わ! かった陶芸 (明窓窯)

 作陶や技術的方法、疑問、質問など陶芸全般 
 特に電動轆轤技法、各種装飾方法、釉薬などについてお話します。

素朴な疑問 236 スリップウェアとは3?

2016-04-27 16:22:10 | 素朴な疑問
2) 英国の「スリップウェア」とはどんな焼き物なのでしょうか?

 ① 最初は飾り皿が多く作られていました。

 ② 18~19世紀になると、実用的な皿が作られる様なります。

  以上が前回までの話です。

 ③ 皿の鋸歯状の縁の形状も、見所の一つに成っています。

  皿は後で述べる型押しの技法で制作している事で、強度を持たせる為と、焼成では重ね焼きで

  行いますので、くっ付き防止の為、及び持ち運びの際、手指の滑り止めの働きもある形状に

  成っています。細かい鋸歯状の縁や太い細いを繰り返す縁や、深く切れ込んだ物、浅い物など

  多様な鋸歯状の縁があります。専用の用具を使用した様です。

  但し、鋸歯状の縁にはスリップは掛かっていません。

  又、皿の裏底も見所に成っています。裏底はベタ高台(高台が無い)に成っています。これは

  次で述べる方法に由来しています。

3) 英国の「スリップウェア」の制作方法。

 ① タタラ(粘土の板)状態の土を型に押し当てて形を作っています。

  ) 制作工程は、タタラを作る。スリップ加工を施す。型に合わせて成形する。仕上げ。

   乾燥。素焼き。施釉。本焼き。完成となります。

  ) タタラを作る。

   使う粘土は、スリップ効果が出る様に、赤土や黒く発色する色の付いた土を使います。

   又、黒く発色させる為に、弁柄(酸化第二鉄)などを用いた化粧土を、作品の表面に流し掛け

   して、土台を黒くする事もあります。

   タタラの厚みは作品の大きさに合わせ、5~8mm程度が多いです。

   粘土を掌(てのひら)や叩き、板を使い必要な大きさに延ばし、数cmの厚さにします。

   タタラ板を上記の粘土の両端に積み上げ、糸やワイヤーを用いてタタラ板に沿わせて粘土を

   スライスします。同様にして数枚のタタラ板を作ります。尚、切り出したタタラは乾燥しない

   様に、濡れた新聞紙や布の上に置きます。この新聞紙や布は後で役立ちます。

  ) スリップ加工を施す。

   スリップの色は白が多いですが、黄色、黒、赤色なども使われます。

   スリップで加飾する為には、それなりの用具が必要になります。主にスポイト状の用具が

   使われますが、多くは独自の形状の物を自作している様です。スリップの濃度の調整が大切

   に成ります。濃い場合には盛り上がりますが、薄い場合は横に広がってしまい綺麗な文様が

   出来なくなります。その他、一度描いた縞文様の直角方向に櫛を軽く当て(滑らす様にする)、

   鳥の羽の様な文様(フェーザコートと言う)を描き出す事もあります。

  ) 型に合わせて成形する。

   型は粘土で作り、素焼きした物を使います。素焼き型は被せたタタラの水分を吸収する働きが

   あり、型離れも良くなります。型には内型と外型があります。

   一般には型の外側に被せ、スリップ文様に傷に出ない方法(内型)を取りますが、型の内側を

   使う事(外型)もあります。  

   a) 内型に合わせる。

    スリップ文様が乾いた段階で、タタラの中心に型を置き、天地を引っ繰り返します。

    その際、タタラの下に敷いた新聞紙や布で、タタラを安定した形で引っ繰り返す事が出来

    ます。タタラを強く押し付くける必要があります。一般には直に両手の掌(てのひら)を

    使い、型の中心から外側に向かって押し込みます。特に縁周辺では波状の皺が発生し易い

    ですので、しっかり押さえ込みます。型から外にはみ出した粘土は、針やカッター等で

    切り取ります。タタラが乾燥するに従い、型から離し易くなります。又、型から離れ難い

    粘土の場合、予め型に「片栗粉」等を薄く掛ける方法もあります。「片栗粉」は何ら悪さは

    しません。

   b) 外型に合わせる。

    外型の利点は、タタラの乾燥収縮と共に型から自然と離れ易くなる事です。但し、スリップ

    文様側に力を加えて、型に沿わせる為、複雑な形の作品には向きません。

    尚、出来るだけ外型の形に近い形に変形させてから、内側に押し込む方法がベストです。

    スリップ面からは、砂袋(砂を布の袋に入れ口を輪ゴムや紐で閉じた物)で軽く叩き型に

    沿わせます。

    注意点は、どちらの方法でもタタラに「ひび割れ」を発生させない事です。特にスリップ面

    に「ひび」が入ると面倒です。その為にもスリップ面が圧縮する方向に力が働く、内型が

    適してると言えます。

  ) 仕上げ。 縁の形状を整えた後、鋸歯状の文様を付ける。

    型から外して一晩置いた程度の時、一番加工し易く成っています。鋸歯状の文様は、粘土で

    作った、丸や棒状の用具を使います。この縁も見所の一つですので、各自工夫が凝らされて

    います。

以下次回に続きます。
 
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素朴な疑問 235 スリップウェアとは2?

2016-04-23 17:03:49 | 素朴な疑問
2) 英国の「スリップウェア」とはどんな焼き物なのでしょうか?

