わ! かった陶芸 (明窓窯)

 作陶や技術的方法、疑問、質問など陶芸全般 
 特に電動轆轤技法、各種装飾方法、釉薬などについてお話します。

素朴な疑問 199 素地(粘土)に異物を入れる行為とは2?

2015-11-30 16:37:58 | 素朴な疑問
2) 素地に入れる異物の種類。

 ① 顔料を入れる。(色土を作る):(以上までが前回の話です。)

 ② 海砂を入れる。

  ) 海砂には、塩分が含まれる為、山砂とは若干異なります。素地に大量の塩分を含ませると

   悪い影響を与えます。それ故、なるべく塩抜きをして使います。

  ) 釉としては、食塩を使った塩釉があります。焼成時に有毒な塩素を発生しますので、

   注意が必要です。尚、釉に添加しても、海砂はほとんど熔けず、粒子と成って残ります。

  ) 川や山砂に対し、容易に入手使用が可能と思われます。砂は岩石が砕けて細かくなった

   物に酸化鉄などの微粉な金属粒子(黒浜=砂鉄と言います)の他、腐食した有機物が含まれる

   場合もあります。その為、川や山砂が地域によって荒さ等に若干の差が出易いですが、海砂の

   場合、地域によって若干異なりますが、比較的安定しています。

  ) 砂は本焼き程度の温度では、熔ける事は少ない(ほとんど無い)です。又、色も黒ずみ、

   焼いても色の変化はほとんどありません。海砂を使う場合、貝殻の粉末も含まれる場合があり

   粒子の細かさもバラバラですので、粒子の大きさを揃える為、篩(ふるい)に掛ける事も

   あります。

  ) 素地に練り込む場合と、表面に摺り込む方法があります。摺り込む際には、少々多めに

   しないと、砂が剥がれ落ちます。練り込みの場合は、やや少な目にした方が、見栄えが良い

   です。素地に斑点状の黒い「シミ」が現れます。釉は透明系の物を使うと良いでしょう。

   尚、無釉の場合、摺りこんだ砂の粒子がボロボロ落ちる場合もあります。

 ③ 貝殻の微粉末を入れる。

  ) 本焼きする際、くっつき防止と、作品の変形(下に垂れる)を防ぐ為、作品の下に貝を

   置く事も多いです。この場合、貝の種類は問いません。

  ) 桜貝の貝殻の様に、表面の模様を作品に残し、鑑賞する場合もあります。

   縄文土器などには、貝を嵌め込んだ作品もあります。土器程度の温度では、ほとんど火の影響

   を受けませんので、そのまま現れます。

  ) 素地と貝の接触部分には、塩分のせいと思われる緋色又は、赤茶の焦げ目の様な色が

   付きます。桜貝では、殻の文様が緋色掛かっている場合が多いです。

  ) 本焼き終了後でも、貝の形は残りますが、手などで簡単に砕けてしまいます。

   水を加え乳鉢で摺る事で、更に細かくする事が出来ます。貝は石灰石と同じ炭酸カルシウムが

   主成分ですので、釉としても使えます。特に日本画の白い顔料である胡粉(ごふん)は、

   ホタテ貝などを焼いて作ります。

  ) 素地に添加した場合、素地を若干白くする作用はありますが、目に見えた効果は得られ

   ないと思われます。

 ④ 骨灰を入れる。

  骨灰の主成分は燐酸カルシウムです。主に釉や素地に混ぜて用いられます。

  これを利用した焼き物に、ボーンチャイナがあります。

  ) 落ち着いた卵殻色の色になります。骨灰は牛骨(特に牝牛の背骨)を焼いて炭化させた

   物が良いと言われています。

  ) 現在では、安定性のある合成牛骨(第二燐酸カルシウムと石灰石との化合物)が使われ

   市販されています。

 ⑤ 火山灰や溶岩を入れる。

   火山灰と溶岩は、高温でガラス質になりますので、それ自体は釉と見なす事ができます。

   但し、素地に入れた場合、いずれも黒や灰色掛かった汚れた感じと成りますので、余りお勧め

   出来ません。興味のある方は、試して下さい。但し少量に留めます。

