息をするように本を読む

初めて読んだ本も、読み返した本も、
ジャンルも著者もおかまいなしの私的読書記録
と、なんだかだらだら日常のことなども

金のゆりかご

2011-09-30 10:23:15 | 著者名 か行
北川歩実 著

幼児教育、とくに早期教育を語るのはとても難しい。
何しろ結果が出るのが、早くて10数年後。
そして、その教育を行う段階で、本人の意思を確認するのは難しい。
決定権を握る親は未熟で流されやすく、そしてわが子がかわいい。
つまり、そこにきちんとした裏付けがなくても簡単に“はまる”。

ある意味その究極の姿ともいえる「金のゆりかご」とは、
徹底的に天才を育てることのみに目的を絞った、先進の機器。
それを使い、天才育成のPRをしている幼児教育センターをめぐる物語。

天才と、そこから落ちこぼれた元天才。
賢いということはひとつの能力であり、財産でもあるけれど、
それに徹底的に特化することが人間にとってどう作用するのか。

莫大な財産と隠さなければいけない秘密を巡り、脅迫や殺人、失踪までも
起こってしまう。

親にとって子どもとは何か?どこまで決定権があるのか?
そして何に対して愛しいと思うのか?
謎解きの過程で、主人公・野上はとことん追求される。

発達心理学や幼児教育に関心があれば、文句なしに面白い。
そうでなくても、単にミステリとしても十分に楽しめる。
しっかりとした構成・個性的なキャラクターなど、読み応え抜群だ。

舞面真面とお面の女

2011-09-29 11:10:50 | 著者名 な行
野崎まど 著 

いかにもメディアワークスっぽいライトノベル。

主人公・舞面真面(まいづらまとも)は大学院生。
年末、叔父からの呼び出しを受けて依頼されたのは、曾祖父の遺言の解明だった。

従妹の水面とともに謎解きに取り組む中、お面をつけたふしぎな少女が現れる。

ユニークな世界観はポップで面白い。
ただ、若い人受けしそうなので、ある程度の年齢からは評価が分かれそう。
生き生きとした会話や、ユーモア、そして理系知識を発揮した謎解きなど、
ふんだんな要素で楽しませてくれる。

どんでん返しがあるので、最後までしっかり読まないと損。

お面の女という言葉からは、秘密めいた美女っぽいイメージがわくが、
実はセーラー服の少女。
……って、表紙絵でわかるか。
この表紙、なかなかうまく内容を表現してると思う。うん。

瞽女の啼く家

2011-09-28 10:19:41 | 著者名 あ行
岩井志麻子 著

明治時代の岡山を舞台に、盲目ながら三味線弾きやあん摩で生計を立てる
瞽女(ごぜ)たちにまつわる怪奇。

因習にとらわれた貧しい土地で、こんなことがあっても不思議はない、と
思わせるのが著者。
地を這い、どん底を経験しながらも、登場人物たちはたくましく生きる。

盲目であることと引き換えるかのように、それぞれに与えられた力は、
死者を感じる力であったり、行く先々に福をもたらす力であったりする。

いつもつきまとう闇の恐怖。「牛女」という言葉がもつ意味は。
少しずつ謎がとけていく過程には、盲目である哀しみと、
旧弊そのものの土地に縛られた運命のつらさがある。

近親相姦、「くだん」など、小道具が満載。
後味はよくないけれど、結構好きな一冊だ。

長い腕

2011-09-27 10:48:49 | 著者名 か行
川崎草志 著

第21回横溝正史ミステリ大賞受賞。

ゲーム会社に勤める主人公は、一か所にとどまることへの嫌悪感と、
過酷な労働環境からしばし離れるため、故郷へと向かう。
しかし、待っていたのは同僚の変死と、同じキーワードをもつ
女子中学生の死だった。

リアリティあふれるゲーム業界の実情。
この描写には実はかなり伏線が張られている。

ひとつのキャラクターをカギに、複数の事件が絡み合い、そこに
都市伝説や閉鎖的な地域の特性までもがあわさって、
物語を紡いでいく。

しかし神がかり的な推理や特殊な人脈などはない。
図書館やネットなど通常の人が使う手段を用いながら、
主人公は着々と事件の真相に迫っていくのだ。

「長い腕」とはさまざまな意味をもつようだ。
大工の意図、存在証明をしたかった人物の意思、そして
ある意味現代的ともいえる、人と人との距離感を保つ方法。

前半は好みが分かれると思うが、
しっかりと構成された物語なので、飽きずに読める。

車輪の下

2011-09-26 11:50:32 | 著者名 は行
ヘルマン・ヘッセ 著

期待とプレッシャー。若い時代の迷い。
不変のテーマを取り上げた名作。

読むと苦しくなってくるほど、人間の成長と苦悩をよく表現している。

希望に満ちて入学した神学校。がんじがらめの詰め込み教育と、
厳しい規則ばかりの寄宿舎生活に失望し、友人の放校に衝撃を受けた主人公は
田舎へ帰り、機械工となる道を選ぶ。
しかしそこでも挫折は続いた……。

秀才の歩く苦悩の道を、美しいドイツの四季が彩る。

大きな期待は反面、大変な重荷である。
期待するほうはよかれと思っていても、無責任なもの。
される側の苦しみはおそらく微塵も伝わらない。
デリケートであればあるほど、まじめであればあるほど、
挫折しやすく、そしてその打撃は大きい。

そこまで思い詰めることはないのに。
誰もあなたに責任をもたないのだから。
つらい人には誰かがそういってあげることが必要なのだろう。

それにしても教育の機会が均等でなかった時代や国の秀才って
ものすごい強靭な精神力がないとやっていけないなあと思う。
いくら子どもの頃秀才と言われても、秀才が集まる学校では
凡人なんてよくあること。そこで生き抜くか、勝ち抜くかを
しなければ、生きていけないのだから。
無責任なまわりは平気で「なんだ、失望したよ」と言うだろうし。