息をするように本を読む

初めて読んだ本も、読み返した本も、
ジャンルも著者もおかまいなしの私的読書記録
と、なんだかだらだら日常のことなども

アリスへの決別

2014-01-28 10:27:53 | 著者名 や行
山本弘 著

どこまでが普通でどこからが異常なのか。
少しずつ変化していけば、誰も気づかないのではないか。
そんなひやりとした感想が心をよぎる。

そしてスパイスと皮肉がちりばめられている。
何度も読み返してしまったくらい、現状を鋭く切り取っていて、
ごく最近の出来事を予言したかのような文章すらある。

「リトルガールふたたび」はずしんと重い。
教養や知識や努力を軽視した結果の日本の近未来。
こんなことがあっても不思議はないと思うからだ。

夢と現実の中間にある“亜夢界”を舞台にした後半の作品も
素晴らしい。よく作りこまれた世界観、そしてそこを行き来する
ものたちがもつ不思議な力。
あやうい階層にかろうじて存在する世界は、外の世界へ行けず、
行かないことで成り立ち、安定を失った世界は泡沫となる。

著者の作品は初めて読んだのだが、もっと読みたいと思った。
しばらくSFにはまってみるのもいいかなあ。

幽 Vol.20

2014-01-27 10:11:16 | 書籍・雑誌
メディアファクトリー

またまた買ってしまった。
こんなにもコンスタントに毎号読んでいるひとはそういないはず。

などとうぬぼれていたのだが、そんなはずはない。
第8回『幽』怪談文学賞&第5回『幽』怪談実話コンテストは大盛況だ。
しかも掲載作だけでもうなるほどの面白さ。
長編が発売されたらまた読むんだろうな、自分。

残念だったのは第一特集の「怪談文芸アメリカン Kwaidan U.S.A」に
もうひとつノレなかったことだ。
円城塔訳の「ジキニンキ」はすごくよかったけどね。
なんだろう、湿度が違うからか?
イギリスものにはノレるのであるが。

しかし、価格分の満足感はあり。
きっとまた買うであろう。

日本の貴人151家の運命

2014-01-26 12:26:33 | 著者名 な行
中山良昭 著

天皇の藩屏として、文化の守り手として長く続いてきた
公家という一族の存在は大きい。
選ばれし家のものとして、誇り高く生きることをを求められ、
地位と名誉を約束された人々。
終戦により一部の皇族を除いて民間へと下ったが、その世間知らずさが
あだとなり、辛酸をなめた人も多かったらしい。

雅楽や蹴鞠、包丁道などの貴族文化の伝承はもちろんであるが、
宮内庁で天皇家に仕えたり、行事の装束の監修をするなど、
この家の人でなければできないであろう役目についている人もいる。
ある意味かけがえのない人たちなのだ。
終戦は平等をもたらしたが、その一方で守られるべきものも多数
失われた。

「冷泉家至宝展」というものが記憶にあるが、これは全くの自費、自力で
守られ、たまたま区画整理などからも外れた冷泉家に残された
貴重な宝物を公開したものだという。
これは後継者がいなくなることを前に行われたもので、もしも脈々と
続いていれば一子相伝で知られないままであったかもしれないし、
ときの当主の意見いかんでは処分された可能性もあるのだ。

文化を保つことはお金がかかることである。
貴人というものの存在意義とはそんなところにあったのかと気付かされた。

いちど壊してしまったものはもうかえらない。
ならば大切なものだけは守られるように、何らかのアクションが必要だろう。
それは選ばれし階級を再びつくる、ということとは違うはず。

それはそれとして女優や俳優となった人が意外に多かったり、
国際的に活躍の場を求めている人が多かったり。
これも血筋と優遇された家に生まれたということのなせる業だよなあ。

古きよきアメリカン・スイーツ

2014-01-20 11:23:59 | 著者名 あ行
岡部史 著

ジェリービーンズ、リコリス、M&M、ヌガー、ロリポップ。
レモンパイ、ドーナツ、ガムにポップコーン。
色鮮やかで甘くてボリュームたっぷり。
そんなイメージのアメリカン・スイーツ。
見るのも買うのも本当に楽しいし、おいしいものもあるけれど、
いざ食べるとなると苦手な部類が多いかなあ。

そんな私でも実に楽しく読めた一冊だ。
伝統的なクッキーやチーズケーキなどのほか、ピーナッツバターや
コカコーラ、そして私が大好きなメイプル・シロップも登場する。

実はアメリカでは結構手作りスイーツが一般的らしい。
私たちが目にするものはスーパーなどで売られている大量生産の
華やかなスイーツたちだが、普段はもっと素朴な“甘いもの”が
食べられているのだという。

ただ、この“手作り”とか“素朴”のイメージは日本とは違うかも。
何しろパンにピーナッツバターを塗ってジップロックに放り込めば
“手作りランチ”と言い切れるお国柄である。
とことん手の込んだ懐かしい味も、市販のものを混ぜるだけでも
どっちであろうがおいしければこだわりはなさそうだ。
もともと料理で砂糖をとる和食文化と違い、甘さは最後にまとめて
デザートでとるお国柄。
味覚の差が表れてもしかたないのだろう。

このお菓子をはじめて食べたのっていつだったかなあ。
食感の意外さに驚いたなあ、などなど、思い出までも一緒に楽しんだ。

Another

2014-01-19 11:09:14 | 著者名 あ行
 
 

綾辻行人 著

学園ものだからなあ、とあまり期待していなかったのにはまった。
父の仕事の都合で一年間だけ夜見山の祖父母のもとで過ごすことになった
榊原恒一は、転居早々に気胸で入院し、転校が遅れてしまう。
クラスメイトの代表がお見舞いに来てくれ、やや不安が減ったかに
見えたのだが、登校してみるとそこには違和感が満ちていた。

孤立している女子生徒・鳴。透明人間のような扱いには理由があった。
代々の三年三組につたわるという呪い。
それを防ぐ、もしくは最小限にするための決まりごと。
一人増えた死者についての記憶にはなぜか改竄が行われ、それが
誰であったか知る術はない。

今年は「ある年」なのか「ない年」なのか。
疑心暗鬼になる中、死のリレーはスタートした。

のどかな地方の街を舞台に、じわじわと進む物語。
恒一が暮らすちょっと懐かしい昔ながらの祖父母の家も、
鳴が暮らす現実味に乏しい人形の館もそれぞれに魅力的だ。

リズミカルで、長い話なのにあっという間に読める。
しっかりした構成はラストで明らかになる。