   火山によって流動性のある溶岩や、流れ難い溶岩があります。即ち何処の火山の溶岩かに

   よって違いがありますので、当然テスト焼きしてから使う事です。

 ⑥ 釉を入れる。

  ) 釉も素地も構成成分は同じ様物質から出来ています。違いは熔ける温度の違いです。

   一般に釉は、素地より100℃ほど低いと言われています。

  ) 素地に釉を入れると、素地の融点は下がります。更に釉の色も素地に反映しますので、

   素地に色が付く事に成ります。

  ) 練り込みの要領で、釉を練り込むと、境界部分が「ぼけ」はっきりせず、ぼやけた様な

   感じになります。但し、釉を入れ過ぎると、素地本体が弱くなりますので、入れ過ぎない

   事です。

 ⑦ コーヒーの出からしを入れる。

以下次回に続きます。
    
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素朴な疑問 198 素地(粘土)に異物を入れる行為とは1?

2015-11-28 17:13:06 | 素朴な疑問
焼き物に使う素地(特に粘土)は、基本的には、掘り出した天然の土を、細かく砕き、篩(ふるい)

で粒子の細かさを揃えたり、水簸(すいひ)等で、不純物を除去する精製を施し、そのままの状態で

使いました。なるべく異物の混入が無い様にします。

現在では、各地の粘土を手に入れる事が比較的容易に成りましたので、色や性質、風合いの異なる

粘土同士をブレンドし、その人独自の素地を作り出している方も多いです。

この場合は、粘土同士ですので、必ずしも異物を入れた事には成りません。

異物の入った粘土と言えば、木節粘土が代表的です。樹木や葉などの有機物や腐食物を含んだ可塑

性が大きい粘土で、亜炭層等にはさまれ、層状に産出する粘土です。木の節の様に見える事から

名前が付いています。普通黒褐色ですが、中には白い白木節も存在します。

又、蛙目(がいろめ)粘土は、粗い粒子の石英を含むカオリン質の粘土で、石英が蛙の目玉の様に

見える事から、名が付いたと言われています。基本的には異物が無い方が、作業はし易いです。

1) 素地(坏土=はいど)に異物を混入させる方法は、縄文土器にも見られる行為です。

  目的は、素地の収縮を少なくし、「割れやひび」の発生を抑える為で、実用に迫られて行われて

  いました。

 ① 素地に山砂や川砂を混入させる。縄文土器では20~30%程度の砂が入れられています。

  粘土の産出する付近で、見付ける事が出来たはずです。

  現在のシャモット(焼粉)の働きと同じです。砂を入れる事で、乾燥時や焼成時の収縮率を

  少なくする事が出来、乾燥や焼成時の「ひびや割れ」を防ぎます。

 ② 素地に植物繊維を混ぜ込む。素地にはその土特有の縮み率が存在します。しかし、大きな

  作品程、縮む量は多くなり、大きく縮みます。特に制作直後が一番縮み(乾燥縮み)、次第に

  少なくなりますが、焼成完了で縮みは終わりにます(焼成縮み)。植物の茎や葉などの繊維質を

  適度の大きさに切断し、粘土に混入させています。今ではほとんど見る事も無くなりましたが、

  以前荒壁の土に藁(わら)を切断した物が混ぜられていました。これも「ひびや割れ」を防ぐ

  方法です。焼き物では、焼成してしまいますので、有機物は燃焼し無くなってしまいますから、

  害を与える事は少ないです。但し、土器程度の温度では、燃え尽きた部分が空洞になり、逆に

  強度が落ちるこの恐れがあります。

 ③ 現在陶芸で異物を入れる行為には、「はぜ石」と呼ばれる長石粒を入れる事があります。

  これは、古信楽土と同じ効果をもたらす為に行います。即ち、荒々しく力強く、見た目やゴツゴツ

  した肌触りを演出する方法です。「はぜ石」は陶芸材料店で、容易に入手できます。

2) 素地に入れる異物の種類。

 ① 顔料を入れる。(色土を作る)

