バッチギ
監 督 井筒 和幸
主な出演者 井坂 俊哉、中村 ゆり、藤井 隆、西島 秀俊、風間 杜夫
米倉 斉加年、キムラ 緑子 他
5月31日(木)、午後、TOHOシネマズなんば。
時代は、1974年。息子の「筋ジス」治療のため、東京に来た、アンソン(井坂俊哉)は、伯父のビヨンチャン(風間杜夫)と家路につく途中、国電の駅で、
従弟のヨンギ(清水優)が、右翼学生に囲まれて、ボコボコにされている光景に出くわす。相手は、京都時代からの宿敵、近藤(桐谷健太)だった。
日本人学生と、朝高生とは、血みどろの大ゲンカを繰り広げる。
これを救ってくれたのが、国鉄職員・佐藤(藤井隆)だった。
「暴力はやめれ!」と止めに入った佐藤が、結果、近藤を鉄拳で倒し失神させてしまい、責任をとらされて、国鉄を辞めることに。
落ち込む佐藤を、アンソンは、枝川(在日の集落)近くのホルモン屋に連れて行き、慰める。
そこには、アンソンの妹、キョンジャ(中村ゆり)がおり、その凛とした美しさに一目ぼれしてしまう。 やがて、一人暮らしの佐藤は、枝川の温かさの中でファミリーの一員となる。ある日、キョンジャの前に、芸能プロダクションの社員(山本浩司)が現れ、「興味があったら電話して」と名刺を渡される。
チャンス(今井悠貴)の治療費を稼ぐためにも、弱小事務所のドアを叩く。
芸能界のしがらみに戸惑いながらも、持ち前の負けん気で、ステップアップを果たしていく。 やがて親切に声を掛けてくれた若手の人気俳優、野村健作(西島秀俊)に惹かれていく。 だが、やがて「朝鮮人と結婚できるか!」の一声で破局。
だが、キョンジャはその足で、プロジューサーのホテルの部屋へ。
一方、チャンスの病状は刻一刻と悪くなっていく。
治療費の欲しい、アンソンは、危険な仕事で金を工面しなければならなかった。
このような中、父親ジンソンにお世話になったという、在日社会のゴッドマザー(新屋英子)に助けられる。
キョンジャにもヒロインの話が持ち上がる。だがここでも「大和撫子を演じる女優が(日本国籍の)パスポートくらい持ってないとねー」と探りを入れられる。
愛する息子を救うため、すべてを投げ出すアンソンと佐藤。 芸能界のしがらみに翻弄されながら生きるキョンジャにも超えるべきカベは余りにも高く、深い。
(パンフを元に構成しました。)
監督の、井筒和幸さんには、5月3日に身近でお会いし、お話を聞いた。
今回の映画の副題が、「LOVE&PEACE」となっているように、強い平和主義者だ。
全編にその精神が溢れている。
眉 山
原 作 さだ まさし
監 督 犬童 一心
主な出演者 松嶋 菜々子、大沢たかお、宮本 信子、永島 敏行、夏八木 勲 他
5月16日(水)、午後、TOHOシネマズなんば
母のそばには、いつも眉山があった。
眉山-その昔、万葉集のなかで、なだらかな美しい眉のようなシルエットを、「眉のごと 雲居に見ゆる 阿波の山」と詠まれ、古くから徳島の人々の心を優しく見守り、癒してきた山。
東京で、旅行代理店に勤める咲子(高嶋菜々子)は、徳島で一人暮らす母、龍子(宮本信子)が入院したとの報せを受け、急遽帰る。
母は、もと神田のお龍と呼ばれたチャキチャキの江戸っ子。
担当医から、告げられた母の病は、末期ガン。
長椅子に座っていると、先程、母に怒られた看護士が「ベッドが空くまで辛抱します」の声が聞こえてくる。 その言葉に激高する咲子を遮り「この世に生きる者同士、命の重さはお互い同じと思し召し、何とぞ平等に平等に、哀れな病人どもをおみたてくださいますよう」と、ぴしゃりと言ってのける。
病院の屋上で、咲子が洗濯物を干していると、龍子が啖呵を切った医師・寺澤(大沢たかお)が、現れ謝罪のため頭を下げる。
それが、二人の交流の始まりだった。
咲子は、一度も会ったことのない父について母に問いつめたが、「あの人は亡くなった」と告げる。
