息をするように本を読む

初めて読んだ本も、読み返した本も、
ジャンルも著者もおかまいなしの私的読書記録
と、なんだかだらだら日常のことなども

和宮様御留

2010-11-30 12:19:01 | 著者名 あ行
有吉佐和子 著

いわずとしれた名作。
ドラマ化もされたし、知っている人は多いだろう。

本当に面白い。
公武合体を錦の御旗に、降嫁を迫られる皇女和宮と
その身代わりとしていつのまにか東へ下ることになり、
精神を病んでいくフキ。

政治とプライドと、そして人間の想いが錯綜する駆け引きや、
下働きの娘を巧妙に皇女に仕立て上げる過程などわくわくさせられる。

和宮には生まれつき片方の手首より先がなかったということ。
足の痛みがあったこと。
赤毛であったこと。
などの身体的特徴がありながら、遺体と言い伝えがあまりにまちまちだった。

増上寺の遺体には足の異状はないが、手首がない。赤毛である。
家茂の棺に納められた和宮の髪は黒髪である。
高田村の豪農だった新倉家(現在では屋敷跡が学習院となっている)では、
自宅の蔵で和宮が縊死したと伝えられる。

まるでミステリー。
しかし謎解きではなく、あくまでも幕末の女性を追った物語として素晴らしい。

ところで、これはやはり逆側からも読みたいもの。
和宮の姑となる「天璋院篤姫」も併せて読むと100倍は楽しめる。

群青の夜の羽毛布

2010-11-29 13:48:13 | 著者名 や行
山本文緒 著

密着した女性だけの3人家族。
がんじがらめに縛られた長女との恋に困惑する主人公。

親との関係を整理しきれずいまだ苦しむ私にとって、かなり読むのに力を要した作品だ。

面白いし、うまい。
登場人物の心情もよく書けていて、だからこそ息苦しくつらい。
どうして生きていなくてはいけないのか、そこまで突き詰めてしまう。

妹のみつるのように、上手に息抜きして何とか生き延びるという方法はあるが、
それは姉の犠牲があってこそ。母の関心が自分に向いている姉には不可能なことだ。
そしてあらゆることが「初めて」であるしかない、第一子は意味のない制約と
理不尽な罰を親から与えられ続けることになる。

これはまさに私のことだ。
どうやって家を出るか、幼い頃からの課題だった。
そこまで愚かではなかったから、中学生でグレて家を出ても「家出」に過ぎず、
良かれと思っての指導がエスカレートするのみというのは理解していた。
だから、できる限り資格でも仕事でも手に入れて、大人と名のつくものになったら
自由を手に入れようと思っていた。
やっと成人したら「地域で若者を見守ろう」とかいう善意に満ちた運動が始まり、
なんと「“青”少年の夜間外出に注意しましょう」とアナウンスしながら街宣車が通るという
最悪な状況が展開。あのときの絶望感たらなかったな。まったくどんな田舎だよ。
「実家から嫁に行くべき!」「品行方正あたりまえ」「世間体(推定15名程度)大事」
という主張で縛りに縛る親と、なま温かい地域の見張りの中窒息寸前。
結局進学はもちろん、就職でも脱出に失敗し、結婚が最後の砦となった。

振り切るように家出同然で出た。だからいい関係は無理。
少しでも歩み寄ると支配が復活すると思うから。
たとえば今実家で暮らせば、即おかしくなると思う。
これから頻繁に帰省する必要性が発生しても同じだ。

親は私を愛している。それはわかる。でも無理。
そしてこの物語の中の母親も愛してはいるのだ。たぶん。

こんな子どもで申し訳ないとは思うが、たぶん誰だって無理だよね。
でもそう思えてきたのは最近だけどね。

とりあえず、自分が生まれてきたのは間違いだったという自覚ははっきりとある。
でも私は私のようでない子どもを育てたかった。そして産んでしまったので責任上まだ生きている。
ただ、命を全うしたのち、もう一度生まれるかと聞かれたら、否と答える。

2010-11-28 10:43:28 | 著者名 ま行
麻耶雄嵩 著
1998年度「本格ミステリベスト10」第1位。

からす である。
殺された弟の謎を追い、誰も知らない隠れ里のような村に入り込んだ主人公。
異質なものを忌み嫌い、外との交流をまったく絶っているその村で、
なぜか弟を発見し、外人を呼ばれながら、薪能や大鏡と呼ばれる行事、
そして連続殺人へと巻き込まれる。

本格ミステリ。ということらしい。
正直ミステリは好きだが、ジャンル分けがよくわからない私。
けっきょくこういうツメの甘さが、自分自身の読書を体系的にできず、乱読に終わる原因だ。
…いや、全然乱読上等なんですけどね。

ぐいぐい引き込まれ、トリックに取り込まれ、なかなかいける。
そもそも地図にない村、閉鎖空間、古い屋敷、伝説と禁忌…好きな素材てんこもりですよ。
ラストで脱力したとか、いまいちという評価を聞くことが多いのだが、私は好きだ!

ただねえ、この著者のネーミングセンスいかがなものか。
東関東の早婚ヤンキーの子供じゃないんですから。
一部がストーリーにかかわる名というのはわかります。私もミッション出身です。
でもさあ、それ以外全体的にそうする必要なくない?
なんていうか、あまりの違和感に読みづらいです。
あと、なんて読むんだか忘れて前に戻るのめんどくさいです。

総合的にいうと面白い。
たぶんまだ読み返すと思う。

カラーイメージスケール 改訂版

2010-11-27 01:14:03 | 著者名 か行
小林重順 日本カラーデザイン研究所

これは楽しい。
ちょっと古いのでもしかしたら新しいタイプにリニューアルされてるかもしれない。

プレゼン資料だの、ポスターだの。ちょっとしたお知らせだの。
たぶんたくさん役に立ちます。

各ページごとに代表色をおき、それに合う配色を紹介する。
代表色+2色の3色の配色のイメージを「のびのびした」「風格のある」などの
キーワードで整理してある。
どう説明すればわかりやすいか、何かを伝えるときにどの色が向いているか。
という参考にいい。

単純に眺めているだけでもいい。
仕事のヒントを探すときにもいい。
好きな色を探してイメージワードにうなずくのもいい。

仕事用に入手したのだけれど、すっかり座右の書。

もちろん色なんて人の好みはそれぞれ。表現もそれぞれでよいのだけれど、
それをまとめて共通語にするツールとしては優秀だ。

生まれる森

2010-11-26 23:46:07 | 著者名 さ行
島本理生 著

失恋した女子大生が、夏休み期間限定の一人暮らしをする。
そこに陽気な友人一家がからんで、少しずつ癒されていく……って書いたら
とってもベタなんですけど。

繊細でそれでいてしっかりと人を見ていて、淡々と進む文章に引き込まれてしまう。
押しつけがましさはないのに、ちゃんと受け止めなければと思わされてしまう。

若さとうまさって両立するんだなあ。

そして何よりも、若いっていいなあ。

大人未満子供以上という感じの大学生活をすごくリアルに表現している。
自宅通学のせわしない短大生活しか体験したことのない私としてはうらやましさMAX。
日頃それほど若さへの羨望もないタイプと自覚しているが、これに素直に羨んでしまう。

軽い気持ちで手に取って、意外に手ごたえのあった一冊です。