  ) 粘土自体を着色する場合、顔料を入れる事が多いです。顔料の素材は主に酸化金属で、

   鉄、銅、マンガン、チタン、コバルト、クロム等ですが、その種類によって添加量が異なります

   数%~10%程度の場合が多いです。濃い色にしたい場合には、多目に入れます。

   尚、多く入れ過ぎると、「ボソボソ」して可塑性が悪くなります。又、素焼き程度の温度では

   発色せず、1200℃以上でないと、綺麗な色が出ない金属もあります。当然ですが、色白の

   素地の方が綺麗な色が出ます。

  ) 市販の練り込み用の顔料を使う。

   ご自分で酸化金属を調合するのではなく、市販品の顔料を使うのが一般的です。色数も豊富に

   存在します。二色の色を混ぜ合わせ、ある程度、好みの色に調節できる利点があります。

   100g程度の小袋から、購入できます。尚、この顔料は、化粧土の中にも入れる事ができます。

 ② 海砂を入れる。

以下次回に続きます。

 
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質問 18 棚板の補修の方法に付いて。

2015-11-26 13:56:51 | 質問、問い合わせ、相談事
小川様より、以下の質問を頂戴しました。

私は六年ほど陶芸をしておりまして、普段は活動する場所が異なる陶芸仲間が数人いるのですが、

彼らと通っている教室などの棚板の補修方法の仕方が話題になったので、質問させていただきます。

1) 私の所属している団体では、棚板には薄くアルミナコーティング液を塗って使用しております

  釉薬が垂れた際にはタガネなどで剥がし、また薄くコーティング液を塗っています。そのため、

  棚板に多少の凸凹がある時も多いです。

2) 仲間の所属している教室では、アルミナコーティング液をある程度塗り重ね、電動ヤスリ等で

  綺麗に均して使用しているそうです。

3) また別の仲間の所属している団体では、殆どの棚板にアルミナを塗らず、一回の焼成で数枚

   だけ、垂れる可能性のある釉薬を使用した作品を、アルミナを薄くコーティングした棚板に

   乗せて使用しているそうです。

これらの方法には、どのようなメリットとデメリットがあるのでしょうか。

また、明窓窯様はどの方法が一番良いとお考えになるでしょうか。お聞かせいただければ幸いです。


◎ 明窓窯より

本焼きの際、釉の垂れや流れ、釉剥げ等の原因で、釉が棚板上に「こびり付く」事は珍しい事では

ありません。各々ご自分の方法で処理しているはずで、どれが良くどれが悪いという事もありません

当方の窯では、基本的には、上記1)の方法を採り、更に2)の方法も併用しています。

但し、作品と棚板が「くっついた」際には、直接鏨(たがね)で剥がすのでは無く、棚板の後ろから

木槌等で叩き剥がします。当然作品側にコーティング剤が残り、棚板上には剥がれた跡が残ります。

質問の趣旨は、この跡の処理の仕方を問うものと思われます。

① アルミナコーティングを塗布する目的は、二通りあります。一つは剥がれた跡を補修する事で、

  もう一つは、棚板自体を保護し、長持ちさせる事です。

② 粉末のコーティング剤を、水と少量のCMC(化学糊)を添加して溶き、刷毛塗りするのが普通

  です。濃すぎると盛り上がった状態になり、薄過ぎると「くっついた」場合、棚板から剥がし

  難くなります。薄いとは棚板の色が透けて見える状態です。

  尚参考までに、アルミナコーティングは、(水酸化)アルミナ等と、粘土の混合物との事です。

③ 補修の仕方は以下の通りです。

 ) 棚板が釉で汚れる場合と、コーティングが剥がれる場合があります。

   前者は、釉のみが棚板上に残る場合で、釉の剥がれや釉がなんらかの理由で飛び跳ねた時に

   起こります。後者は、作品と共に剥がされた状態です。