ある日、咲子は、松山(山田辰夫・龍子に世話になった居酒屋の主人)から、「自分が死んだら咲子に渡して」と、龍子から依頼されていた箱を渡される。
その中には、若き日の父との写真と住所のある手紙があった。
咲子は、母に「どうして嘘をついたの。死んだなんて」と問い詰めるが、「あんただって嘘ついたじゃないか。あたしは、いつまでだって?」と切り返す。
「お母さんは私なんか必要ないでしょ」という言葉を吐いてしまう。
そのことを後悔し、寺澤に話す。 寺澤はそんな咲子を優しく抱きしめる。
咲子は、東京で父に会う。
父は、「もうすぐおどりの季節ですね」と言い、咲子は、「よろしければ遊びにいらしてください」と返事し、親子の名乗りが出来ないまま父のもとを去る。
かって、父は母を心から愛していた。
再び、徳島に帰った咲子は母の死期が近いことを知り、母が父と果たせなかった願いを叶えるため、母を阿波おどりに連れ出す。 探し探し、そこに、父の姿を発見する。もちろん龍子も。 そしてその夜、龍子は帰らぬ人となる。(パンフを元に構成)
この映画には、「献体」というテーマもあった。
幼い頃から心が通わなかった母娘が、最後に切ない父母の恋を知るなかで、心を通わすことが出来た。
ごくありふれた話ではあるが..。 宮本信子の演技が光っていた。
バベル
監 督 アレハンドロ・ゴンサレス・イニャリトゥ
主な出演者 ブラッド・ビット、ケイト・ブランシェット、ガエル・ガルシア・ベルナル、役所 広司、アドリアナ・パラッザ、菊池 凛子 他
5月7日(月)、午後、TOHOシネマズなんば。
第79回アカデミー賞 最優秀作曲賞受賞、6部門7ノミネートの話題作。
「バベル」とは、アッカド語で「神の門」という意味を持つ言葉であるが、一般的にはパビロンと訳されていた。これは、聖書によって悪の力の象徴パビロンこそバベル(混乱)の源ということで用いられるようになった。
遠い昔、言葉は一つだった。 神に近づこうと人間たちは天まで届く塔を建てようとした。 神は怒り言われた。 “言葉を乱し、世界をバラバラにしよう”
やがてその街は、バベルと呼ばれた。(旧約聖書 創世記11章)
21世紀の今、この星全体が“バベル”のようになってしまった。 世界のあちこちで争いが絶えないばかりか、もはや言葉が通じる隣人や親子さえも心を通わすことが出来ない。
リチャード(ブラッド・ピット)は、妻のスーザン(ケイト・ブランセット)とモロッコを旅していた。 ある哀しい出来事が原因で壊れかけた夫婦の絆を取り戻すため、アメリカからやって来たのだ。まだ幼い息子と娘は、メキシコ人の乳母、アメリア(アドリアナ・バラッザ)に託していた。 山道を行く観光バスの中で、事件は起こった。 どこからか放たれた一発の銃弾が窓ガラスを突き抜け、スーザンの肩を撃ち抜いたのだ。 あたりに病院はない。リチャードは、バスを移動させ、スーザンを医者がいる村へと運ぶが、溢れ出る血を止めるのがやっとだった。
リチャードが、救助に来ないアメリカ政府に苛立つ間、徐々に事件は解明され、やがて一人の日本人男性ヤスジロー(役所広司)に辿りつく。 そして彼には聾唖の娘、チエコ(菊池凛子)がいた。 彼女は、父と心が通じない苛立ちを感じる中、同世代の若者と酒を飲み、乱れる。 父の銃のことで聞きにきた形事ケンジ(二階堂智)の前に全裸で現れる。 一発の銃弾は、国境を越えて、孤独な魂を抱える人々をつなぎ合わせていった。 銃を手に入れたモロッコの山羊飼いの少年、銃の所有者である日本人男性ヤスジロウ、彼の聾唖の娘チエコ、そして乳母アメリアがメキシコへ連れて行った子供達。果たして、生命と魂の危険にさらされた彼らの運命は..。(パンフを元に構成しました)
モロッコ、メキシコ、日本と言葉と風土の違う国にまたがる事件。
その中で、三者をつなぎながら、物語は展開していく。
それぞれの中で、孤独、不信が時を経て、解き放たれていく。
そこには、魂と魂の温かいつながりがあつたからであろう..。