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出迎えの準備 ~HAYABUSA The Voyage Home~

2010-02-21 | 宇宙
小惑星探査機「はやぶさ」 イメージ画像提供:JAXA

小惑星探査機「はやぶさ」

彼の地球帰還まで、あと4ヶ月程。
我等の不死鳥は、今この時も故郷に向かい、傷ついた翼を懸命に羽ばたかせている…
そして彼の目指す懐かしい故郷、地球でも、
奇跡の宇宙船を出迎える準備が始まった。

1月に開催された第10回宇宙科学シンポジウム(2010/1/7~8)の講演集録。
川口淳一郎プロジェクトマネージャと國中均先生、そして「はやぶさプロジェクトチーム」による報告
「はやぶさの現状 ~地球帰還に向けて~」が公開されている。

宇宙科学シンポジウム 講演集録
(via Twitter/ShinyaMatsuura

この資料を読んでみると、昨年11月4日に発生した悪夢のイオンエンジンスラスタDの自動非常停止と、
その後の奇跡の「こんなこともあろうかと」復活劇の詳細が記されており、
「本当に、あれだけの危機を乗り越えて、よくぞここまで…」
と改めて感動を覚えてしまう。

資料には「はやぶさ」の今後の運用予定についても詳細な説明がなされていた。
「はやぶさ地球帰還運用の概要」を見ると、再突入90日前から始まる具体的な地球帰還運用の姿が見えてくる。
再突入90日前にイオンエンジンによる軌道変換を終了した「はやぶさ」は、その後幾度かに渡って最終目的地である地球南半球、オーストラリアのウーメラ砂漠へと精密誘導される。
そして地球大気圏再突入8時間前に小惑星イトカワの地表サンプル、人類が初めて手に入れる「星のかけら」を収めたカプセルを分離し、何とこれを「はやぶさ」から撮影するというのだ。

…想像してみて欲しい。
不死鳥が懸命に守り抜き、ここまで届けてくれた「星のかけら」がいま、宇宙の虚空に解き放たれる。
それはやがて、碧く輝く地球へと向かい、彼の視界から消えていくであろう。
その光景を、我々も見ることが出来るということだ。

そして、見事に大役を果たした彼のその後の運用について。
栄光と祝福に包まれ、彼はその旅を終える。
文字通り、光り輝きながら。
資料には、当たり前のことのようにこう記されている。
「カプセル再突入、はやぶさ本体消滅」
「はやぶさ本体の大気圏突入 溶融消滅」


「…嗚呼!」

4年前の秋、佐賀での吉川真先生の講演で直接伺って以来、このことはわかっていた。
でも、ここまで冷静に現実を突き付けられると…

しかし。
こう考えることも出来るのではないか?
「はやぶさ」は地球大気に溶け込み、母なる地球へと還る…
彼のからだはやがて大地に、海に降り注ぐ。そして、ついには僕たちを構成する物質の一部となるのだ。
彼は消滅するのではない。僕たちのなかに、彼が帰ってくるのだ、と…


パラシュートを開きウーメラ砂漠へ降下中のカプセル イメージ画像提供:JAXA

資料には、「はやぶさ」から切り離されたカプセルのその後の扱いについても記載されている。
人類が初めて手に入れる貴重な宝は、地球上の物質による汚染や衝撃を最低限に抑えるべく、現地ウーメラの空港(僕が以前、現地で「はやぶさ」の帰還を見ようと画策していた頃()に調べて知った、軍用の空港だ)から直接チャーター機で日本へと運ばれるという。
「はやぶさ」地球帰還当日の現地渡航は、関係者の方々へ多大な御迷惑をお掛けすることになりますので、自粛することにしております)
ここにはまた、
「カプセル本体を特殊コンテナに収納するウーメラにて出国時の
また専用施設相模原キュレーションセンターにおける開梱にて入国時の
検疫や通関を実施。」

と、通常の国際間での荷物輸送に必要な手続きについても記されている。
「星のかけら」が「地上に存在する科学サンプル」となったことを印象付ける象徴的な一文であろう。

同様に、「現在の状態と,今後の運用予定」には
2010.2M: 豪州政府からの着陸許可
との記述も見える。
遥か3億キロ彼方の小惑星イトカワから持ち帰られたカプセルといえども、大気圏に突入してオーストラリアの領空に入ってしまえば航空機などと同じ「飛行物」として扱われる。
主権政府の許可なく、勝手な着陸は許されないのだ。

このように、ある意味事務的に今後の運用予定が記述されているのを読むと、
いよいよ本当に彼の帰還が現実のものとして見えてきたことを感じる。
彼の帰る日、「その日」が迫っているのだ!
「『中の人たち』はこれから、忙しくなるぞー!何しろ、大仕事から細々したことまで何もかも準備万端整えて、帰ってくる彼を出迎えないといけないんだからな!」
…関係者の皆様、本当に、お疲れ様です。どうぞお身体にだけは気を付けられて下さい。

そして「その日」、
僕はおそらく「うっちーさん」か「うすださん」の大きなパラボラの下で、彼を応援してきた仲間たちと共に集い、空の向こうを見上げているだろう。
きっと、泣いているだろうな…
でも、出来れば笑って、心の底から祝福して、彼を出迎えてあげたいんだ…

そして、こう言うんだ。

「はやぶさ、おかえり!そして…ありがとう。」