息をするように本を読む

初めて読んだ本も、読み返した本も、
ジャンルも著者もおかまいなしの私的読書記録
と、なんだかだらだら日常のことなども

世界史怖くて不思議なお話

2013-11-30 12:00:12 | 著者名 か行
桐生操 著

おなじみのシリーズだが、ここで書くのは初めてかもしれない。
というのも、文中の!マークの多用とか、文章の運びとかが、
週刊誌っぽいというか、軽々しいというか、あまり好みでないんだよねえ。

しかし、内容的にはよく研究されていてとても面白いのだ。ジレンマ。
これが淡々と書かれたものだったら、シリーズ全部揃えたと思う。

もちろん目新しいものばかりがあるわけではないのだが、謎に満ちた
事件や人物を切り取り、当時の社会情勢や文化的な背景を交えつつ
語る、という形式なので、特に歴史に強くなくても楽しく読める。
もしかしたら、私が好まない文章も、人によってはすごく読みやすいの
かもしれない。わがままでごめんなさい。

歴史に残る人物には、人を惹きつけるカリスマ性がある。
それが周囲のお膳立てによって作られたものか、本人がたまたま持ち合わせた
資質なのかは別として、まわりの全てを巻き込み、大きくなっていく。
きっとその中心にいる本人は、台風の目の静けさのように、案外周囲の
状況はわかっていなかったのではないか、という気がするのだがどうだろう。
自らそれに酔い、突き進んでいくような人物であったとするなら、
相当に特殊な、普通の暮らしは到底できないような人だったのか。

同じ人物でも角度を変えると違って見える。
それが歴史のおもしろさと思うのだが、こんなふうにキーワードで
まとめた本は、それを存分に楽しませてくれる。

静かな黄昏の国

2013-11-26 10:05:03 | 著者名 さ行
篠田節子 著

あの地震で復刊されたといういわくつきの一冊……らしい。

原発後の日本を舞台にした表題作は素晴らしい。
経済力とともに発言力も政治力も失った近未来の日本では、
すでに生鮮食品というものは庶民の口には入らない。
力をつけた中国から来る酸性雨によって植物は壊滅し、
見て楽しむ緑すら既にない。
品種改良や育成法で解決しようとした時期は束の間で、
すぐに合成繊維製の植物が、季節に合わせて色や姿を変えるほうが
安価であるとして取り入れられる。
あのオリンピックのとき、芝生に緑の塗料をまいていた光景が
よみがえり、ぞっとしたのは私だけではないはずだ。
世界の方向性がそうなったとき、清潔や細やかさや高い技術で
生き延びようとした日本の価値観では太刀打ちできない。

ただ老いてなんの価値もない、過去の国・日本。
寂れた古い都営住宅に住む老夫婦のもとにわずか500万円で入れるという、
終身介護施設リゾートピア・ムルへの誘いが来る。
そこに入れば長くても3年しか生き伸びないという。
それは強制的な延命が行われないから、というのだが。

ユートピアのような森の中、本物の木でできた家に住み、
新鮮な野菜や魚を口にする日々。
しかし、そこには奇形の魚が泳ぐ湯の川が流れ、巨大なきのこがはえ、
双頭の鹿が遊ぶ。
そして住む人々は次々と死へと向かっていくのだ。

なぜそんな森が残っているのか。
それは核の中間保管施設だったから。
目に見えない毒に犯された美しい世界。

こんなに恐ろしい話なのに、長く生きた終わりにこんな暮らしも
悪くない、と思った自分が怖い。

花の埋葬

2013-11-25 11:38:21 | 著者名 は行
坂東眞砂子 著

ああ、夢の世界だ、と思った。
私はよく夢を見る。それはそこだけで成立した世界で、
通常は理不尽なことがまかり通り、それをなんとも思わない。
目覚めてからもなんとなく懐かしくて戻りたくなる。
その雰囲気に近いものがあったのだ。

