息をするように本を読む

初めて読んだ本も、読み返した本も、
ジャンルも著者もおかまいなしの私的読書記録
と、なんだかだらだら日常のことなども

やめられない――ギャンブル地獄からの生還

2013-08-12 10:44:01 | 帚木蓬生
帚木蓬生 著

ギャンブルというとやはり競輪、競馬、ボートレースなどの
公営ギャンブルが思い浮かぶ。
しかし、日本のギャンブル依存の特徴はパチンコ・スロットが
ほとんどであることらしい。これはギャンブルとは認められておらず、
日本中のいたるところに存在する。
まず、白昼堂々通りに面して営業しており、誰でも入れるこれらの店が
これほど危険な可能性を秘めていることに驚きだ。

確かにパチンコで身を持ち崩したという話は聞いたことがある。
子どもを車の中に置き去りにして熱中症で死なせるという悲惨な事件も
毎年のように耳にする。
これは意志や精神力の問題ではない。ましてや親の育て方や妻の対応など
何の関係もない。
ドーパミンとノルアドレナリンの量が増加し、セロトニン系の機能が低下
しているという、れっきとした脳の病気である。治療が必要だ。

たくさんの事例が紹介されているが、本当にむなしい。
本人もダメだと思っている。しかし、パチンコの看板を見たり、
想像しただけでもう忘れてしまう。なんとかお金のやりくりをして
勝つわけがない勝負に挑んでしまう。
そこでは親も配偶者も仕事も我が子さえも、優先順位が下になる。
そして水面下の依存症は女性に多いという。
もちろん他のギャンブルでも同じ状況が生じている。
ただ所構わず長時間できるのがパチンコである、ということだ。

もっともやっていけないのは借金の肩代わり。
そしてもうしないと約束させること。
これは何の意味もなさないばかりか依存症をさらに重くするという。

後半では患者たちの自助グループGA(ギャンブラーズ・アノニマス)に
ついて詳しく語られる。
適切な診察を受け、サポートへつないでもらうことで、何年もギャンブルから
離れている人がたくさんいる。

何だか聞いたことがあるような言葉がたくさん出てくるのに、
知らなかったことばかりでショックだった。
特にパチンコのこの状況が許されているのが日本だけということ。
確かに韓国ではパチンコ店は営業できないと聞いたことがある。
いろいろな業界がからむだけに難しいのだろうが、カジノ誘致の前に
どうにかすべきなのではないだろうか。

閉鎖病棟

2011-06-11 13:39:05 | 帚木蓬生
帚木蓬生 著

精神科病棟を舞台に、入院患者たちの人間模様と起こってしまった殺人事件を描く。
単なる謎解きやミステリーに終わらない。

一見淡々と過ぎる入院生活であるが、一人ひとりがなぜ精神科病棟に来たのか、
どんな治療や助けを必要としているのか、身内からの疎外や友人もいない哀しさなど、
さまざまな事情や苦しみを抱えている。
それは精神的な問題というよりは、人並みはずれた不器用さや要領の悪さという
表現のほうがふさわしいような問題の数々である。

そして決して恵まれてはいない環境。
よりずる賢くないと生き残れないような劣悪な場所で生きざるを得ないのに、
誰よりもピュアであるという矛盾。
登場する患者たちからは学ぶことが多く、その背景を知るほどに涙が止まらない。

誰かを守りたい、誰にも迷惑をかけずに生きたい。
ただそれだけの想いのために、一生懸命に生きる。

ストーリーを追うことよりも、そんな小さなエピソードに心を奪われた。

エンブリオ

2011-02-04 21:43:36 | 帚木蓬生


帚木蓬生 著


子どもが欲しい、という気持ちはとても理解できる。
でもどんな方法をとっても、という気持ちはわからない。
しかし生殖医療の現場で、少しずつステップを重ねていくと、その抵抗感は薄れていくという。

生殖医療は神の領域であるという人もいる。
どこまでが許されるのか、どこまでが人として無事に生まれ、育つことができるのか。
まだ歴史が浅い分野だけに、様子見しながら進んでいるというのが事実なのだろう。

どんなに条件が悪くても、ほかの病院で絶望視されても、妊娠させてみせるという天才医師。
当然ながら、そこには各地から患者たちが集まるのだが、天才であるゆえにその欲望は
エスカレートしていく。
欲望といっても、純粋に患者のため、医療のため。私利私欲でないだけに怖い。

男性の体に胎児を着床させる。
自分の精子を使った受精卵を、患者の体内に着床させる。
これらがすべて、学術的な意欲に基づいているのだ。

これは夢物語でも空想でもなく、現実に起こっていてもおかしくないことだ。
50歳を過ぎて国会議員が出産する、しかも他人の精子と卵子を使って。
それが黙認されたのだから。

誕生はスタートに過ぎない。そこから背負う荷が重すぎる子は、やはり苦労が多いのではないか。
どこで線を引くのか、その線を侵した場合どう償わせるのか、明確にするときは来ているのかもしれない。

臓器農場

2010-10-11 09:47:06 | 帚木蓬生
帚木蓬生 著

著者の作品には悪人がいない、と思う。
とくに大きな罪を犯す人ほど、誰かのため、何かのために
よかれと思う気持ちで突っ走る。

無脳児、臓器移植をキーワードに語られるストーリーの舞台は、
日差しあふれるガラス張りの食堂をもつ、美しい丘の上の病院。
主人公が通勤に使うケーブルカーを運転するのは、子どものまま
おとなになったような障碍者だ。
そんなおだやかな空間とは裏腹に、秘密は着々と育っている。

著者は精神科医。医療現場の描写はさすがだ。
そしてさまざまな問題点についても誰よりも見てきた人なのだろう。

長く生きるのは本当に人間の夢なのか?
私自身は最も怖い言葉が「長寿」であるだけに、この疑問に答えはでない。
もちろん小児科が舞台である以上、わが子が命長らえることを
望まない親はいないだろうし、それはわかるのだが。

とくに明記はされていないが、著者はクリスチャン、もしくは近い
知識をもっているのだろうと思う。それともこのような問題に日夜
向かう医師たちは、どこか宗教家のようになるのだろうか。