息をするように本を読む

初めて読んだ本も、読み返した本も、
ジャンルも著者もおかまいなしの私的読書記録
と、なんだかだらだら日常のことなども

まひるの月を追いかけて

2011-08-31 12:37:08 | 恩田陸
恩田陸 著

あまり交流のない異母兄が行方不明に。
知らせを受けた主人公・静は、兄の恋人とともに奈良に向かう。

二転三転しながら謎が謎を呼び、そして解けていく。
ただ人さがしの旅だったはずなのに、意外な展開が静を巻き込んでいく。

過去と現在が古都奈良の地で交錯する。
魅力的な土地だけに、その旅のようすを読むだけでもなかなかに楽しい。
そして物語を構成する二人の女性の会話が知的でいい感じ。
会話から兄の人物像がぼんやりと輪郭を結んでくる。

ミステリのようなファンタジーのような。
独特の世界観は展開されているが、出し切れていない感もあり。
いや、嫌いじゃないんだけど、こういうの。

少しだけ不完全燃焼のような印象も残った。


自閉症だったわたしへ

2011-08-30 10:17:12 | 著者名 あ行
ドナ・ウィリアムズ 著

“変な子”と呼ばれ、いじめられ、傷つき続けてきた少女。
彼女が自分を発見し、認め、そして教養深い女性へと成長する物語。

かつて保育を学ぶ学生だったとき、何人かの自閉症を含む発達障害の子と
出会ったことがある。
当時はまだ研究も進んでおらず、サポート体制も皆無に等しかった。
35人もいる年少児のクラスにポンと放り込まれる自閉症児。
親も子も担任もクラスメイトも苦しむ状況が当然のようにあった。

どうしていいかわからないから、変な子はその変な部分が際立つ。
変だと言われ続けるから、自信を失い、唐突な行動に走る。
許容の度合いや方法がわからないから、親や教師は扱いにくく感じる。
そのくりかえしの日々。

今ならできることがあったのに。
何かできたはずなのに。
あの子たちが幸せでありますように、と思いながら後悔ばかりがある。

著者は賢い女性だ。
自力で自分の個性を理解し、折り合いのつけ方を学んだ。

他人に体を触れられることがとてもつらい。
そしてつらさの度合いでは、単に触れられることもセックスも変わりない。
という事実はとても衝撃的だった。
だからこそ、性的に奔放になっている自閉症の人もいるのだという。

このような感覚の過敏さ、人との差異を学習しながら、著者はそれを
自閉症者のことばとして伝えようと決意した。

発達障害はすべてが違う。人の数だけある。
それでも、その立場から発信された貴重なメッセージには耳を傾けるだけの
価値がある。

ラ・プラタの博物学者

2011-08-29 10:20:44 | 著者名 は行
ウィリアム・ハドソン 著

著者はアルゼンチン生まれのアメリカ人で、後にイギリスに渡った
博物学者。

本書は“パンパ”と呼ばれる大平原が広がる南米・ラ・プラタ地域を舞台に
動植物を題材に描かれたエッセイだ。

また、マニアックな、と思われそうだが、すごくいいのだ。
それに意外なほど読みやすい。
広々とした草原の中で暮らす、珍しい動物の生態。
そして、その動植物たちと人間との共生。
いきいきとした視点は、少年時代ここで過ごした者だからこそかもしれない。

これを初めて読んだのは小学生のとき。
南米もラ・プラタも何も知らず、ただ世界にこんな土地があるのだと純粋に
とりこになった。
大人になって読み返してみると、子どもの頃心に響いたフレーズや
エピソードが浮かび上がってくる。
そして、さらに現在の視点が加わって、面白さが増す。

汽車でいつまで走っても、景色が変わらないと言われたほど広いパンパだが、
ハドソンは100年前、開拓によってパンパが失われていくことを懸念していた。
今、その地はどうなっているのか、もはや彼が見た自然はないのかもしれない。


クリムゾンの迷宮

2011-08-28 10:40:03 | 著者名 か行
貴志祐介 著

目が覚めると深紅の世界だった……。

主人公の藤木を含め、集められた男女8人。
手もとの小さなゲーム機の指示をたよりに、人間の限界に挑む
リアルなゲームがスタートする。

ハラハラドキドキ、目が離せない展開。
幸運と思われたことが裏目に出る恐怖。
まさかと思うことが現実になる絶望感。

一気に読める、というより読まずにいられない。
徹底的に仕組まれる罠と、それに打ち勝つサバイバル能力。
ゲームなのだが、ゲームに強い力のみでは決して生き残れない。

誰がゲームマスターなのか最後まで明らかにはされないが、
当然ながら人間関係の読みも勝負を分ける。
敵は自然や動物のみではない、本当にこわいのは人間なのだ。

ちなみにクリムゾン(深紅)の秘密は南半球。
連れ去られていたのはもちろん火星ではありません。
って、ひとつバラしちゃったな。

燦めく闇

2011-08-27 11:10:26 | 井上雅彦
井上雅彦 著

古城、博物館、聖夜などキーワードに惹かれた短編集。
ゴシック趣味の13編が収録されている。

まずまず好みではあるのだが、やや文章がくどいかな?
これは好みの分かれるところかもしれない、井上空間ともいえるし。
ちょこっと意表をついたり、耽美的であったり、なかなか楽しめる。
しかし、どっぷりと読み込みというよりは、少し距離をおいて
冷静な視点で読むほうがいいのかも、

といいながら、こんな世界観が好きな私はかなりどっぷりいきました。

目新しいものはとくにないし、お約束のレトリックという感は否めないが、
そこまで言わせておいてなお、期待を裏切らない実力の持ち主。
真夏の夜を静かに過ごすのにはふさわしい。