  英国で「スリップウェア」の作品が、目立って作られる様になったのは、17世紀頃からと言われ

  ています。勿論英国以外でも、17世紀以前より存在していました。

 ① 最初は飾り皿が多く作られていました。

  形は丸形、角に丸みのある正方形、長方形などが多く、かなりの大皿です。丸形の場合直径

  35~45cm程度の作品で、正方形では、30~40cm、長方形では、35~45cm程度が多く作られ

  ています。長方形の場合は、模様の付け方により、縦長と横長の形に分かれます。

  飾り皿ですので、多くは皿立てに立て掛けられて使われていました。

  ) 地の色(粘土の色)は、黒と黄色味かかった色が多く、黒地には黄色のスリップが、

    黄色地には黒色のスリップ(化粧土)が掛けられた物が多い様です。描かれた模様は人物や

    鳥類、ライオンなど具象的なものが多いです。特に鶏や小鳥などの鳥類が多く見られます。

    模様はスポイト状の用具で描かれた様で、細い線で描かれ、面状に塗り潰された作品は稀

    かも知れません。中央に描かれた鳥類の他に、草花や意味不明な抽象的な模様(線)が

    添えられています。描き方は鳥類と同じ技法です。

  ) 飾り皿の特徴として、極浅めに作られ浅皿で、高さが5~8cm程度の物が多いです。

    底部が広く周囲がやや盛り上がった形に成っています。盛り上がった皿の周囲全体に、

    細かい凸凹(鋸歯状)が付けられた作品が多いです。この件は後で述べます。

 ②  18~19世紀になると、実用的な皿(料理を盛る皿)が作られる様なります。

   描かれた模様も、具象的な物から、抽象的な物へと替わって行きます。

  ) 縞(しま)模様の器。

    黒色の地に黄色いスリップ(化粧土)で器内部全体に塗り、その上から細い棒(カンナ)で

   引っ掻き傷を付けた物や、櫛を使って平行線の模様の物、あるいは、隙間を空けながら、

   スポイト技法を駆使し、平行線を作り出す方法などがあります。黄色地に黒い色が浮き出て

   来る視覚的効果があります。更に、黒線の強弱、幅の広い狭い、湾曲した線などの違いに

   よって、皿の印象は大きく異なります。

  ) 羽模様(フェザーコーム)の器。

   これも英国を代表する絵柄です。上記縞模様と直角方向に、強く動かして櫛を入れる方法で、

   櫛の動いた方向に模様が引っ張られます。我が国では鶉紋(うずらもん)と呼ばれる模様です

   縞模様の間隔と、櫛目の粗さによって作品のイメージが大きく変化します。 

  ) 一筆書きの模様の器。

   一本の線が途切れる事無く、一思いに描き切った模様です。イッチン(スポイト掛け)技法で

   抽象的な模様が、器全体に描かれています。ジグザク線や連続した円、八の字状の模様、

   更にこれらの組み合わせ文様も見られます。

  ) 格子文様の器。黒地に黄色い線描きで表現されています。

   縦線と横線を交叉させた格子文様です。縦横ではなく左右に傾斜した線で描かれたものも

   あります。交叉の仕方によって多くのバリエイションが生まれます。

  ) 捻り(ひねり)文様の器。小振りな皿の場合が多い。

   直線の途中から捻って円を描き又直線に戻ってから、更に逆方向に捻った円を連続して描く

   方法です。多くは一本線ではなく平行した三本線で描かれています。三本線はスポイトを三本

   並べて使い、一度に描いています。

 ③  皿の鋸歯状の縁も、見所の一つに成っています。

以下次回に続きます。
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素朴な疑問 234 スリップウェアとは1?