 ) 棚板が釉で汚れる場合には、鏨(たがね)等を用いて、剥ぎ取ります。小さな点状の場合

  (直径1cm以内)には、表面の汚れのみを取り除く事が出来ますが、やや広い範囲に

  「こびり付く」場合には、コーティング剤から取り除く事になります。

   多くの場合は、コーティング剤は棚板に残りますので、補修も容易です。薄くコーティング剤

   を剥がした跡に塗るだけでOKです。

 ) 作品と一緒に剥がれた跡は、完全に剥がれている事が多いですので、やや濃い目のコー

   ティング剤を塗る事になります。薄いと、周囲との高低さが出て表面が凸凹になります。

   更に、鏝(こて)や箆(へら)を使って平らに均します。但し、乾燥と共に凹みますので、

   再度、上から塗る必要が出る場合があります。それ故、やや厚めに塗り、どうしても高低差が

   出た場合には、「ダイヤモンドやすり」やグラインダー(電動やすり)を使って平坦にします。

   尚、この作業をする時は、防塵メガネやマスクを着用します。

④ 棚板保護の為に、コーティング剤を塗る。

 ) 高温と、酸化、還元の炎の中に長時間晒される棚板は、目には見えませんが、長い年月に

   は、劣化が進んでいます。劣化は棚板の表面の凸凹(特に補修を繰り返した場合)や、「ひび

   割」等と成って現れます。その為、定期的に棚板全体に、コーティング剤を塗る必要があり

   ます。但し、薄くして塗ります。上記3)の方法である殆どコーティングを塗らない事は、

   棚板の保護の観点からは、感心できません。

   更に、2)の場合、棚板の枚数が多い時は、毎回塗るのは、手間が掛過ぎですので適度の間隔

   を開けて行う様にすると、良いでしょう。

 ) 塗る範囲は棚板全体に成ります。即ち、表裏と側面です。

   尚、棚板は濡れていますので、焼成する数日前に終わらせ、乾燥させる事です。

   更に、塗った直後の本焼きでは、十分棚板本体に固着していませんので、作品本体と「くっ付

   く」事が多いですので、確実に作品の底にアルミナを塗っておく必要があります。同様な

   理由で、棚板の支柱がくっ付く事もあります。特に棚板の裏側にくっ付いた支柱が、窯出しの

   際に落下し、作品を壊す事もありますので、棚板を取り除く時は、注意が必要です。

⑤ 棚板は両面が使えます。

  一般に市販されている棚板は、表面に厚くコーティング剤が塗られ、裏面は薄く塗られています

  その為、もっぱら表面のみを使う事になります。表面が凸凹過ぎて使い難い場合には、裏面を

  使う事が出来ます。その際、コーティング剤をやや厚めに塗ります。

⑥ 注意事項。

  棚板は自然と「ひび割れ」を起こす事があります。その際、コーティング剤が接着効果の役目を

  果たす事もありますが、限定的です。棚板の「ひび割れ」の長さが1/3程度の場合は安全に使用

  出来ると言われています。それ以上の場合には、割れ目の下に支柱を立てて、完全に割れるのを

  防ぎながら使用します。

⑦  基本的には、棚板を汚さない様にして使う事です。

  その為、3)の流れ易い釉を掛けた作品を集めて焼く方法も、それなりに理のかなった方法と

  いえます。又、流れ易い釉を掛けた作品の下に煎餅(せんべい)を置く事も悪くはありません。

  耐火度のある道具土を使い、更に、表面にコーティング剤を塗って使います。

  尚、当然ですが、釉の種類によって流れる状態も異なりますので、流れ易い釉では、棚板に

  接する部分や、高台脇付近の施釉はできるだけ避け、釉は塗らない(又は剥がしておく)事です。

以上参考にして頂ければ幸いです。 
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素朴な疑問 197 歪みと変形の美とは4?

