今回、約10年ぶりに音楽CDを購入した。今回購入したのは、廣津留すみれ氏が演奏するメンデルスゾーンのバイオリン協奏曲とチェリビダケ指揮のブルックナー交響曲第8番の東京公演版である。前者の印象は前述した。
私は独墺系のロマン派の音楽を好んで聴く。その中で私の好みはマーラー、ブルックナーが中心である。両者の作品の演奏データは優に50種を数える。ブルックナーが6割、マーラーが4割というところ。
ブルックナーの交響曲は0番から10曲あるが、私の好みは8番>9番>7番>5番>6番>・・・と続く。8番の演奏データは15種類。愛聴するデータは、カラヤン>ギュンター・バント>チェリビダケ>インバル>朝比奈隆>ジュリーニ>ヨッフム>シャイー>バレンボイム>・・・・と続くが、最近はチェリビダケを聴く機会が増えてきている。
チェリビダケは1912年ルーマニア生まれ。1996年没。1945年のドイツ敗戦直後、戦後、一時ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団(BPO)の首席指揮者に就任した。
フルトヴェングラーの死後、BPOは後継者としてカラヤンを選出する。チェリビダケはその後各地で演奏を行い、1970年にシュトゥットガルト放送交響楽団、1979年からミュンヘン・フィルハーモニーの総監督を務めた。 日本には読売交響楽団の招きで2回客演で来日した他、ミュンヘン・フィルと複数回来日している。
チェリビダケは、「音楽は空間および時間と一体として存在するもので、それらを切り離すことは不可能、つまり、音楽はホールで、一回きり。録音などは、一切ダメ」という考えを表明している。そういう一方で、イタリア、スエーデンなど、各地の放送交響楽団の役職を兼ねるなど、ちょっと矛盾している。それがむしろ嬉しい。
そんなユニークな考えをもつチェリビダケの演奏は、逆に聴きたくなる。彼の録音は非正規という形で次々にリリースされた。だからCDカタログ上では多数認められる。中には客席の足元に置いた録音機で??と思われる海賊版もあった。
チェリビダケのブルックナー交響曲第8番は、種々の録音が繰り返しリリースされた。その中でリスボンでのライブ盤はベストセラーであったが、先般、遺族の許可を経て、初めて正規のCDとして「復活」を遂げた。第8番はおおよそ80分ほどかかる大作だが、チェリビダケの手になるとの105分を要する。
水久に終わらないのでは、と感じられる遅いテンポで奏られる。だから、聴くときはそれなりの準備が必要である。ながら聴きには向かない。
それぞれのパートに明確な輪郭を与えつつ、透明感をもって音が重ねられる。強奏部分でも、音量が上がるというより、音圧が厚さを増しながらみるみる広がっていくような感じである。
ブルックナーの作品が、チェリビダケとミュンヘンフィルによって生まれ変わった。豊かな音に囲まれながら過ごす時間は、私にとって至福のひとときの一つである。