2016-04-21 15:44:16 | 素朴な疑問
スリップとは泥漿(でいしょう)状の化粧土の事です。化粧掛けの技法は古く、江戸時代初期頃、

又はそれ以前から行われていた様です。主に白以外の濃い色の付いた土を、白化粧土で覆い綺麗に

見せる為に行われていました。それ故、その技法は刷毛目や粉引、三島(印を押した素地に白化粧掛

け)等の方法が取られていました。ここでお話しようとする「スリップウェア」の技法は、従来の

方法とやや異なるやり方の化粧掛けの方法です。

1) 「スリップウェア」はヨーロッパ(特に英国)から、わが国へもたらされた技法です。

 西洋での「スリップウェア」の歴史は古く、古代ローマの時代まで遡るとも言われ、西洋の各地の

 窯場で、日常的な器に使われていたとも言われています。但しここでは、主に英国で行われていた

 技法に付いてお話します。なぜなら、英国のスリップウエアに強い影響を受けた人が、民藝(みん

 げい)の創設者である、柳宗悦を始め、濱田庄司、河井寛次郎などの人々だからです。

 ① 我が国で最初に「スリップウエア」が紹介されたのは、1913(大正2)年日本橋丸善書店より

  発売された、「古風な英国陶器」(当然、英語の題名です)と言う、英国のコレクター著の洋書

  です。この本は柳宗悦(むねよし、1889年 ~1961年)氏、富本憲吉氏(1887~1963)、バー

  ナードリーチ(1887~1979)らの 目にとまります。

  この本は、「スリップウエア」に付いての解説、産地、技法などが記載されていました。

  富本とリーチは、再現を試みます。スポイト掛けの要領で黄土、赤土、白土などで試します。  

 ② 英国に留学中の濱田庄司氏(1894~1978年)が、「スリップウェア」の大皿に出会います。

  1920(大正9)年、20代の濱田庄司氏は窯場の近所の家で、45cm程度の大皿に出会い、大変驚き

  ます。それは、黒地に単純な白い縞模様のある大皿で、実用品として使われていた物です。

  その後、この「スリップウェア」の作品は当地で多く見付ける事が出来、その一部の写真は、

  京都時代の友人の河井寛次郎氏(1890~1966)に送られます。

  濱田氏は1924(大正13)年の帰国の際、10枚ほどの「スリップウェア」の作品を持ち帰ります。

  これらの作品は京都の河井寛次郎氏に見せる事になります。実物を見た河井寛次郎氏は、形の良

  さ釉の美しさ、自由で味のある縞模様の魅力に驚きます。多くの日本人の心を掴む事になります

 ③ 柳氏らによって、「民藝」の語が使われる様になります。

  当時、柳氏と河井氏は不仲で有ったが、濱田氏が「スリップウェア」の皿を、河井氏の家に見る

  来る様に柳氏を誘い、不仲が解消する事になります。その後、3人で紀州への旅行先で、「民藝」

  の語が初めて登場したそうです。それ故、「スリップウェア」も民藝誕生に一役買ったとの事です

  注: 民藝とは、名も無き職人の手から生み出された、日常の生活道具の中に「用の美」を

   見出しもう一度表舞台に登場させて、活用する独自の運動で、民家、民具、民画などが含まれ

   ます。美術品とは一線を画しています。現在でもその運動は続けられています。

以下次回に続きます。

 参考資料: 「スリップウェア」 編者、発行所:誠文堂新光社(せいぶんどうしんこうしゃ)

  (英国から日本へ受け継がれた民藝のうつわ、その意匠と現代に伝わる制作技法)の副題あり。
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素朴な疑問 233 傷のある作品が売られている理由とは3?

