北森鴻 著
急逝した著者の遺作。
主人公・リツ子は、飛行機事故で死んだ義兄・最上圭一が遺した音に
心を奪われる。
それは日本全国の音の風景を録音したもので、音響技術者だった圭一らしい
遺品だった。
彼に「うさぎ」と呼ばれていたリツ子だが、この音のメッセージのあて名である
「うさぎ」はほかにいるのではないかと思い始めた。
音を追いかけて、リツ子の旅が始まる。
一章読み進めるごとに、謎が謎を呼んでさらに複雑さを増したり、
はっと解ける瞬間を感じたらまた幻のように逃げていったり。
それが積み重ねられていき、物語が紡がれていく。
その旅先の風景はとても魅力的で、ああこの国はこんなに美しかったのか、と
改めて感じさせてくれる。
そしてそのみちゆきがまた素晴らしい。列車の旅の描写は、鉄道ファンでなくても
うっとりしてしまう。
謎を探っているはずだったのに、いつしかその旅自体にどっぷりとはまり込み、
自分が何をしているのかわからなくなる、迷宮にはまり込んだような感覚。
ラストはあまり好みとは言えなかったけれど、でもやっぱり著者らしさがあって、
もっと読みたかったなあとしみじみしてしまった。