陶磁器の器には、蓋(ふた)の付いた作品も多く存在します。
蓋とは、容器の入り口より若干広い面積以上を有する、板状又はドーム状の物で、入り口を塞ぐ物を
指します。尚、栓(せん)は容器の入り口とほぼ同じ寸法の棒状の物で、蓋の一種ですが、陶磁器製の
ものは、余り見かけません。
1) 蓋物の種類
小さい物では香合があり、更に大きくなると、湯飲みや茶碗蒸しの蓋、急須や茶道の水指、
丼(どんぶり)の蓋、土鍋、甕(かめ)、茶壷等の他、陶筥(とうばこ)や重箱等の食器類など種類も
多いです。作品に応じて蓋の形も異なりますし、本体と蓋とがピッタリする必要があるものと、
少々「ラフ」で良い蓋の場合があります。(陶磁器製ではピッタリ造る事はかなり困難です。)
2) 蓋の役割
① 埃(ほこり)や「ごみ」、害虫が入るのを防ぐ。
長い間蓋をしないで放置または、保存した場合、空気中の埃が器の中に入ります。
特に食べ物が入っている場合には、埃以外に蝿や害虫及び、カビ類の胞子なども入り、衛生上
問題が生じます。それを予防する為に蓋をします。
② 保温効果を持たせる。
暖かい天丼やカツ丼などの丼物には、蓋が付いて出される場合があります。
保温の為と、ご飯とおかずを馴染ませる(蒸らす)効果もあります。
お客用の湯飲み茶碗にも蓋の付いた物があります。この場合も保温が主目的ですが、提供
途中での埃や唾などの異物の混入を防ぐ為でもあります。
更に、土鍋などで煮る場合でも、熱の発散を防ぐ為、早く煮る事が可能です。
③ 容器内の乾燥を防ぐ。
液体が有れば、時間と共に水分が蒸発しますし、食品なども乾燥が進みます。
蓋は水分の蒸発を防ぐ役目もあります。
④ 料理上蓋が必要な場合。
茶碗蒸しなどでは、料理の過程で必要になる場合があります。
⑤ 箱物の場合、平らな蓋であれば、その上に重ねる事ができます。
3) 蓋の種類
① 被せ(かぶせ)蓋:大きな箱(蓋)と、小さな箱(本体)を各々作り、被せ合わせた様な
形の蓋です。 本体(身)の口縁と同形で、身の口縁よりやや大きく作ります。
口縁が丸であれば蓋も丸くなり、口縁が四角であれば蓋も四角に成ります。
蓋には外側に1周数ミリ~数センチの高さの鍔(つば)が下向きに着けられ、滑り止めとなって
います。
② 乗せ蓋: 本体の口縁の形に合わせて、乗せただけの蓋です。
) 最も簡単な蓋は、単に平らで口縁と同じ形と大きさの板状の蓋です。
平らの状態では強度的に弱く、やや中央に丸みを着けた方が丈夫です。
この場合、蓋が自由にスライド(移動)する為、持ち運びには不便です。
更に、平たい板状の土は反りが発生し易いと言う欠点もあります。
) 二方桟蓋(ゲタ): 方形の器の蓋の内側に平行な桟(さん)を取り付け、器の内側に
添う様にして、滑り止めとします。下駄の歯の様な状態ですので「ゲタ」とも言われるそうです
) 器が円形の場合には、蓋の内側にドーナツ状の突部を設けて、滑り止めにします。
器が小さな場合には、ドーナツ状ではなく、蓋の内側の外側を削り取り、全体を凸状態の
蓋にします。(削り入り乗せ蓋)
③ 落とし蓋: 本体の中に蓋受けを設け、本体の中に落とし込む蓋です。
蓋の端の表面と本体(身)の縁の高さが揃う様にした物です。市販の急須や、茶道の水指
(但し共蓋の場合)などに見られる蓋です。
④ ヤロウ蓋: 蓋の内側に、蓋よりも若干幅のある板を貼り付け、木箱の内側に入り込む様に
した、しっかりとした蓋で、陶芸作品などに使用されています。
⑤ 印籠蓋: ヤロウ蓋とは逆に、本体の内側に板を貼り付け、二重構造にするか、肉厚に作った
本体の縁を一周削り落とし蓋受け部にします。
⑥ 新印籠蓋: ヤロウ蓋と印籠蓋の両方の特徴を持つ蓋の構造です。
ヤロウ蓋は蓋側に、印籠蓋は本体側にそれぞれ段差を設けますが、蓋側と本体側に、段差を
設け、一体に成るようにした構造に成ります。
⑦ スライド式の蓋:本体に二本の溝を設け、板状の蓋を差込みスライドさせる蓋です。
縦方向にスライドする方法と、横方向にスライドさせる方法があります。
以下次回に続きます。