2015-11-23 21:25:17 | 素朴な疑問
4) 歪や変形の美とは?

  本来ならば、作品が歪んでいる事は、不良品であり傷物と見なされてもおかしくありません。

  但し、陶芸の作品では、別の意味を持ちます。陶器だけには言える様ですが、磁器については

  歪みの美を見出す事は少ないです。又、ある意味作品の歪みは、我が国のみで評価される物で

  あり、西洋や中国、朝鮮などでは、必ずしも評価の対象に成らない様に見えます。

 ① 歪んだ作品を見ると、どの様に感じるのか?

   歪ませる事で機能的要素を持たせる場合と、機能的要素を伴わない歪みがあります。

  ) 機能的とは、作品を持ち易くしたり、取り扱いし易くしたりする事です。

    作品が握り易くする為や、滑り止め等の機能を持たせたり、容積を少なくする為に歪ませる

    事などがこれに当たります。即ち、実用的に歪ませる訳です。

  ) 機能的な効果ではなく、別の(美的)効果を持たせる為に、歪ませる事も多いです。

    特に抹茶々碗の例はこれに当たります。その歪ませる効果とは、以下の事が挙げられます。

   a) 作品に動きが出る。

    左右対称の姿では、静止した(止まった)感じがします。動きがあ事は、見る人の意識を

    集中し、注意を引き、何かが起こりそうな予感を与える事にもなります。又、動きがある

    事は、作品の軽さも演出します。実際の重さよりも軽く見せる効果もあります。更に、

    不安定で「危うさ」を感じさせる事にもなります。作品を鑑賞する祭、不安定性も意味の

    あるものになります。例えば、上部の量に対し、下部が極端に狭い場合や、細い時更には

    細長い時など、かなりの「危うさ(際どさ)」を感じ、激しい心の動きを伴います。

   b) 作品に面白みや趣(おもむき)を与える。

    轆轤挽きした作品は綺麗な円形になります。常に同じ形状の作品では、変化が少ないです。

    特に織部の沓茶碗などは、極端に捻じ曲げられ異様な形に見えますが、この「ひょろけた」

    感じが出て、面白みを与える事が特徴になっています。

    又、抹茶々碗の口縁の高さを凸凹にするのも、趣を増す行為です。五峰、五山、山(の)道

    などと称されるもので、山々や山道を連想させる働きがあります。これを見立てと言います。

  c) 作品を歪ませるのみで無く、高台も歪んだ形にする場合があります。割り高台、三日月高台

    など、作品を手に持った場合や、見た目にも一般的なの輪高台とは別の趣を与えます。

5) 窯の中でも、作品は歪みます。

  一般に制作時に故意又は、偶然に歪む事が多いのですが、高い温度で焼成中に作品が歪む事も

  多いです。原因は、高い温度(1200℃以上)では、素地の粘土がやや軟らかくなる為です。

  赤土など鉄分を多く含む土は、比較的低い温度で軟らかくなりますが、白っぽい土は高温にも

  耐えますが、作品の形状によっては、影響を受けます。

 ① 板皿など平たい作品では、歪む事が多いです。特に高台を付ける祭には注意が必要でう。

   即ち、作品の一部を「宙ぶらりん」の状態にした時には、多くの場合下に垂れ下がります。

 ② コーヒーカップの様に、持ち手(把手)を付ける場合や、作品の片側に錘を「ぶら下がる」

   状態の形状では、その錘の方向に作品が引っ張られ、口縁が楕円形になる場合も珍しくは

   有りません。取り付ける位置が、口縁に近いほど歪みも大きくなります。

 ③ 焼成する事で、轆轤挽きで付けた癖が戻り、変形する事もあります。

  即ち、轆轤挽きでは素地は、「らせん状」に捩れながら上に伸びていきます。その為、焼成で

  その捩れが戻る方向に、変化(変形)する訳です。

 ④ 焼成中に作品が歪むと、隣の作品に「くっ付いて」しまいます。特に施釉した作品では致命傷

  に成る場合がありまうので、その危険性がある場合には、隣との隙間を大きく取る事です。

最後に、歪ませ様と無理に歪ませる事は、多くの場合見苦しくなる場合が多いです。

例え人為的に歪ませるとしても、あくまでも、自然に歪んだ様に見せ掛ける事が大切になります。

以上で「歪みと変形の美とは?」の話を終わります。
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素朴な疑問 196 歪みと変形の美とは3?

