かつてNHKの番組の一つに「青年の主張」というのがあった。
たしか毎年の成人の日の当日だったか翌日だったかにラジオ番組で放送されたと思う。「NHK青年の主張全国コンクール」はNHKが1956年から毎年成人の日に開催し、以降毎年放送された。ラジオでは第1回から毎年中継していたが、テレビでの中継は1959年からである。
1990年から表題を『NHK青春メッセージ』として装いを一新。それまで設けていた主張テーマを廃して自由にアピールを発表する事が出来るようになった他、年齢制限も緩和され、当該年度に満15~25歳になる青少年に広く門戸を開放した。2003年に終了した。
私は子供の頃からこの番組が好きだった。青年たちの夢が力強く語られ、それを聴きながら自分の将来についても考えたものであった。
思えば、あのころは世の中全体が若者社会だった。
若者たちの気力で溢れていた。老人も引きづられて元気だった。
政治も産業もマスコミも文化もコマーシャリズムも、ターゲットは若者だった。
若者が日本の文化を動かしていたといっても過言ではない時代だった。
だから人々は若者の発言に注意深く耳を傾け、これからの世の中の移り変わりを、その主張の中に見ようとしていた。
あれから何年たったであろうか。
ふと気がつくと世の中はいつのまにか老人社会ということになった。
日本は少子高齢化社会となり街に高齢者が溢れている。我が国の65歳以上の高齢化率は、1950年が4.9%であったが、以降一貫して上昇が続いており、1985年に10%、2005年に20%を超え、2018年は28.1%となった。
これから先、この比率は恐ろしいまでに増えていく。さらに、人口自体が減少し始めている。
民主主義社会では選挙の意義は大きい。多数を占める老人が世の中を動かす時代になってきた。政治家は身の安全を図るために老人に甘い政策を掲げたそれがシルバーデモクラシーである。これは決していいことではない。
その結果、老人たちは世の中に甘え、若者たちは夢を失ってしまった。
いま老人たちは何を考え、何をしようとしているのか。その主張に耳を傾けなければならない。要するに老人を甘やかすと日本は活力を失っていく。
それにしても老若世代間の対話が少ない。互いに何を考えているのかよくわかっていないのではないか、と思う
私は「ジェネレーションギャップ(generation gap)=以下GGと略す」の中でつくられてきた溝を埋めるために「老人の主張」を敬老の日に復活させてほしい。最近の社会の考え方は「敬老」から「軽老」の日に向かっているようにもみえ、「嫌老」「棄老」の言葉すら見つけることができる。これは他の世代が高齢者についてよく知らないから生じている現象である。
同じことは青少年にも言える。成人の日付近に『NHK青春メッセージ』を復活させ こどもの日付近には「少年の主張」を組んでほしい。