息をするように本を読む

初めて読んだ本も、読み返した本も、
ジャンルも著者もおかまいなしの私的読書記録
と、なんだかだらだら日常のことなども

陰陽師 ―安倍晴明の末裔たち

2012-06-30 10:16:00 | 著者名 あ行
荒俣宏 著

膨大な知識とわかりやすい解説。
さすがアラマタ!な一冊だ。
ただ『帝都物語』みたいな小説ではなく、民俗学者として研究したルポの
形になっている。

ひところのブームは過ぎ去ったようだが、スピリチュアルはみんな大好き。
古代からまつりごとをも牛耳り、人々に多大な影響を与えてきた陰陽師。

平安を舞台にした物語が有名だが、それから陰陽師はどうなったのか?

陰陽師は公的に重用されたこともあるが、そればかりではない。
多くの民間陰陽師が存在し、有名な土御門家は中央にあってそれを取りまとめる役であった。
時代が進むにつれ、芸能を生業とする民をも束ねるようになる。
いわば土地に根付かない自由なものたちの集まりが土御門のもとにまとまっていたのだ。

今も高知には「いざなぎ流」という独特の陰陽師が残っている。
おそらく日本各地にこのような流派があったのだろうが、明治の神仏分離、神道の統一などで
次々と姿を消したようだ。
闇と影が失われた現代に、この独特の文化が生き残ることは難しい。
近い将来、滅びる運命にあるのかと思うと哀しいが、支えるだけ、守るだけでも大変なものを
一部の人に強制するわけにもいかない。

安倍清明は祭祀のほかに、天文・語学・生物・数学などあらゆる学問に通じていたという。
いざなぎ流でも「頭がよくないと大夫にはなれない」と言われている。
大夫とは、民間の陰陽師のことだ。
この知恵と知識を武器に人の心をとらえていたのだろう。

余談になるが、いざなぎ流の御幣の美しさにはびっくり。
モノクロの小さな写真でも魅力を放つ。
この切り方をマスターするのも大夫の勉強のひとつとか。
手先の器用さも大夫の素養のうちなのだろうか。

ドミノ

2012-06-29 10:05:14 | 恩田陸
恩田陸 著

入れ替わった紙袋から広がっていくたくさんの物語。
お菓子を買いに来たOLや趣味に興じる老人、子役の少女など、
どこにでもいそうで、お互いに何の接点もなさそうな人々、
なんと27人もが登場する。

意外なところでつながりあう接点がおもしろい。
個性的なキャラクターばかりだけれど、これだけ多いと
しっかり整理しつつ読むのがポイントとなる。

フルスピードで進みつつ、次々と違う人にスポットがあてられる。
くるくる変わる視点は、別の人物に変身したようでワクワクする。

すご~く丁寧に創り上げたたくさんのパーツを、きれいに並べて
一気に倒す! まさしくドミノ!
そしてこれはオチもすっきり。

あっという間に読めて読後感もいい。
でも、こんなに繊細な作品をこんな読み方してもいいですか?と
申し訳ない気分になる。
というわけでもう一回読もうかな。

ミステリオ

2012-06-28 10:33:14 | 著者名 や行
吉村達也 著

勉教』の「警視庁超常犯罪捜査班 File#1」だ。読んでみた。

やはりこちらのほうがわかりやすい。あたりまえか。
チームクワトロ初登場作でもあるのだが、出過ぎずかつそれぞれの役割をこなし、
事件解決へ導く過程はこちらがすごい。

衝撃的な連続殺人事件が発生。被害者は自宅からはるか離れた場所で発見される。
身代金請求があったにも関わらず、その時刻にはすでに死亡しており、遺体には
眼球がないうえ、「ミステリオ」という謎の言葉が書かれた紙片が入れられていた。

厳戒態勢の首相官邸で官房長官が殺害され、安置された遺体から眼球が消える。
次に狙われるのは首相なのか?
「チームクワトロ」が投入され、意外な事実が次々と発覚していく。