2016-04-20 16:27:12 | 素朴な疑問
3) 手書きの絵は価値がある?。

  大量生産された絵付けのある作品は、ほとんどが転写紙で転写さられた焼き物です。それ故、

  寸分の違いも無い絵付けと成っています。転写紙は色々の種類の物があり、多色刷りの物も市販

  されてもいますし、希望すれば専用の転写紙を、業者に作って貰う事も可能です。

 ① 手書きされた絵付は同じ書き手が描いても、微妙に変化しますので、ある程度見極める事が

   可能です。ある意味この違いが価値を得る事にもなります。絵の具の濃淡や筆の擦れなども

   見所の一つになる場合があります。当然、描き手の個性が出るのも、手書きの絵です。

 ② 手の込んだ絵付けされた焼き物では、少々の傷が有っても、さほど価値を落とさず市販(出品)

   される事もあります。手書きの絵付けは手間隙が掛り、長時間の作業に成る為、少々の傷で

   「オシャカ」にするのは、勿体無いともいえます。但し、名の通った作者であれば、少々の

   傷であっても、その様な作品を世に出す事は少ないです。

4) 割れた部分の処置は必要です。

  割れた作品が売られていたとしても、割れた状態のままで売られている訳ではありません。

  本焼きで割れた作品は、割れた断面の角(エッジ)が鋭く角張っていますし、釉も鋭く突出しま

  すので、そのまま使用したり、洗ったりした場合、手の指を傷付け易いですので、角を丸める

  必要があります。本焼きした作品は石の様に硬くなっていますので、紙ヤスリ程度では削る事が

  出来ません。一般的には、砥石(といし)を使いたいですが、割れた空間は狭いですので、

  砥石が掛からない場合が多いです。簡単な方法は「ダイヤモンドヤスリ」を使い、削り取る事

  です。「ダイヤモンドヤスリ」は100円ショップ等で買う事ができます。平、丸、三角、湾曲し

  ている物など色々な形の物が市販されています。 更に、細い物太い物、幅広い物など多様です

  主に銀色をしています。

  注: 以前ですと「ダイヤモンドヤスリ」は高価な物でしたが、現在はかなり安価に成ってい

   ます。勿論、ダイヤモンドは合成された小さな粒子の物が、ヤスリ本体に接着(焼付け?)

   された物です。粒子が取れて無くなれば寿命です。

5) まとめ

  新品の作品で割れた作品が世に出る事は稀な事です。壊すには何らかの「勿体無い」要素を

  含んでいる必要があります。売りに出す(出品する)のは、作者ですので全く自由です。

  但し、割れている事を認識し、更にその作品に魅力を感じた人のみが、購入する事になります。

  実際には出品しても、実用的に考えて売れない事が多い事が多い様です。

  但し、突飛とも思える作品を出品する事は、作品に彩りを添える効果もあります。


中途半端な記事に成ってしまいましたが、以上で、「傷のある作品が売られている理由とは?」

の話を終わります。
  
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素朴な疑問 232 傷のある作品が売られている理由とは2?

