息をするように本を読む

初めて読んだ本も、読み返した本も、
ジャンルも著者もおかまいなしの私的読書記録
と、なんだかだらだら日常のことなども

晴明鬼伝

2011-11-30 10:10:10 | 著者名 か行
五代ゆう 著

平安時代を舞台にした伝奇もの、なんだけど、清明は出てこないわ、
超能力戦争と化すわ、異国人はいるわ、なので想像とは違った。
ただ、それはそれで結構楽しめた。

主人公は“役の一族”志狼。
朝廷を守ろうとする陰陽師・加茂忠行、保憲と覆そうと企む一味との戦いは
壮絶で、平将門も登場する。

政治が荒み、天変地異に苦しみ、真の闇に魑魅魍魎が跋扈した平安時代。
物語自体にリアリティはないが、時代背景を見極めた創作ものとしては
面白い。

で、冷静に振り返ると、主人公の悲恋がメインの物語。
そして、なぜ清明なのかは、最後まで読むと納得する。

道祖土家の猿嫁

2011-11-29 10:50:16 | 坂東眞砂子
坂東眞砂子 著

醜いよりは美しいほうがいい。
そこにあるだけで幸せになるから。
人間どうしても思ってしまう。発達障害の子供は特に美醜に敏感と聞くが、
本能が美を求め、それを素直に表現するからだろうか。

土佐の名家・道祖家(さいどけ)に嫁いできた蕗は「猿嫁」と呼ばれた。
しかし一方で、何者かに守られた運の強い女性。
迷信深く古い習俗が多く残る村で、決して楽ではない嫁という立場に
ありながら、少しずつ自分の暮らしの礎を築き、なくてはならない存在に
なっていく。
一度たりともちやほやされたり、持ち上げられたりしたことのない蕗。
しかし、芯が強く天真爛漫で、それは何よりの宝だ。

明治から大正昭和、ものの価値観がひっくり返る激動の100年。
2度の戦と自由民権運動の波が、山深いこの地を襲う。
子を産み育て、そして孫が生まれ育つ。

表だって活躍し、歴史に名を残すような女性ではない。
ましてや高等教育など受けてはいない。
狭い土地でずっと生きていてもこんなに壮大な物語が紡げるのは
ただ、役目を全うするその真摯さが身を結んだからだろう。

美醜は年齢とともに己の責任が加わる。
男は顔に責任をもて、というが女だってそう。
この長い物語に終止符を打ったとき、蕗の顔は美しかったはずだ。

陰陽師

2011-11-28 10:28:03 | 著者名 あ行
岡野玲子 作

漫画だ。侮ってはいけない。13巻もある。読み応えあり。
夢枕獏の原作をもとに、よく研究された美しい絵で物語を紡ぐ。

季節感、ことに清明の邸の庭は素晴らしい。
春にはのどかな陽や鳥のさえずりが、夏には力強い草の緑が、
秋には虫の音としなやかな秋草が、冬には耐え忍び春を待つ強さが、
何も言わずとも伝わってくるのだ。

そして衣装や小道具、遊びや食べ物など、文章だけでは理解しづらい
ものをよく描き出す。

そして都の大路。
深い闇、低い建物、土埃。周りをとり囲む山々。
まるでそこに身を置くように感じさせる絵だ。

前半は原作に忠実に、しかし真葛(まくず)という少女や、擬人化された
巻物などの脇役を加えている。漫画という形式をとる以上、ビジュアル的に
男二人が語るのみで難しかったのだろうし、これがいいスパイスにも
なっている。

後半は作者独自の展開が増えてくる。
この世界観、嫌いではないのだが、なにしろあまりにも広がりすぎ、
最終の13巻ではエジプトのクレオパトラの話になってしまった。
いいんだけどね、いいんだけど、ちょっと残念。

源氏物語 舟橋聖一訳

2011-11-27 12:04:37 | 著者名 ま行
 


紫式部 著 舟橋聖一 訳

源氏物語は特別なものだ。
勉強や研究を重ねている人がとてつもなく多いし、毎年毎シーズン
カルチャースクールに源氏関係の講座は確実にある。
ある程度の大学の国文科なら、嫌というほどやらされるようだし、
教養としてさらりと語れるレベルの人も星の数ほどいる。

もう古典文法もあやふやで、原文で読むと滞りまくりな私なんかが
触れてはいけない気がする。けど触れちゃう。
ダンテだってニーチェだって、読んだっていうのも恥ずかしいのに
ここで書いちゃったもんね~。怖いものなどないわ、あるけど。

とにかく面白い。
これがまだ日常的に小説など読む機会がない時代に考えられたなど
信じられない。
個性的な登場人物一人ひとりがしっかりと描き出されているのは、
自由に動くことのできない当時の女性を思えば奇跡的だ。
息苦しいほど狭かったであろう当時の貴族社会をうまく泳ぎ、
そつなく勤めを果たしながら、このシニカルな視点で観察していた
なんて、どんな才女だったんだ、と思う。

舟橋訳は原文にとても誠実だ。
多くの注釈があるので、いちいち戻るのがいやという人にはつらい
かもしれない。でも、何をもとに書かれたのか、この言葉に含む
裏の意味はなんなのか、自力で読むとたどり着けないことを
丁寧に解説し、なるべく原文の雰囲気を大切にしながら訳してある。
常識が違う、暮らしが違う、習慣が違う、そんな違いを飲み込みながら
源氏物語を読むのにはこれがベストと思うのだ。

そして何度も繰りかえし読むうちに、注釈が理解でき戻る回数も
減ってくる。歴史的背景や歌のもとになった当時の出来事や、
政治的な関係などが少しずつわかる(ような気がする)。
そのうち原文ですらすら読めるようになる(かもしれない)。

ゴサインタン―神の座

2011-11-26 10:50:36 | 著者名 さ行
篠田節子 著

結婚難の農家の息子。
集団お見合いで出会ったネパール人女性と結婚にこぎつけたものの、
言葉も通じず、根本的な生活習慣が異なり戸惑いを隠せない。
さらに、突然の両親や愛猫の死が相次ぎ、それが彼女の行動と無関係に
思えなくなってくる。

なんだか暗いばかりで追い詰められていく物語に思えるし、実際
前半はかなりつらいものがある。
家の存続を願い責任を感じているようでいて、肝心なところは人任せの
典型的な農家の長男。“嫁”というものは前提として一段下にいるのだが、
それに加え、言葉が通じず、生活習慣がわからないというので、まるで
動物のような扱いをする。
私も地方の出身だから、こんな人がいるのも、考え方も分かるのだ。
悪気ではないってことも。でもだからこそつらい。
言葉の通じない嫁をなんとか躾けようと体罰に走る母の姿もつらい。

しかし、その嫁・カルバナは、実は不運にもさらわれてしまったネパールの
生き神。両親を含め何もかも失ってしまった主人公は、再生を求めて
カルバナの生地・ネパールへ向かう。

物質文明の恩恵などなにもない、ただ自然の恵みにすがった暮らし。
そこで役割をもって生まれてきていた妻・カルバナの価値を初めて知り、
主人公はすべてを覆される。
村人のために働き、そこで暮らすうちに芽生える新たな価値観。
田舎のお山の大将だった男が知らない世界に目覚めていく。

幸せっていったいなんなのだろう。
人生の価値ってなんで決まるのだろう。
さまざまなものを考える機会をくれる一冊だ。