2) 素焼き時、及び本焼き時の粘土の質的変化について。
① 結晶水の喪失。
陶磁器の原料に使われている全ての粘土類は、窯で加熱して行くと、ある温度で結晶水を失い
ます。結晶水を失う温度は、粘土類を構成している種類によって違いがあります。
) カオリナイトは、450~500℃程度で結晶水を失い、カオリンになります。
この温度範囲の違いは粒子の細かさ、昇温スピード、及び密度(締め具合)によって左右
されます。即ち、粒子が細かく、昇温スピードが遅い程、低い温度で結晶水は失われます。
) 原料の種類によって結晶水の失われる温度が違います。
絹雲母や葉蝋石(Al2O3・4SiO2・H2O)は500~600℃で結晶水が放出されます。
石英は573℃、白雲母は700~800℃で無水雲母に成ります。
) 結晶水が失われる温度近辺では、窯の温度の上が鈍いです。
水を蒸発するには大量の熱が必要に成ります。即ち、熱が粘土類に吸収される、吸熱反応
になりますので、温度上昇は鈍ります。
) 結晶水が失われると、体積が収縮又は若干膨張します。
a) カオリンは収縮し、絹雲母や葉蝋石は膨張します。
b) この収縮又は膨張する範囲内では、作品の内外からストレス(歪)が起こります。
この状態で無理に温度上昇すると、作品に「ひびや切れ」が発生します。
c) 結晶水が失われれば、一応膨張は収まりますが、更に温度上昇を続けると、収縮が
起こる様になります。(詳細は後日お話します。)
) 結晶水が失われ、更に温度を上げて行くと、機械的強度が増します。
カオリンの場合、約 600℃で色も白色又は黄味を呈します。
この状態では、粒子の熔融は起こらず、水を吸収する多孔質になっています。
) 原料の種類を見分ける方法(熱分析)。
加熱する事で、熱の吸収と発熱の温度状態を測定し、特有な温度曲線から種類を見分ける
方法ですが、専門家以外はこの様な測定はしないのが普通です。
② 素焼き時の注意点。
素焼きの失敗は、今まで述べて来た様に、水蒸気爆発の他に幾つか有ります。
) 窯詰め方法。
a) 素焼きは本焼きと異なり、重ね焼きが可能な焼成方法です。その為、本焼きの二倍程の
作品を窯詰めする事が可能に成ります。但し重ねる段数が2~4段位が妥当でしょう。
重ねてから窯詰めではなく、窯の中で重ねる事で、重みによる割れを防ぎます。
又、隣同士で接触しても問題は無いですが、窯詰めや窯出しの際、指が入る程度開けて
置くと、作業がし易いです。
b) 入れ子の状態で重ねる場合、口縁同士が接触しない様にします。
但し、甕(かめ)などの口の広い作品は、同じ大きさであれば、一方を逆さにして口同士を
接触させ、積み上げる事もあります。
c) 轆轤挽きした大皿や、タタラ作りの板皿など寸法の大きい作品は、壷などに立て掛けて
窯詰めした方が、割れの発生を抑え為、若干望ましい様に思われます。
(但し、人によっては、効果が無いと見る人もいます。)
) 素焼きの焼成方法。
a) 素焼きは、水蒸気を多量に発生させます。それ故、窯の扉や覗き穴などを完全に
締めず、水蒸気を逃がす必要があります。
一般に、結晶水が抜ける500℃程度まで開けておけば十分です。
b) 温度の上昇は出来るだけ遅くします。
但し、200~330℃程度の範囲内の場合で、それ以外はある程度スピードアップが
可能です。
c) 焼成時間は窯の種類、窯の大きさ、作品の大きさと量、作品の乾燥度合いにより異なり
ます。700~800℃まで、早くて3時間(2時間で焼成できる窯もあるそうです。)~8時間
が妥当な所です。乾燥さえ十分に行えば、意外と短い時間で終わらせる事もでき
ます。たまには、何時もより短い焼成時間で試すのも悪くはありません。
d) ガスや灯油などの燃料を使う窯では、重ねた部分に燃え残りの黒い炭(煤、炭素)が
残り易いです。この炭は本焼きすれば綺麗になくなります。但し下絵付けを施そうと
すると邪魔な存在です。少なくとも絵付けしようとする部分の上には、作品を重ねない様に
します。
e) 素焼きはどうしても、窯の温度分布が一定しません。又一定にする必要もありません。
窯の温度を一定に保持する為には、「寝らし」の時間を長くとる必要がありますが、
700~800℃と温度範囲が広いですので、燃料の節約の為にも、窯の中の最低温度が
700℃を超えたと思われる温度で素焼きを終わらせる事です。
勿論、予め窯の温度分布の癖を、知る必要があります。
以下次回に続きます。