息をするように本を読む

初めて読んだ本も、読み返した本も、
ジャンルも著者もおかまいなしの私的読書記録
と、なんだかだらだら日常のことなども

インシテミル

2012-01-31 10:50:24 | 著者名 や行
米澤穂信 著

あまりの高額報酬に募集広告の誤植だと思ったから。
車が欲しかったから。
冗談のつもりだったから。

こうして集まってきた12人のモニターたちは、「暗鬼館」という名の
地下施設で「実験」に参加することになる。
独自のルールに縛られた無法地帯。
そこで7日間を過ごすこと。そしてあわよくばボーナスを獲得すること。

まあありがちな物語なのだが、意外に面白かった。
映画化されたものを見た人の話から、ただの殺し合いゲームみたいな印象を
受けていたのだが、しっかりとした古典的ミステリを下敷きにした構成は
読み応えがある。

登場人物たちが立場も性格もバラバラで個性的で、ただひたすらに欲と殺意に
まみれているワケではないところが現実的。
出来れば安穏に7日間を過ごしたい、という人ほど3日目あたりは恐怖に
とりつかれてしまうところなど、リアルだなあと思う。
一方で最初から綿密に計画を練り、計算ずくで行動している人ももちろんいる。

問題は問われているのが必ずしも“真実”ではないことだ。
“解決”は多数決であり、段々人数が減っていくほどに必要とされる賛成数も
減っていくことになる。
このあたりはもっと突き詰めればさらなる恐怖を生み出しそうだが、あえて
そうしないことで、ほかの要素との組み合わせが生きている気がする。

主人公・結城が、最後の最後になぜか10億円にこだわる関水に対して
報酬を分け与えてしまうところにすごく共感してしまった。
そうなのだ、見ていないモノへの執着は少ない。
高額すぎると現実味はないに等しい。う~ん貧乏って悲しいかも……。

登場人物それぞれの結末と報酬額が列記されていくのだが、冷静に7日間の報酬と
考えればとんでもない。しかし、この高額報酬の皮算用をしたあとだと
安く感じるんだなあ。
登場人物同士は薄いつながりがあるようなのだが、そこは最後まで判明しない。
そして、お金が必要だった理由もすべて解明するわけではない。
そこがまた後を引く感じ。

与えられた武器には、引用元となるミステリがある。
読んだことのないものもあってお恥ずかしい限りであるが、本書を読むには
さしつかえない。でも読んでいると絶対さらに面白いと思う。

とり残されて

2012-01-30 10:36:00 | 著者名 ま行
宮部みゆき 著

今と過去の関係はどうなっているのか、時間や場所を行き来することなどあるのか。
いろいろなことを考えてしまう短編集。

保健室の前で「あそぼ」とささやく子ども、夢に出てくる場所を探す依頼など
普通では大丈夫?という感じだが、著者の文章で読むとさして違和感はなく、
むしろ楽しく読める。

確かにこの世でないものが登場するシーンも多く、一般的な男性など
読むのを中断しそうな気がする。
ただ、これはファンタジーだと思うと微妙だが、そうでないとわりきれば
むしろすごい構成なのだ。
無駄も無理もなく、きちんと終りにピリオドを打って終了しているのだから。

ちなみに私は「たった一人」が一番好き。
夢が現実か、目先のそんなことよりも、夢がもたらす影響や時間軸の在り方に
想いを馳せるほうが楽しい。揺れる想いと幼い日の記憶と。
そして生きられる人と生き延びられなかった人と。
単に謎解きに終わらず、時空を超えた美しい物語に仕上げられている。
短編とは思えない重厚な読後感がすごい。

悪いうさぎ

2012-01-29 10:58:34 | 著者名 わ行
若竹七海 著

30代・女子・フリー調査員の葉村晶。小さな探偵事務所と契約し、
声がかかれば出かけていく。
ある日、大至急と呼ばれていったのは、家出した女子高生・ミチルを
連れ戻す仕事。楽勝と思いきや思わぬ展開にケガまでしてしまう。

これを機にたてつづけに事件が起こり晶は巻き込まれていく。
姿を消した少女は複数。“ゲーム”の指す意味とは。

謎を追う晶は産廃廃棄場に監禁されたまま置き去りになるはめに
なってしまう。何のためにこんなことが行われるのか。
一見関係なさそうな女子高生たちと犯人の接点はどこにあったのか。

終盤“うさぎ”の意味がわかったとき、ぞっとする人は多いだろう。
こいつらは関係ありそうだ!という疑いは初期からもっていても
最期にこんな展開があるとは予想できないに違いない。

普通の地味な女性を装いながら、いったん仕事となるとタフで
たくましい晶の姿には、すがすがしささえ感じる。
まあ調査なんてそこくらいじゃないとできないんだろうけどね。

物語の構成、登場人物のキャラクラー、どれひとつとっても
秀逸。しっかり引き込まれてしまう。

赫眼(あかまなこ)

2012-01-28 10:17:09 | 著者名 ま行
三津田信三 著

小学生離れした美しい転校生・目童たかり。ある日学校を休んだ彼女の家に届け物をした主人公は
恐ろしいものを見てしまう。

見知らぬ場所へお使いにいく、夕暮れ時に一人で歩く、何者かに追われる、
振り切ったはずの何かがずっとついてくる……子どもの頃自然に感じていた
“怖い”“いやだ”を凝縮したような短編集。

実話怪談のような形をとった物語はリアル。
噂なのか伝聞なのか、それとも著者自身の体験なのか。
思わず考えてしまうような不気味さ怖さがある。

著者はこういうのは本当にうまいと思う。

しかし何?この既視感は、と思ったら、やってしまいました。
初出は「異形コレクション」が多いのだ。
実に6編。私ってバカ。
気づかず読んだものもあり。
ただ、2回や3回読んだからといって損しない程度には面白いです。

ささらさや

2012-01-27 10:28:41 | 加納朋子
加納朋子 著

突然の事故で夫を失い、まだ赤ちゃんの息子とともに佐佐良の町でくらすことにしたサヤ。
ピュアで人を疑うことを知らない彼女にもどかしさを感じる反面、亡くなった夫が
彼女のどんなところを好きだったかよくわかる。
ずっと一緒にいて守ってやろうと思って結婚したのだろう。
それが叶わなかった悔しさ。
そして、彼女と息子をおいていかなければならなかった悲しみと心配。

赤ちゃんを引き取りたいという義姉。
次々と起こる事件。
いろいろなものから自分と息子を守るために、頼りなかったサヤは少しずつ強くなる。
どうしても二人を置いていけなかったであろう夫は幽霊となって見守り、
折に触れて手を貸す。

佐佐良は人づきあいの濃い町だ。
おせっかいなおばあちゃんたち、ヤンママなど個性的な面々が良くも悪くも
ほっておけずにかまってくる。ひとりぼっちのサヤにとって大きな助けとなっていくのだ。
私だったら無理だなあと思うけれど、サヤは助けてもらい、それを返していくことによって
自立の道を探っていくのだ。

童話のようなファンタジーのような不思議な短編集だ。
ストーリー自体もサヤの運命以外は日常的なことが中心で、斬新な謎解きや事件が
起こるわけではない。
ほのぼのとやさしい気持ちになれる、そんな作品だ。
ちなみに『てるてるあした』は姉妹編。人物を知るのに違う角度から読むのも面白い。