ラノベには古代中国王朝風の舞台設定も後宮の物語も多いネタではありますが、時々上がって来る「お勧め作品」の中でこの『後宮妃の管理人』のいきなり勅旨で皇帝の側近で大貴族の嫡男と婚姻し、後宮妃の健康と美容の管理をする役割を与えられた28歳の商会の娘という設定が面白そうなので手に取ってみました。
妃が主人公ではなく、妃たちを管理する官吏が主人公というのが異色です。
しかも、独身の若い娘が頑張る立身出世物語ではなく、「嫁き遅れ」と当人も諦めている20代後半女性の政略結婚から始まるところが面白いですね。
玉商会の娘として商会を切り盛りし、子どもの頃の衝撃的な事件をきっかけに、美しくあろうとするあまり騙されたり危ない目に遭ったりする女性たちを支援することに使命感を燃やしている玉優蘭は、その美容や女性の健康に関する知識を買われての異例の大抜擢です。
その彼女の活動を最大限にバックアップするため、代々皇帝に特殊な役割で仕えてきた大貴族拍家の次期当主にして右丞相の恒月が彼女の夫となるのですが、この方は彼女の2歳年下で、女性と見まごうばかりの美貌の持ち主。
平民で「嫁き遅れ」である優蘭は申し訳ないやらいたたまれないやらといった気持ちを抱いたものの、そもそも勅旨で拒否権がないことに加え、後宮で貴族たちとのつながりを持てばいい商売になると商人らしく損得勘定で割り切って結婚と後宮管理の仕事を受けます。
そして、彼女の初出勤の日、後宮で麗月として女装した夫にさらに仰天することになります。
こうして、夫婦揃って皇帝にこき使われつつ後宮を含む宮廷の膿を出すことに貢献していく物語です。
現皇帝は4年前に即位したばかり。元は皇位継承順位の低い第五皇子だったのですが、皇帝・皇后を始め皇子・公主たちが皇后の侍女によって毒殺されてしまい、たまたまその時期に留学していたために事なきを得たという不穏な即位事情の上、外国事情に精通してることもあり、国の改革を促進していこうという政治態度なので、貴族たちは皇帝派の革新派と、対立する保守派、それに様々な事情により中立の立場を取る3派閥に分かれて権力闘争に明け暮れている状況です。
そんな中でも皇帝は女性に対してマメな男なので、後宮の花たちは穏やかにきれいに咲いていて欲しいという希望を持っており、その願いを叶えるために白羽の矢が立ったのが玉優蘭だったというわけです。
1・2・3巻は主に後宮のトップである4夫人に焦点が当てられ、それぞれの問題・悩みに優蘭が対処して信頼を得て行く過程が描かれています。
4・5巻では内政問題解決に向けて努力する寵臣夫婦の関係の進展が多く盛り込まれています。拍家を貶める謀略に嵌まり、窮地に立たされた二人が盛大なすれ違いと初めての夫婦喧嘩をしてしまう一方、強い味方も現れて、なかなか尻尾を出さなかった敵を追い詰めることに成功します。
最終巻の6巻では、内政の問題が一段落した後は外交問題ということで、外国から押し付けられた皇女の対応が中心になります。寵臣夫婦はついに両想いを確認し合って本当の夫婦になるという糖度の高い巻ですね。
この巻は完結編ではなく、次巻への伏線も含まれています。
6巻を2日かけて一気読みしたら、物語が完結していなかった時のもどかしさ!
それだけ読ませる力がこの『後宮妃の管理人』にはあります。
しきみ彰の作品を読むのは初めてですが、面白いですね。
夫婦そろって有能な仕事人間で、どちらも恋愛方面は不器用というキャラ設定と古代中国風政治ものと後宮ものを絡めた舞台設定自体もいいですが、周りに配されているキャラたちにも悪役も含めて濃厚なキャラが多いので、そこに大小の様々なドラマが生まれて、読んでいてとても楽しめます。