2016-04-15 22:08:54 | 素朴な疑問
2) 陶芸の作家が、一個一個手造りした作品だから、貴重なものに成っているのかも知れません。

  現在では、手造りと言うだけで世界に一つしかない物と、見なされる場合も多いです。

 ① 我が国では、歪んだ(ひしゃげた)作品が持て囃される傾向が強いです。

 ② 大きく割れた平皿であっても、堂々として売られ、しかも高価な値段が付いている場合も

  あります。

  以上が前回までのお話です。

 ③ 釉の剥がれ、釉の斑(むら)、窯変のある作品も売買されています。

  一般に釉の剥がれや斑のある作品は、欠点とされ市場に出回る事はほとんどありません。

  特に大量生産された焼き物では、均一に掛けられた釉であり、斑があるのは見る事もありません

  しかしながら、陶芸家の作品では、堂々と展示販売される事も稀ではありません。

  ) 自分の窯を持ち作品を焼いている人にとって、常に釉の擦れ(かすれ)や釉剥げ、斑の

   無い作品を作る事は中々難しい事です。釉を掛ける方法は色々ありますが、基本的には一個

   づつ手で釉を掛ける事が多いです。その際、釉の掛け方及び手順によっては、斑に掛かる事も

   ありますし、釉の濃度の差によって斑模様に成る事も多いです。更に、釉は直ぐに沈殿して

   しまいますので、攪拌しながら、施釉しなければ、作品間に釉の濃淡の差が出る事に成ります

   攪拌のタイミングによっては、釉の濃度に差が出てくる訳です。

  ) 釉が良く磨り潰されている場合と、磨り潰しが不完全の物では、焼き上がった作品の表情

   に差が出ます。又磨り潰した粒子が粗い場合には、十分熔けきらずに点々とした状態で表面に

   浮き出てくる事もあります。これも失敗と見るか、景色と見るかは判断が分かれます。

  ) 釉の一部が擦れる場合もあります。大量生産の作品ではほとんど見る事はありません。

   施釉時に作品の一部を濡れたスポンジで拭いたり、水に漬けるなどすると、その部分の釉は

   薄くなります。一般に釉が極端に薄くなると、どんな釉でも光沢の無い赤味掛かった茶色、

   又は褐色に発色します。施釉した部分の釉が、各種の作業中に薄くなる場合もあります。

   釉の種類にもよりますが、窯詰めや作品の底の釉を剥がす際など、施釉した部分を手(指)で

   触る必要があります。触った部分の釉の厚みが剥がれたり、薄くなる場合もあります。何度も

   持ち替える、一層釉が薄くなり、焼成後には斑に成ってしまう場合もあります。

   更に、何らかのアクシデントによって、窯詰めの際やそれ以前に釉が剥がれる事があります。

   この段階では修復可能ですが、何らかの理由で見逃す事も多いです。剥がれた状態で本焼き

   すれば、当然釉剥げとなります。

  ) 特に炎の出る窯の場合、窯焚きの仕方によって釉の発色の仕方が変化します。

   ご存知の様に、酸化焼成と還元焼成では、釉の色が違う釉も多いです。特に銅を使用した釉に

   多いのですが、石灰系の透明釉でも、酸化、還元焼成とでは色が異なります。

   即ち、還元ではグレー掛り、酸化焼成では明るいベージュ色になります。

   更に、窯の雰囲気を一定に保ちたいのですが、容積の大きい窯程、窯の中では一定にする事は

   難しくなります。それ故、同じ釉であり同じ窯で焼いたとしても作品の色は微妙に変化します

  ) 思いがけずに良い色に仕上がった場合、「窯変」と呼ばれる現象が起こる事もあります。

    窯内の作品全体が「窯変」する事は少なく、一部の作品に起きる事が多いです。偶然性が

    大きく、再び同じ様には出来ないのが、「窯変」の悩みでもあります。

以下次回に続きます。

  
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素朴な疑問 231 傷のある作品が売られている理由とは1?