2015-11-21 15:15:29 | 素朴な疑問
3) どの様にして、変形や歪み(ひづみ)を与えるのか?

 ① 変形の仕方。

 ② 歪みの付け方。(以上が前回までの話です。)

 ③ 電動轆轤ではない、昔の手回し轆轤の方が、歪みのある作品ができ易い?

  現在轆轤と言えば、電動轆轤を想定しますが、電動轆轤が出現してから、数十年しか経って

  いません。それ以前は、作り手が自分の手や足を使い、轆轤を回転させながら、作品を作って

  いました。

  ) 現在の轆轤は、軸受けにボールベアリングを使い、「ガタ」が無く、回転も滑らかである

    為、返って作品が綺麗過ぎる程、綺麗に成り易く趣が無いと感じる人さえいます。

   a) 電動以前では、重たい木製の轆轤で、手回し轆轤と蹴(り)轆轤があります。

    蹴轆轤は現在でも使用されていますが、手回し轆轤はほとんど見掛ける事が無くなりました。

   b) 手回し轆轤は、木製の天板の縁に開けられた複数の穴に、回し棒を差し込み回転させる

    構造で、腕が回転し易い様に、右回転(時計回転方向)に回しているのが、一般的です。

    その流れを汲んで、わが国では電動轆轤でも右回転で使用する人が多いです。

   c) 当然、当時の轆轤の中心の回転棒と軸受けは、現在の様にベアリングは使われず、木製

    又は金属製が使われ、滑りを良くする為、油を差していました。一方轆轤が直ぐに止まら

    ない様に(慣性を大きくする為)、天板も厚くて重く作られていました。回転も力仕事で

    あった為、もっぱら男性の仕事と成っていました。

   d) 軸受けと軸は磨耗して「ガタ」が生じる事になります。

     幾ら精巧に作られた堅い木製の轆轤であっても、使い続けると磨耗が進みます。その為、

     作品も自然と歪みが発生し易くなります。更に、手や足で回転させる為、回転速度は最初

     が速く次第に遅くなります。現代の電動轆轤に対し、「速度の回転むら」は、はるかに

     大きいです。その為、更に歪みの要素が増えます。

   e) 回し棒を使う回数を減らす事も重要になります。即ち少ない労力で作業を行いたいと思う

     のは人情です。その為には、素早く轆轤作業を終わらせる必要があります。いかに素早く

     轆轤挽きを完了させるかも、大事な修行の一つになります。

     又、回し棒を右手で持つ為、右手は直ぐには使えません。棒を置いてから使う事になり

     作品の大きさによっては、左手一本で作る事もありました。いずれも、歪みの原因になる

     要素とも言えます。

  ) 切糸や「シッピキ」を用いて切る際にも歪みが発生します。

    この件に付いては、前回でも述べましたが、より詳しく説明したいと思います。

     注:「シッピキ」とは、片方に持ち手がある25cm程度の長さの紐状の物で、昔は馬の

      尻尾や藁(わら)を撚って使用されていましたが、現在では凧糸や水糸のものが多い

      様です。尚、両方に 持ち手のあるものは、切り糸と呼ばれています。

   a) 轆轤を回転させながら作品の底を切り離します。

    一塊の土から次々に作品を作る数挽きの方法では、下の土から切り離す為、糸や「シッピキ」

    と呼ばれる用具を使います。その際轆轤を止めた状態で切る場合と、回転させながら切る

    方法があります。回転して切る場合には、「シッピキ」を使います。

   b) 切り離す位置を、竹べらや親指の爪を用いて固定し、「シッピキ」を当てます。

    轆轤の回転と共に巻き付きますので、一回転半したら水平に引き抜き、切り取ります。