さらりと読めて完結する小さな物語。
ほんのひとさじ効いた毒、ぐらりと揺れる世界観。
懸命に話していた相手は既に死んでいたり、
そもそも存在しなかったりする。
はかない青春を生きているはずの自分は、
醜く老いの気配を漂わせている。

女性ならではの視線と心理の動きの捉え方は見事としか言えない。
人生の喜び、苦しみ、虚しさ、切なさ、そんなものを
くっきりと切り取っている。

短編だからこその美しくまとまっているのかもしれないけれど、
ひとつひとつに隠された長い物語を読んでみたい。

暗いところで待ち合わせ

2013-11-23 14:49:13 | 著者名 あ行
乙一 著

恥ずかしながら、これホラーだとばかり思い込んでいた。
いやあベタなタイトルよね~と横目で見つつ、今まで読まなかった。

……全然違いました。すみません。
しかも面白かったです。古書でなければ一生手を出すことがなかったかも。
ありがとうブックオフ。

事故で視力を失い、大学を中退。たったひとりの身内である父をも失って
残された家で静かに暮らす主人公・ミチル。
そこに、すぐ目の前にある駅のホームで起こった殺人事件の容疑者が
忍び込んできた。
スリリングな状況から話は始まるのだが、そこにあるのは
とても静かな世界だ。古い日本家屋の寒々しい部屋。外の状況を知る
ためだけに、時折つけられるテレビ。毎日繰り返されるミチルの日課。
それはたくさんの哀しみとあきらめのあとにようやくたどり着いた暮らし。

容疑者として警察から追われるアキヒロは不器用で生きるのが下手だ。
単にそれだけのことで人から疎まれ、敵を作ってしまう。
犯してもいない殺人に怯え、なぜか逃げてしまったとき、彼はミチルを
見つけたのだ。
息を潜め、気づかれないように暮らした数日間。
ミチルに助けられ、手を貸して過ごした数日間。
日が当たる場所からはずれてしまった二人はいつしか心を通わせ、
心は静かにあたたかく育っていく。

息詰まる状況なのになぜかおだやかな物語。
ミチルを心配する友人のカズエとのエピソードもいい。
すべてがハッピーエンドとはいかないけれど、読後感はさわやかだ。

昭和の皇室をゆるがせた女性たち

2013-11-22 10:36:11 | 著者名 か行
河原敏明 著

中宮寺で仏の道一筋であったはずが、思わぬ恋に落ちた一条尊昭門跡。
運命にに弄ばれ、生涯に5度も名を変えることになった松平佳子。

じつはこのおふたりの生涯を読んでみたかった。
ほかの本で気になっていた名前が、本書の目次にあがっているのを見て
手にとったのだ。

“皇室をゆるがせた”とまとめてあるが、登場する女性たちは、
時代も立場もさまざまである。高貴な家に生まれ、何不自由なく、
しかし徹底的に箱入りに育てられた女性たち。
伝統を背負った特殊な世界であるから、
そこに起こった事件は、周囲に大きな影響を与えた。
しかし、表面的な語りに終始するので、生涯を短く整理している、
という意味であらすじを知るにはいいがやや物足りない感じだった。

一条尊昭門跡、松平佳子の場合、そこには時代の移り変わりと
敗戦があり、誰にもどうしようないほど急激で大きな変化があった。
莫大な財産は税金の名のもとに奪い取られ、家宝は売却を余儀なくされた。
尊ばれ敬われていた身分は否定され、今日から庶民だと言い渡される。
何も知らないことが美徳であったのに、突然自力で生きていけと言われた
混乱と困窮は想像にあまりある。
この時代でなかったら、二人とも静かな人生を送っていたのかもしれない。

今城誼子、山本静山門跡、嵯峨浩の章は、ほかの本に書かれたものを
そのまま短くしただけなので、ちょっとがっかり。
しかし、ひとりひとりにフォーカスを当ててもっと読みたいなと
思えたので、きっかけづくりにはいい本ということか。