2016-04-13 14:53:17 | 素朴な疑問
骨董品で傷があるのもは、珍しくありません。時代が古くなればなるほど、無傷な焼き物は少なく

なります。それ故、傷の程度によって作品が売買される値段に差は有るものの、骨董品として大手を

振って自由に流通しています。ここで取り上げるのは、窯から取り出したばかりの新品の焼き物が、

明らかに傷が有るにもかかわらず、高価で販売されている事実です。

但し、ここで言う傷とは、単に破損していると言う狭い意味ではなく、釉の剥がれ、窯変などや、

作品の形の不揃い(セット物の場合)、描いた絵の不揃いや、擦れ(かすれ)など広い意味で使って

います。多くの場合、作家の個展などに展示されている場合が多いです。当然、作者はその傷を逆手

に取って、この傷が作品を引き立っている事を認めている事です。それ故作者の考えに共鳴した人が

買う事になります。又、自分の作品を紹介する書籍などにも、堂々と掲載してあるのを見掛ける事も

あります。それも高価の場合が多いです。傷と見るか景色と見るかは、見る人の考え方や好みにより

ます。但し、公募展や多くの人が出展する展示会等では、ほとんど見掛ける事はありません。

多分、傷のある作品と見る人が多い事を恐れている為とも思われます。

1) 世の中の多くの焼き物では、狂いが無く綺麗で揃った形や絵付けの物は、多く存在しています

  むしろその様な作品ばかりと言って良いでしょう。即ち量産された作品群は、ほとんどこの様に

  成っています。しかも安価に入手が可能です。

2) 陶芸の作家が、一個一個手造りした作品だから、貴重なものに成っているのかも知れません。

  現在では、手造りと言うだけで世界に一つしかない物と、見なされる場合も多いです。

 ① 我が国では、歪んだ(ひしゃげた)作品が持て囃される傾向が強いです。

  特にこの傾向は、昔から抹茶々碗に多いのですが、その影響か他の食器や酒器、花器などの

  あらゆる焼き物に言える様に成っています。現在でもその流れは変わりません。一個造りの場合

  の他、セット物と呼ばれる数個の作品であっても、全く同じ形である必要は無く、若干差が

  あった方が喜ばれる場合も多いです。それ故、作家も意識して同じ形にしようとはしません。

  但し、陶芸技術を修行する人であれば、出来るだけ寸分違う事の無い作品を作る事を心掛ける

  事が大切です。この技術を習得した人であれば、あえて形に差を付けても、嫌味が出る事は

  ありません。なぜなら、未熟者の作品と熟練した人の作った作品では、歪んだ様子に差が出来る

  からです。この差は、見る人が見れば判るだけでなく、一般の人であっても、違和感を感じる

  はずです。 歪みがその作品全体に良い影響を与えるならば、良い歪みと言えます。

 ② 大きく割れた平皿であっても、堂々として売られ、しかも高価な値段が付いている場合も

  あります。我が国には重要文化財の水指、銘「破袋」があります。袋状の底分が大きく火割れ

  した著名な焼き物です。ビードロ釉の美しさ故に生き残っているとも言われています。

  その他にも重要文化財の志野芦絵水指、銘「古岸」があります。この作品は絵志野の最高峰と

  言われている作品です。但し、口縁に大きな割れがあります。使用中に割れたのでは無く、

  窯の中で割れた物です。以上の様に、割れた傷よりも、その作品の中にそれを上回る何かが

  有れば十分価値のある焼き物になる訳です。

  ) 小さな「ひび割れ」よりも大胆に割れた方が見栄えがします。特に肉厚の平皿が割れた

   場合、それを「金継ぎ」等で補修しない事が多いです。但し使用勝手の悪い割れ方は実用に

   耐えませんので、世に出る事もありません。

  ) 割れは窯の中で自然に割れた状態でなければ成りません。

   故意に割った様に見える場合は、「アウト」です。あくまでも何らかの理由で自然に割れた

   事が大切です。割れた部分の断面と、その周辺の釉の状態を見れば、ある程度割れた原因を

   突き止める事が出来る場合が多いです。

 ③ 釉の剥がれ、釉の斑(むら)、窯変のある作品の場合。

以下次回に続きます。
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素朴な疑問 230 高台の働きとは何でしょうか?

