息をするように本を読む

初めて読んだ本も、読み返した本も、
ジャンルも著者もおかまいなしの私的読書記録
と、なんだかだらだら日常のことなども

地名に隠された「東京津波」

2013-04-30 10:42:16 | 著者名 た行
谷川彰英 著

東日本大震災のとき、浦安などで大規模な液状化現象があったことは報道されたが、
津波に関しては、東北の被害の大きさに注目が集まり、東京湾での被害は語られなかった。

実は船橋では2.4m、木更津港では実に2.83mという大きな津波が来ていたのだ。

著者は東京の古地図をもとに、高低差を研究し、地名に隠された危険性をまとめた。
これは危機管理にはもちろん役立つであろうが、それよりも東京という土地を
改めて知るのにもとても面白いと思う。

東京は坂が多い。
私は坂の多さでは有名な長崎の出身だが、あそこは狭い土地に山→海という単純な図式が
あるだけだ。東京の場合、それが内陸のほうまで入り込み、複雑な形状をもつ。
なぜこんなところに坂?と思うことも多いし、単純な地図ではとても近いと思った場所が
大変な坂に阻まれていたりする経験もある。

これは武蔵野台地とそれ以外の低地という、東京の土地の特長からきている。
もともとから台地であった堅牢な地盤と、その後土砂が堆積し、さらに干拓や埋め立てを経て
人々が住み着いたもろい地盤が混在しているのだ。
そして低地には「谷」「池」「橋」「堀」などという地名が残されている。
これらの文字がないから安心というのでもなく、例えば「墨田」は隅が当用漢字にないと
いう理由でこの字になったというから、ほかにも多々ありそうだ。

東京は主要な街とそこにあるビルや建物、そしてそこへ至る鉄道のルートのみで
把握していることが多い。デザイン化された路線図が頭の中にあって、それをもとに
移動を組み立てる習慣があると、全体像は見えにくい。
現地に行って、住所をもとに行き先を探すとき、初めてリアルな地図と地形に出会う。
しかし、それがまた楽しかったりもする。
つまり、読みながら地震への危機感を感じつつも、ああここってこんな場所だったのか、
そういえばあそこに坂があったなあ、などと散歩の雰囲気が味わえるのだ。

災害時マップも重要、情報取得のためのツィッターも大切だけど、こういうふうに東京を知る
という過程もあっていいんじゃないかなあと思った。
たぶん著者が発信しようとするメッセージを思い切り違う形で受信したな、私。

皇位継承と万世一系に謎はない

2013-04-29 10:49:19 | 著者名 や行
八幡和郎 著

特に私は右でも左でもない。
皇室を盲信してるわけでもないが、日本はいい国だと思うし愛している。
だからこういう本を読むにあたっても構えることはない。
ちなみに今回は図書館で見つけて借りた。

で、結果的にかなり当たりだった。
まず天皇制の歴史を淡々と説明され、じっくり復習できたこと。
そして、伝説とか噂レベルのものと、史実とをきちんと整理できたこと。
このあたりがよかったポイントだな。
ただ、何しろ古代から始まる話だから、史実といってもどこまで言い切れるか、
疑問が残るものも多い。それはそれで、確実に残る文献はこうで時代背景が
こうと根拠を示してあるので、それなりに納得できるのだ。

もっとも疑問が多い継体天皇については、やや物足りない感じも残るが、
理由を述べてバッサリ斬っている。

また昨今、中国や韓国との関係であやふやにされがちなことにもメスを入れ、
受けた影響と、日本独自の文化とをはっきりさせている。
日本人の考え方として、知らず知らず譲りがちで、いつの間にか他者の手柄に
なりそうなことも是非を示しているのだ。

日本人は昔から外交ベタというくだりには笑ってしまった。

さらにはいま皇室がおかれている問題と、これから解決するべき課題も示している。
これには時代によって変わるべきもの変えてはいけないもの、という問題を含め
考えさせられるものがあった。

というわけでなかなか面白かった一冊。
天皇制を知る第一歩としてもいいかも。

猫と針

2013-04-28 10:38:49 | 恩田陸
恩田陸 著

演劇集団「キャラメルボックス」のために書かれた作品。
キャラメルボックスは結構好きなので、これにも興味をもった。

しかし、やはり私は脚本ってあまり得意ではない。
たぶんこの作品は演じる人まで想定して作られているだけに、
視覚的効果も計算済みで、そこまで文字から読み取れない素人が
楽しむのにはハードルが高いのだ。

