息をするように本を読む

初めて読んだ本も、読み返した本も、
ジャンルも著者もおかまいなしの私的読書記録
と、なんだかだらだら日常のことなども

古代地中海血ぬられた神話─驚異の世界史

2015-01-22 10:18:32 | 著者名 ま行
森本哲郎 著

世界史って好きだなあ。
でも年号とかって全然知らない。つまりテストでの得点はのぞめない。
ただ、大まかな流れとそれにまつわるエピソードを知っていると、
全然関係ない本が楽しく読めたり、意外な人とおしゃべりに
盛り上がったりする。

歴史なんて大嫌いという人でも、噴火で埋もれた町ポンペイとか、
クレタの迷宮とか、トロイの木馬とかは耳にしたことがあるはず。
これらの歴史的事実とそれを裏付ける遺跡の写真には、
なんていうか、現実を突きつけられる気がするのだ。
物語の一部のように読み流していたことが、かたちをもって
立ち上がってくる。

“血ぬられた”というおどろおどろしいタイトルながら、
内容はそんなでもない。
天災も戦闘もまあそんなものかという程度の描写なので、
あまり構えずに読むことができる。

姉貴の尻尾

2015-01-07 10:23:36 | 著者名 ま行
向田保雄 著

向田邦子の実弟が書いた姉の姿。
ああ、いいきょうだいだなあ。
読み終わるまでずっとその思いがあった。
同じ家で育ち、同じものを食べ、それでいてちょっとだけ時差がある。
そんな“きょうだい”にはとても似たところと、全然違うところがある。
それが本当に上手に描き出されていて、あたたかくなるのだ。

まだあの航空機事故から3年という時期だっただけに、彼女の死の前後の話は
胸が詰まる。
突然の知らせ。現地へ飛ぶ著者。マスコミの取材攻勢。
慣れない南国で、言葉すら通じないところで、混乱の極みのなか
認めたくない事実を確認し、帰国し葬儀をする。
誰かがしなければならないから、男として自分が引き受けようという決意と
とてもできないという感情がせめぎ合う苦しい描写が続く。
本当に切なく、読んでいても心が痛かった。

それにしても文才は遺伝なのだろうか。
読みやすくしっかりとした文章は、これがはじめての作品とはとても思えない。



お文の影

2014-12-15 14:57:21 | 著者名 ま行
宮部みゆき 著

無邪気に遊ぶ子供たちの中に混じる小さな影には、
悲しい秘密があった。
ちょっとだけ怖く、それなのにあたたかい。
江戸を舞台にした短編集。

まだまだ貧しい時代、一生懸命生きている人々の中で起こる
小さな不思議と事件。理屈では説明できないものも多いけれど、
それはそのまま受け入れられていたのだろう。
どの話もそれぞれに輝きを放つ者ばかりで飽きさせない。

しかし、本書は内容よりも“『ばんば憑き』とまるっと同じなのに、
タイトルだけ変えて出版されて騙された”という事実によって
有名なのだった。
全然知らなかった。それは怒るだろう。
すごく面白いし、宮部ワールドのいいところがぎゅっとつまって
いるのに残念。

家庭でできる食品添加物・農薬を落とす方法

2014-10-06 10:18:02 | 著者名 ま行
増尾清 著

これはなかなかのお役立ち本。
安心・安全な食材をなるべく選んで買っているつもりだが、
そうもいかないこともある。
どうも心配だなあというときに、ちょっとひと手間かければ気分が違う。
そのひと手間の方法や効果を教えてくれる一冊だ。

「おばあちゃんの下ごしらえの知恵」という言葉がしつこすぎるほど出てくるが、
これが基本。
あく抜き、臭みとり、食べ合わせなど、調理の基本に登場するテクニックが、
食品添加物や農薬にも効果的なのだ。
一方でレバーに牛乳、さやえんどうの色止めに塩など、実は効果があまりない、という
ことも明確にしてある。
自分が普段やっている調理の見直しにもなってなかなかよかった。

ただしこれを全部丁寧にやってしまうと、流れ出る栄養素は半端なさそう。
洗いすぎて味もなくなるってこともありそう。
まあ、何事もほどほどに、知識はしっかりもっておくというのがベストかな。
なによりも、そこまでとことん除毒しなくても食べられるいい食材を入手できれば
それがなによりなわけだ。

吉原手引草

2014-09-05 10:15:37 | 著者名 ま行
松井今朝子 著

第137回直木賞受賞。

大門以外の出口などどこにもない吉原から、売れっ妓の葛城が消えた。
当代随一の花魁とうたわれ、お大尽の身請けが決まって、
幸せなはずだった。

その噂がようやく静まり始めたころ、一人の男が吉原にやってくる。
引手茶屋の女将、番頭、船頭、遊び慣れた通人の客に至るまで、
葛城について話を聞いていくのだが、その話はタブーとされ誰も語らない。

さまざまな立場の人の語りの中で、吉原独自の世界が描き出される。
遊郭というものの仕組み、遊女の格、遊びでの暗黙のルール、
そして吉原で働く数多くの人たちとその仕事。
これほどに特有の世界であれば、それは坊主禿と呼ばれる幼女の頃から
ここの水に洗われて育ったほうが有利に生きていけるだろう。
しかし、葛城はそうではなかったという。
14歳というあまりに遅い年齢で吉原に売られ、その立ち居振る舞いに
武家の香りを漂わせる少女。

何事にも頂点に立つ人は、人をひきつけるものであるが、
葛城はまさにそうであった。
しだいにあらわにされていく事実は、周囲の人にかばわれなければ
できないことであり、葛城が抱える重い過去にかかわるものだった。

かたまりにしか見えなかったものが、少しずつほぐれて一本の糸になる。
そんな過程がとても面白い。