裏切らず、地球の衛星として浮かぶ丸ごと博物館の惑星があって、
考えられないようなゴージャスな美的、知的空間が広がる。

そこにはさまざまな美術品が持ち込まれるのだが、それが短編となっている。
著者の知識の広さ深さ、そして美の残酷さと魅力。
とてもよかった、としか言いようがない。

学芸員は脳とデータベースを直結させてダイレクトに検索ができる。
でももちろんバージョンアップが不可欠だから、初期システムに対応した
学芸員は次第に時代遅れとなり、負荷が大きい新システムからは締め出されていく。
そんな哀しさも美への畏れの前にはかすんでしまう。


文庫版の表紙はファンタジックな紗をかけたようなイラストだ。
私には春の靄がかかった夕暮れをイメージさせる。
それがこの物語全体に漂うやわらかな雰囲気そのものに感じた。

クッキング・ママのダイエット

2010-10-28 11:15:47 | 著者名 た行
ダイアン・デヴィッドソン著

クッキング・ママシリーズは延々と続いて、これで15冊になる。
ええ、そうですよ。全部読んだどころか全部うちにありますよ。

なんでまたこれほど読み続けてしまっちゃたんだろうね。
最初の一冊はまだ独身だった妹が実家から遊びに来た時に、
飛行機の中で暇つぶしに読んだからあげる、と置いて行ったことだ。
結構面白かったので、新作が出るたびになんとなく買ってきた。

コロラド州のアスペン・メドウという小さな町でケータラーをしているゴルディが主人公。
シリーズの最初ではDV男との離婚後、ひとり息子を育てるために必死だった。
その一生懸命さが当時子育てに追われていた自分と重なったのかもしれない。
その後、ゴルディには再婚があったり、息子の学校のことで悩んだり、元夫が亡くなったりと
いろいろな出来事があり、私までともに歩いてきた気がする。
そしてそこには殺人だの詐欺だのなんだの、事件がつきまとい、なぜ首を突っ込む?と
いらつくほどに、ゴルディが巻き込まれていくわけだ。

毎回手抜きせずに出てくるパーティメニューのお品書きや、おなかをすかせた息子にせかされて
あわてて、でもきちんと作る食事のレシピも楽しい。
ただ、分量が多いのと、コロラドは高地なのでふくらます系のお菓子がどこまで共通レシピで
いけるのかが不安で、あまり作ったことがない。

実はまだこれ読了してない。ちまちま楽しみ中なのだ。
そして読む本がないなあと思ったら、きっとまた2とか5とか適当に引っ張り出して読み返すと思う。
すご~くうまい、とか名作というのではないと思う。
でも舞台設定とストーリーがあいまって、親しみやすい楽しさに満ちている。

タイトルは『クッキング・ママの○○』で統一されており、○○にはクリスマスとか、
捜査網とかが入るわけなのだが、どれがどれだかわからなくなるため、背表紙に
通し番号をふるという暴挙に出ている。

まあ、それくらい愛読してるので勘弁してください。

ゴシックとは何か

2010-10-27 10:46:59 | 著者名 さ行
酒井健 著

ゴシックという単語には、何やら魅力的なイメージを膨らませてしまうのだが、
これは、ヨーロッパの大聖堂が作られてきた歴史を背景として、
ゴシックという概念の誕生とその理由などがとてもわかりやすく解説されている。

大きな森であったヨーロッパに都市が生まれ、人々が集まって暮らし始める。
土着の信仰がやがてキリスト教に統一されていき、かつて暮らした森をイメージさせる
大聖堂がつくられていく。
あの魅力的な凹凸や複雑なつくりは構造的に必然だったものであり、
グロテスクな彫刻はキリスト教以前に身近にあった妖精や怪物の名残であるという。

大聖堂はあらゆるものを取り込むことで広がってきた、キリスト教の象徴なのだ。

私はいわゆるグロッタに心惹かれるものがあるのだが、グロッタがどうして生まれたのか
何を表そうとしているのかというものを本書で初めて理解した。

タイトルといい表紙といい、やや硬めの印象ながら、とても読みやすくわかりやすい一冊だ。
キリスト教、ヨーロッパ、ゴシックなどの理解度が増し、ほかの本を読むときの助けに
なることは間違いない。