Tartu raekoda/Tartu Town Hall
←#010:エストニア・タルトゥ街歩き たそがれ時の川沿いの散歩道からの続き
2013年4月29日
タルトゥでの一夜が明けました。今日も群青の空が広がるいい天気です。
ホテルの部屋はシティビューなので、月曜日の朝を迎えたタルトゥの市街地が見渡せます。
窓の下には新市街の大通りが通っているのですが、ホテルの向かいは公園になっていてとても開放感があります。
この公園の向こうがタルトゥ旧市街です。今日はホテルをチェックアウトしたらフロントに荷物を預けて、夕方の列車の時間まで旧市街を中心に街歩きを楽しむことにしましょう。
先ず向かった先は、昨夜もちょっとだけ眺めたラエコヤ広場の奥に建つタルトゥ市庁舎。
この街が帝政ロシアに支配されていた18世紀末、1782年から89年にかけて建てられたネオクラシック様式の建物で、ロココやバロックの手法も取り入れられているそうです。ピンク色の壁が可愛らしいですね!
ちなみに現在も現役のタルトゥ市庁舎として使用されています。
市庁舎前の噴水には恋愛映画のワンシーンのような「傘をさして抱き合う恋人たちの像」も立っていて、
一人旅の独身男の旅人を大いに妬かせてくれます(笑)
市庁舎から見渡すラエコヤ広場。
1775年に街を焼き尽くす大火災がタルトゥを襲った後、同じ高さに揃えられた建物が並ぶ美しい姿に整備されたそうです。
この広場がタルトゥ旧市街の中心で、市庁舎の背後にそびえる丘陵(トーメの丘)とエマユギ川の畔とをつないで細長く伸びています。
ちょっとラエコヤ広場のカフェでケーキでも食べたい気もしますが、街歩きを続けましょう。
市庁舎から北側に伸びる横丁を歩くこと暫し。
赤レンガを積み上げた立派なゴシック教会が建っています。ヤーニ教会(聖ヨハネ教会)です。
14世紀の創建で、当時のタルトゥ市民をモデルにしたとも伝えられるテラコッタ製の人形が外壁の至る所に飾られているのが特徴だそうですが、現在は外壁に飾られているテラコッタ人形はレプリカに取り替えられていて、オリジナルの人形はバロック様式の礼拝堂の内部に保存されているとのこと。
礼拝堂に入ってみたかったのですが、残念ながら扉は閉じられて施錠されていました。
ヤーニ教会から、再び市庁舎の方に戻る道を歩いて行きます。
突如、ギリシャ神殿のような威風堂々たる建物が出現しました。
エストニアのみならず北欧バルト地方の最高学府である名門校、タルトゥ大学(ドイツ語でドルパット大学とも呼ばれています)の本館です。
タルトゥ大学は1632年、当時この地を治めていたスウェーデン王グスタフ2世アドルフによって設立されて以来、400年近くの歴史を誇ります。
タルトゥの街は、この大学と共に学園都市として歴史を歩み発展してきたのです。
大学はタルトゥの人々の誇りであり、「タリンがエストニアの政治経済の首都なら、大学のあるタルトゥは学術文化の首都だ」 と自負しているとか。
タルトゥ大学本館の裏手はすぐ、トーメの丘と呼ばれる丘陵になっています。
このトーメの丘を中心にして、タルトゥ旧市街の西側はタルトゥ大学の建物が並ぶ広大なキャンパスです。
昨日、タルトゥ科学館AHHAAで見たエストニア共和国初の人工衛星ESTCube-1も、自分たちの手での宇宙開発を夢見て頑張るタルトゥ大学の学生たちがここで日夜研究室に入り浸って、キューブサット衛星の開発作業に没頭して造り上げたのでしょうねきっと。
トーメの丘へと続く道を登って行くと、道の上に瀟洒な陸橋が架かっています。
これは天使の橋と呼ばれているそうで、19世紀に架けられ、当時のタルトゥ大学の学長に捧げられたとのこと。
学長さん、天使と呼ばれるほど学生に優しかったんでしょうか。或いはひねくれものの学生連中の皮肉かな?(笑)
せっかくなので、天使の橋を渡ってみましょうか。天使に会えるような、いい気分になれるのかな?