一面、こういうのが大好きで、脚本も見慣れていて、
さらにキャラメルボックスが好きだったりする人にはたまらないかも。

高校時代の友人が亡くなり、葬式の帰りに集まった元映画研究会のメンバー。
男女5人が織り成すプチ同窓会は、どうにも雰囲気が暗い。
そのうちにかつての不可解な事件へとおよぶ。
あの事件はなんだったのか。
そして今夜の宴は誰かが仕組んだものではないのかという疑惑が浮かぶ。

このような形での発表ではなくても、演劇っぽい作品は多かった著者。
しかし、ここで思い出す、そういえば著者の作品でいちばん苦手だったのが
このタイプなのだよなあ。

というわけで、作品がどうこうというよりも、入り込めなかったという感想。
これは個人の趣味なのでやや残念です。

美術で読み解く旧約聖書の真実

2013-04-27 10:20:28 | 著者名 は行
秦剛平 著

西欧の文化はキリスト教の影響が強いものが多い。
見慣れた名画もモチーフは聖書の中の一節であり、それはキリスト教徒にとっては
基本的な常識で、わかって当然という前提のもとにあったりする。

本書は旧約聖書の物語を追いつつ、各時代の名画に解説を加えていく。
何気なく見てきた絵の中に込められた深い意味に感動する。

天地創造の光景が環に描かれている秘密。
女性が肌を見せているとき、その見せる分量によって立場を示していること。
聖書が翻訳され、口伝えされていく過程で、意味の取り方が変わり、
描かれる絵のモチーフにも変化があること。
符丁として使われる小道具たち。

どれもこれも知らないでは、本来の絵の意味を理解できないばかりか、
取り違えかねない。
そして一つひとつを知ることは実に面白く、喜びを感じる。

さらに、ミッションスクールで宗教を教わりながら覚えた違和感を改めて思い出した。
激しい怒りを見せる神、時として決して平等に思えない扱い、
単なる勧善懲悪では語れない複雑な関係。
理解できなくてもまるごと受け入れて身を任せることができればいいのかもしれないと
思いつつ、考え込んでしまったあの頃。
きっとその中の多くは、時代や文化の違いへの理解しがたさと、多くの言葉で訳されてきた
過程での混乱もあるような気がするのだ。
もちろんそれだけでは語れない、考え方の根本的な違いも大きいが。

カインとアベル、ダビデ、サムソンとデリラなど、よく耳にするけれど曖昧になる
人物のことをおさらいできたのもよかった。
こういう本はときどき読み返すといいなあ。

ファーブル昆虫記

2013-04-26 10:53:45 | 著者名 は行
ジャン・アンリ・ファーブル 著

虫は苦手なのだが、この本はとても面白く読んだ。
安全な場所から見るだけだったら平気。

スカラベなんてこの本で初めて知ったので、本当に驚異だった。
とてつもなく面白い習性には釘づけになったし、これを太陽とみなした
エジプト人たちの気持ちも少しわかる気がした。

そしてハチについての話も多い。
地面で暮らすハチ、他の生物に寄生するハチなど、いくら読んでも飽きない。
よくもここまで観察したなあと思うことばかりだ。
だって相手は気ままに暮らし、定位置にいることなどないのだから。

著者は本当に小さな生き物が好きなのだなあ、と感じる部分が多くて
それが何よりも読者を楽しませるのだと思う。
観察のために地面にうずくまり、時には寝転がって微動だにせず何時間も過ごす
著者の姿が浮かんでくるのだ。
汚いとか気持ち悪いとか、そんな気持ちを一切感じさせない率直な目は
虫嫌いの読者のこともすんなりと迎えてくれる。

ましてや虫が大好き興味津々の子どもたちを捉えて離さないのはよくわかる。
読書と縁がなくてもこれだけは読んだという、元少年少女はたくさんいる。

暖かくなり、あちこちに虫の姿が増えてきた。
我が家のわずかな植木鉢も厳重注意が必要な季節である。
心地よいのは虫も同じ。
ファーブルの境地にはなれないが、生き物の姿も楽しめるようになれ……ないなあ。