息をするように本を読む

初めて読んだ本も、読み返した本も、
ジャンルも著者もおかまいなしの私的読書記録
と、なんだかだらだら日常のことなども

モモ

2012-10-31 10:42:21 | 著者名 あ行
ミヒャエル・エンデ 著

言わずと知れた名作だ。
本国ドイツに次いで日本で人気というのもわかる気がする。
慌ただしい時間に追われて暮らしていると、失った時間について考えてしまうから。

といっても最近の私はそこまで忙しくない……はず。
しかしやたらと睡眠時間が長くなりやっぱり時間がない。
何なんだ、冬眠か。いやそれには早いし。

ある街に「時間貯蓄銀行」を名乗る灰色の男たちがあらわれ、時間を盗み始める。
人々の心からは余裕が消えていった。
ただひとりモモという少女だけは、これまでと同じように人の話に耳を傾け、
心を溶かし、あたためていく。
やがてモモは奪われた時間を取り戻す戦いへと巻き込まれていく。

初めて読んだのは小学生の頃。全く馴染めなかったのを覚えている。
それは多分モモのキャラクターに違和感を感じたからだ。
それまで読んできた主人公たちは、それなりに綺麗で魅力があったのに
モモは薄汚くなんだか好きになれなかった。

少しずつ本書の魅力がわかってきたのは、年齢を重ねながら何度か読み返してからだ。
あるときは忙しい自分の暮らしに重ねて、あるときは幼い娘の姿に重ねて、
いろいろな視点をもてばもつほどにおもしろさが理解できた。

これは時間に追われる現代人への警鐘のように思えるが、実は経済の仕組み全体への
問いかけなのだという。
大きなテーマをあえて子供にも読める形にしているのがすごい。

致死的退屈症なんて皮肉としか思えない病名だが、そのへんにいっぱいいそうだな。

英語となかよくなれる本

2012-10-30 10:21:06 | 著者名 た行
高橋茅香子 著

結論からいうとまったくなかよくなれてません。
本当に言語音痴としか言いようがなくお恥ずかしい限りなのだが、
そんな私があえて言う。
この本読んでみて、結構楽しい!

これまで出会った英語ができる人たち、それも仕事でがんがん使うレベルの人って、
日本語がとてもきれいなのが共通点だった。
もちろん例外もあるけど、会話に英単語が混じったりしない。
言語を行き来でき、それをなりわいにできるということは、頭の切り替えもきちんと
行われているのだなあと感心させられた。

著者はまさしくこのタイプ。
アガサ・クリスティで英語を学んだ彼女。上達のコツは好きなジャンルの本をどんどん
読むことだったという。そうすることで表現力が豊かになるらしい。
う~ん、とうなずけることばかり。
人一倍努力家で優秀な人であることは間違いないが、それ以上に楽しく学ぶ姿勢が
読むものをひきつけるのだ。

さらっと読めるボリュームだし、特にハウツーな感じもない。
なのに、身近なものを利用した手軽で効果的な勉強方法がぎっしり詰まっていて、
おすすめの本も紹介されている。
英語を勉強したいと口に出すのも恥ずかしい初心者でも、高年齢やり直し派でも
そんなに抵抗なく手に取れそうなものが多いのもうれしい。

と楽しく読んだのだが、私が英語をモノにする日は来そうにない。
こんな本に中学生くらいで出会えていたらなあ、と悔やむわけだが。
たまに好きな本を原書で読みたいなあと思うときはあるんだよね。
モノにする必要はないが、ちょっとわかる程度までの進化を目指そうではないか。
その前に寿命が尽きそうであるが。

愛逢い月

2012-10-29 10:39:56 | 著者名 さ行
篠田節子 著

いかにも篠田節子らしさを発揮している短編集。
どれも女性の心情を鮮やかに切り取り、的確な言葉にうつしかえる。

中でも「秋草」は美しい襖絵と、相手の心変わりを知った女心との対比が
素晴らしい。
源氏物語の世界を見るようで胸が締め付けられる。

そして「柔らかい手」。
奔放に生きた男が海での冒険で事故に遭う。瀕死から立ち直った彼は
妻に介護を受けることになる。
やがてそれが恐怖となり、疑心暗鬼にとりつかれていく。

登場する男性が少しずつ情けないのがリアルだ。
ダメなところ、頼りないところこそ愛すべき部分だが、
それが増幅したり、年月を重ねたりしていくと崩壊する。

人の心の揺れや運命のいたずら。
読んでいてドキッとしたり、ぐっときたり。
響いてくるのが魅力だ。

葬神記

2012-10-28 10:32:35 | 著者名 あ行
化野燐 著

考古探偵一法師全の慧眼というのがサブタイトル。

遺跡調査の発掘現場で死体が発見された。
そこにあるのはたったひとつ、被害者の足跡だけ。
そして発見したのは現場にアルバイトに来た男・古屋。

「ぬかと様の祟り」という言葉がささやかれる中、考古探偵・一法師が登場する。

豊富な知識と経験であざやかに事件を切る一法師であるが、言葉がきつく
細かい説明はしない。
だから、解決したようでいて、謎をそのまま持ち越したりする。
それに振り回される古屋のキャラクターは、頼りなすぎてあきれるほど。

考古学研究は現実とのしのぎ合いのようだ。
発見される場所は工事現場であったり、公共工事の予定地であったり。
一刻も早く進みたいのに、調査が済むまでできない。
そして発掘は根気と体力と時間との戦い。
発掘の層によって時代を設定するのだから、いい加減なことは許されない。
どこにでもありそうなかけらが、世紀の新発見であることもある。

そして、役所絡みの不正とか、考古学への情熱のあまりの私物化とか、
集団ヒステリーともいえる祟りの噂と、それをあっという間に拡散した
ネットの怖さとか、そんなものすべてで物語が構成される。

何がこわいって人間だ。
長い歴史もネットのスピードも、そこに人を介さなければ何事もない。
悪意の人がいたときに恐怖が始まる。

発掘やら考古学の常識やらのなるほどなエピソードも楽しかった。

ねらわれた学園

2012-10-27 10:54:43 | 著者名 ま行
眉村卓 著

なな、懐かしい。
と本屋の店頭で平積みされている本書を発見。
そうなのか、アニメ化されるのね。

何回も何回もドラマ化や映画化されているので、本当に昔なつかしな
感じなのだが、今読み返してもストーリーが面白いのだ。
といっても舞台は中学だし、幼いんだけどね。

舞台は進学熱が高い阿部野第6中。生徒たちは受験ストレスから問題を起こしがちだ。
そこに高見沢みちるという女生徒が生徒会長になり、雰囲気が一変する。
彼女が支配する生徒会は圧倒的に生徒たちを取り込んでしまう。

それに疑問を抱く主人公・関耕児は背後に「栄光塾」という奇妙な塾と、
超能力があることに気づく。
そして謎の京極という男。

超能力のもつ万能感と、そう思い込ませる洗脳。
なんの気なしに通い始めた塾によって変貌したみちるはただのコマだった。

京極は実は文明が破綻しかけた未来からやってきたタイムトラベラーだった。

この時代での目的を果たせなかった彼は去っていく。

それなりに盛り上がりもあるし、人間模様の描写もなかなか。
何度も映像化されるだけのことはあります。
といっても作品によって舞台が高校になったり、人物の役割が変えられていたり
とかのマイナーチェンジはあるのだが。