天使には会えませんでしたが、トーメの丘の麓から続く学生街を一望できるので確かに気持ちの良い眺めです。
反対側には、大学の各学部棟等が並ぶ典型的なキャンパスの風景が。
天使の橋から、さらに先へと進みましょう。
どうやら、トーメの丘の頂上まで来たようです。
トーメの丘の頂上には、エストニアゆかりの偉人たちの像が並んでいます。
数ある像の中でも存在感があったのが、こちらの決意に満ちたというか随分と厳しい表情をしている青年の像。
足元の案内板によるとKristjan Jaak Peterson、19世紀初頭の詩人で、若くして亡くなった人だとか。
彼が生前、思索しながらエストニアを放浪した時の姿を表現しているようです。想い悩み流離う若き詩人か…
トーメの丘の頂上には、大きな廃墟も建っています。
タルトゥ大聖堂です。
15世紀の末に建てられたゴシック様式の大聖堂だったのですが、1520年代にこの地に到達した宗教改革の波によって破壊され、その後は朽ち果てるまま数百年間に渡り放置されました。
現在、荘厳なゴシック大聖堂だった頃の面影は高くそびえたレンガの壁が物語るのみ。
はるかな昔はステンドグラスが厳かな光を通していたであろう窓からは、明るい青空が広がっています。
そろそろ、トーメの丘を降りましょう。
下り坂を進んでいくと…
また陸橋が架かっていますが、さっきの天使の橋と比べると薄黒くて何とも陰気な感じ。
これは悪魔の橋と呼ばれていて、20世紀初頭に架けられ当時の帝政ロシアの皇帝に捧げられています。
これはわかりやすいですね。祖国エストニアを支配していた憎きロシア皇帝をそのまま悪魔呼ばわりしていますから(笑)
悪魔の橋を渡ってしばらく行くと、丘陵の中腹に塔を持った印象的な建物が見えてきました。
タルトゥ大学付属の天文台です。
1810年に建てられ、二重星の観測で知られる天文学者フリードリッヒ・フォン・シュトルーベが勤務していたそうです。
現在は新しい天文台が建てられているので、この旧天文台は資料館になっています。
シュトルーベ先生の時代の古い観測機器や望遠鏡があるとのことで、見てみたかったのですが、月曜日だったせいか門扉が締まっていました。
…残念!
旧市街とトーメの丘を一周りして、麓の新市街に戻って来ました。
小さな街タルトゥの、小さな旧市街散策。
ほんの数時間もあれば一通り見て廻れますが、意外と見どころがたくさんあって興味深く、楽しい街歩きでした!
駅に向かうまでもう少し時間がありそうだったので、タルトゥ科学館AHHAAの裏手のエマユギ川沿いにあった市場を覗いてみました。
花や食料品から衣料まで、様々な日用品が売られています。
すぐ近くに大きなショッピングモールもあるのですが、昔ながらのスタイルの市場に買い物に来るお客さんも結構いるみたいです。
「旅先では市場を見れば、その街がわかる」 が僕の旅のモットーですが、タルトゥは昼下がりにのんびり花屋さんに買い物に来る人たちが住んでいる素敵な街、ということで決まりのようですね。
さあ、そろそろ駅に行きましょうか。
→#012:タルトゥ→タリン ソ連製の列車で行く、エストニア鉄道の旅に続く
おまけ画像
天使の橋の近くの、学生街の音楽教室の前を歩いていたふさふさタルトゥ猫。
音楽教室から出てきた、バイオリンか何かのケースを背負った小学生くらいの子と一緒に追いかけたのですが、空き地に逃げられてしまった。残念…
でも、エマユギ川に架かる橋の欄干に猫がいた…
…っていうか、エストニアにもこの手の、やたら作り込まれたAA(アスキーアート)があるのねやっぱり(笑)
タルトゥでは街を上げて公共アート大会のような催しをやっているらしく、橋の欄干をはじめ道端の至る所にちょっと洒落た落書き風アートが描き込まれ、そのまま展示されていました。
中にはこんな芸術的な作品も。
こういう落書きなら大歓迎ですよね!
童話のようで童話でない不思議な作品です。
箱根に星の王子さまのミュージアムがあります。
とても丁寧に描いてある、美しい「落書きアート」でした。