2016-04-11 17:21:07 | 素朴な疑問
多くの焼き物の底部には、高台と呼ばれる部分が付いています。

勿論、高台の無いいわゆる「ベタ」高台も存在します。

1) 高台には機能的(実用的)な役目の他に、美的感覚を演出する(見た目の良さを表す)効果が

  あります。

 ① 機能的な役目とは。

  ) 一番大きな役目として、施釉時に高台部分を持ち、本体部分に指跡が付かない様にする

   働きがあります。勿論、施釉する際に直接作品を持たずに、鋏(はさみ)等の施釉用具を

   用いる事で、指跡を付けない方法もありますが、余り一般的では有りません。片手で持てる

   程度の作品では、親指、人差し指、中指の3本などで摘む様に高台部を持ち、漬け掛けや流し

   掛け等で施釉する事ができます。又、高台部は持ち易い形状(持ち易い形に整える)の場合が

   多く、施釉時に取り落とす事も少ない形に成っています。更に、持った高台部にも、若干の

   指跡が付く事もありますが、余り目立つ位置ではありませんので、容易に指跡を消す事が出来

   ます。逆に、高台が「ベタ」や碁笥底(ごけぞこ)高台の場合、器を持つ部分が口縁と底など

   の様に限定されたり、器本体をしっかり鷲掴みし施釉する事になります。指跡もしっかり

   本体に残り易いです。勿論、抹茶々碗の様に、指跡が一つの景色と認められ、評価される事も

   有りますが、一般的には余り良い評価は得られません。勿論指跡を消す方法もありますが、

   完全に消す事は、意外と難しいです。特に指跡の周辺は他の場所より、釉が肉厚になります

   ので、修正には指などで撫ぜて、均一にする必要があります。

   注: 碁笥底高台とは、器の外側のラインが、「くびれ」が無く底まで連続し、一見ベタ高台に

    見えますが、高台内は削られ凹んでいる高台です。

  ) 高台のある器は、持ち易い利点があります。

   高台脇は本体より細くなっていますので、両手の小指、薬指で器の下部を保持し易い形状に

   成っている場合が多いです。但し、極端に低い高台の場合、この効果は少なくなります。

  ) 高台には、一般的な輪高台(割り高台を含む)の他、桜高台や四方高台、三日月高台など

   がありますが、多くは削り出したり付け高台となります。高台脇には贅肉となる土が多く

   付いているのが普通です。この贅肉は作品を重くする働きがあります。食器など作品を軽く

   する必要がある場合には、この贅肉を取り除く事が重要になります。

   碁笥底高台の場合、この贅肉が残り易く作品が重くなる傾向があります。碁笥底にする場合は

   内側の底の形状を外側の形状に合わせる事で、肉薄にする事が出来ます。

 ② 美的感覚を演出する。

  ) 高台のある作品は、実際に軽くなるのですが、軽く見せる効果もあります。

   即ち、作品本体が宙に浮く様な感覚を演出し、作品が軽くなっている感じを与えます。

   テーブルや床に接地している部分が少ない為、作品本体は浮き上がって見えます。又、底が

   狭い為、不安定感を醸し出し、作品に動きを与える事にもなります。

  ) ベタ高台や碁笥底高台は、テーブルに張り付いた感じを与えます。当然安定感はあるの

   ですが、浮遊感や作品の動きを感じさせる事は少ないです。

2) 平たい皿に高台を付ける際に注意する事。

 ① 平たい角皿に脚(高台)を付ける事は、出来るだけ控えたいです。「ベタ」高台が安全です。

  平たい皿であっても、高台を付けると、上記の如く持ち易くなったり、浮遊感を与える等の

  効果をもたらします。それ故、出来るだけ脚を付けたい処ですが、本焼きで本体が「ヘタッテ」

  しまう危険性が存在します。即ち、本焼き程の高温になると、素地本体もやや軟らかくなり

  脚だけでは、本体を支える事が出来なくなる場合が多いです。特に4点の脚で支えると、皿の

  中央が落ち込み、「V」字型になる場合があります。この「V」を無くす様に、脚を皿の中心

  よりに移動すると、皿の周辺が落ち込んできます。即ち、丁度良い位置を見出す事は非常に困難

  です。これを防ぐ為に、落ち込みそうな場所に皿の下から支える必要があります。支える為に

  道具土などを使用したり、特別な用具を使う事もありますが、二枚貝の貝殻を使う事もあります

 ② 轆轤挽きした大皿の場合も、輪高台を付けると、皿の中央や皿の周辺が落ち込む事があります

  一般に高台の径は、皿の直径の1/2~1/3と言われています。但し大皿(30~60cm程度)では

  この数値は必ずしも、当てはまりません。場合によっては、内外の二重の輪高台を付ける必要が

  出てくる事も稀ではありません。

  
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質問 23 水漏れに付いて。

2016-04-01 17:02:43 | 質問、問い合わせ、相談事
勝田様より以下の質問をお受けしましたので、お答えいたします。

◎ 「水漏れ 」に付いて。

教えてください。磁器土で花器を作ったところ、底の部分から水がにじんできてしまいます。

水が漏れているようです。釉薬をかけずに1260度で焼きました。

よくギャラリーとかで、無釉の白い器等あるのですが、なぜ釉薬をかけなくてももれないのですか?