ネタバレになってしまうが。
未知の寄生生物が人間にとりつき、やがてはその姿までも変化させるというのは、
天使の囀り』を思わせる。
そしてこの物語のきっかけともいえる2011年に発表されたアリに寄生するきのこ。
非常に恐ろしい生き物だが、それが人間に?と考えるとその恐怖はさらに増す。
いつ起こっても不思議ではなく、それがテロに利用されるというのもありそうで怖い。

じっくりと静かな恐怖を感じさせた『天使の囀り』に比べると、ハイテンポで
リズミカルに読ませる。
会話部分などはやや冗長というか、メロドラマっぽいというか、なんとなく
乗れなかったが、あとは面白かった。

運命が見える女たち

2012-06-27 10:46:38 | 著者名 あ行
井形慶子 著

スピリチュアルは嫌いではない。
不思議な力はあると思うし、それを強くもつ場所や人があるのも理解できる。
神社の清浄な空気や、巨木の凛とした強さ、カンの働く鋭い人。
言い伝えられる禁忌、どれをとっても“何か”があるとしか思えないではないか。

占いはあまりしないけれど、興味がないわけではない。
力強くアドバイスされればきっと影響を受けると思う。

そんなスタンスの私が読んでみたわけだが。

何よりも怖いと思った。
なぜなら、著者は人一倍賢い。しかも経営者として経験値も高い。
あくまでも仕事として霊能者に出会うわけだ。
それなのに、途中であきらかにのめりこんでいくのだ。
こんなふうにいつもいつも答えを聞きたい、話を聞いてほしい、と
いう習慣がついてしまったら……と思うと非常に怖い。

登場する霊能者は良心的な人ばかりであるが、それでも高価だ。
1分間200円。
30分間5000円。
具体的に出てくる金額はそれほど高く感じないが、一晩中語ったという
描写もあるから、支払額は相当なものであると想像できる。
著者は経費としてあらかじめ200万円を用意されていたが、その後は
自腹を切ってでも取材を続けている、というか相談を続けている。
ちょうど彼女にとって大きな変化をもたらした時期であったことも
あるだろうが、この相談が生活の一部になっていた印象だ。

潜入ノンフィクション、と銘打ってあるが、なんとなく違う感じを受けた。
すごい迫力と、自身の体験だからこそ語れる深い話、ではある。
しかし、あまりにも個人的な感情に偏りすぎていて小説っぽくなって
いるような?
それに私はどうしても彼女が経営する会社のスタッフ目線で見てしまい、
不安や利用されている不快感を感じてしまうからなのかも。

それから子どもの頃のエピソードはいらなかったかな?
「塔」の話につなげたかったのだろうが、あまりうまく機能せず、
個人的な想いが先走っているように思えた。

構成も文章もうまいのでぐいぐい読める。
スピリチュアルをちょっと違う角度から見るにはいい作品だ。

最後の記憶

2012-06-26 10:51:22 | 著者名 あ行
綾辻行人 著

主人公・森吾の母は若年性のある痴呆症で記憶を失っていく。
彼女はひたすらバッタを恐れ、雷におびえる。
チキチキチキ……
耳に残る音。
森吾はその謎を探ろうとする。

この作品は著者が実験的に書いたものであるという。
なるほど、他の作品に比べてちょっと毛色が違う気がする。
謎解きには物足りずホラーとも違うような。

ゆがんだ時間とあるはずのないものと。
覚えておきたいものが次々と消え去る中、残るのがすさまじい恐怖
というのは、なんともつらいことだ。
そういう意味でこの架空の痴呆症も設定も怖さを増長している。
もしかして遺伝性なのではないか?と恐れる主人公の姿にも
わからないものへの冷たい恐怖がにじみ出る。

謎は意外にあっさりで、ええっ?という感じ。
がっかりしたという人はこれが原因だな。
壮大な物語を期待すればするほど、それでいいのかと思うだろう。
しかし、これはこれと思うとよく組み立てられた物語だ。