あと一つ質問があります。

窯から作品を出したときは、ひびは入っていないのですが、何時間かして見ると、割れていたりする

ことがあるのですが、何が原因なのですか?


◎ 明窓窯より

 磁器土であっても、陶土であっても、花瓶など長期に水を貯めておく容器では、多少にかかわらず

 水漏れを起こし易いです。水漏れを起こす理由は以下の事が考えられます。

1) 磁器土や陶土が、十分に焼き締まっていない為です。

  十分焼き締まるには、焼き締まる温度まで上昇させる事と、焼く時間を十分長くする事です。

  勝田様の場合、磁器土を1260℃で焼成の事ですが、焼き締まるには少々低い温度と思われます。

  一般には1280~1300℃程度で焼成します。又焼成時間が記されていませんが出来るだけ長くする

  事です。

2) 磁器土でも陶土であっても、釉を掛けて焼くのが一般的です。

  一見無釉の如く見える場合でも、透明釉が掛かっている事が多いです。又どうしても無釉に

  したい場合でも、見えない内部や高台内に施釉する事を薦めます。

3) 水漏れ防止剤を使う。

  現在のままでも、水漏れ防止剤を使う事で、水漏れを防ぐ事ができます。

  陶芸材料店で各種の水漏れ防止剤が市販され、容易に入手可能です。無臭の食器用の物で十分

  です。但し、器全体に使用すると、水を弾いてしまい、表面からの水の吸収が無く、風情に

  欠けてしまいますので、器の内部のみ、又は外側底面に使う事をお勧めします。

4) 窯から作品を出したときは、ひびは入っていないのですが、何時間かして見ると、割れていた

  りする件。

 ① 一般に釉を掛けた場合、釉にひび(貫入)が入る事があります。磁器の場合貫入が入る事は

  望ましくありません。釉と素地の収縮率に差がある為に起こる現象ですので、釉の改良が必要

  です。

 ② 無釉の素地に、後日「ひび」が入る場合。

  原因は素地に何らかのストレス(歪み)が溜まっていたものが、時間と共に開放されて「ひび」

  が入るものと思われます。ストレスの原因は色々ありますが、以下の事が考えらえます。

  ) 制作時間のストレス。制作方法(鋳込み、電動轆轤、手捻りなど)によってストレスの

    掛かり方が異なります。素地の調合(調整)、素地の練り斑(むら)等も関係します。

    又、磁器の場合、削り加工によって肉薄にする事が多いです。

    その際、片削り等で、肉厚に差が出ると、弱い処と強い処が発生しこれがストレスとなる

    場合があります。更に、作品が大きく成るに従い、各部分に掛かるストレスは一様では

    有りません。特に、左右均等でない場合にストレスが溜まり易いです。

  ) 無釉での焼成ですと、素焼きをする必要はありません。但し、本焼きで素焼きの工程を

    経る必要があります。即ち、水分の除去や550℃付近での素地の膨張時などでは、時間を掛け

    なければなりません。本焼きの調子で焼成すると、ストレスが溜まる原因になります。

  ) 冷却スピードが速い場合のストレス。

    窯の大きさや窯の壁の厚み、更に作品の多さによって窯の冷えるスピードは異なります。

    「ゆっくり」冷やす事でストレスを少なくする事ができます。小さい窯の場合徐冷する必要

    があるかも知れません。

  ) 「窯出し」が速すぎる場合。上記と関連する事ですが、速めに窯を開けると冷たい外気に

    触れ、器の表面と内部に温度差が生じ易くなります。これもストレスと成ります。

    出来るだけ冷やす時間を取って下さい。出来れば100℃以下に成ってから窯の扉を開ける事

    です。

  その他、ストレス原因は多種多様です。その為、勝田様の原因が何処にあるのか、当方で判断

  する事ができません。心当たりがあれば、出来るだけその原因を除去する事です。

以上参考に成れば有り難いです。

尚、更に質問が有ればお問い合わせ下さい。

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