    その際、手前に当てる方法と、向こう側に当てる方法があります。前者であれば右手で引き

    抜き後者であれば、左手で引き抜く事になります。素早く引き抜かないと、「シッピキ」の

    上に何時までも作品が乗った状態ですので、作品が「ドベ受け」に転げ落ち、作品が傷だら

    けに成ってしまいますので、素早く引き抜く事です。尚、切る際、一般いは「シッピキ」を

    水で濡らしますが、場合によっては、水を付けない方法もあります。

   c) 「シッピキ」で切った切り口は、綺麗な渦巻状に成っています。

    切りっ放しの底の場合(ベタ高台)には、この渦巻き文様も一つの見所となります。

    尚、回転方向を逆にすれば渦の巻き方も逆になります。

   d) 「シッピキ」で切ると、計算外(予想外)の力が作品に加わり、左右対称の形が壊れます。

    即ち、「シッピキ」は作品の中心に向かって巻かれますので、作品の底や口縁など全体に

    中心に向かう力(向心力)が働きます。更に横方向に引き抜く際、抗力が働き作品の形を

    変形する力と成って現れ、これが作品の動きとなります。その動きも、回転の早さ、手の

    動かし方(挽く抜く動作)によって、変形の仕方も変わると言われています。

    これも作品に個性の出る要素になります。

4) 歪や変形の美とは?

以下次回に続きます。
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素朴な疑問 195 歪みと変形の美とは2?

2015-11-19 22:14:42 | 素朴な疑問
3) どの様にして、変形や歪み(ひづみ)を与えるのか?

 ① 変形の仕方。(以上が前回までの話です。)

 ② 歪みの付け方。

  歪みが特に重要になるのが、抹茶々碗です。名器と謳われた茶碗は、多くの場合歪んでいる事が

  多いです。特に沓茶碗(くつちゃわん)と呼ばれる、織部の茶碗は極端に歪んだ形が特徴です。

  作品が歪む原因や、歪ませたりするには幾つかの方法があります。

  ) 意図せずに歪む場合。

   a) 轆轤に慣れた方ならば、歪まずに作品を作る事も可能ですが、不慣れな方の場合、本人の

    気持ちとは裏腹に、歪んでしまう事も多いです。特に、回転スピードが早す過ぎたり、

    遅すぎた場合に発生し易いです。更に、直径が刻々と変わる皿類は、速度のコントロールが

    難しくなります。

    又、作品の一部が厚過ぎたり薄過ぎた場合、側面に撚れ(よれ)が発生し易いです。

    撚れた処より上部では、ほとんど確実に歪みが発生します。

   b) 轆轤作業が長引き、土が水分を吸い過ぎ、土が「へたり」腰が無い状態になると、自然に

    下方に倒れ掛り、歪む事になります。特に皿類に多い現象です。

   c) 背の高い作品は、上部が揺れて「すりこぎ運動」を起こし易いです。

    背が高くなると下部の小さな歪みも、上部では拡大します。狂いを上部のみで修正しようと

    しても直せません。狂うている下部から修正しなければなりません。又、土から手(指)

    を離す際、急いで行うと確実に振れが発生します。

   d) 挽き終わった作品を、轆轤上より取り上げる際、両手を上に向け「じゃんけんのチョキ」

    で、高台脇を挟み手前に倒す様にして、取り上げます。多くの場合、素地は軟らかい為、

    そのまま手板に採っても、作品が歪む事があります。更に糸が口縁と平行に切れていないと

    作品は傾き歪みます。勿論、亀板を用いたり、作品を轆轤上で乾燥した後で取り上げれば

    問題が有りません。尚、この場合の修正は、腰で直す事で口縁を直接直す事はタブーです。

  ) 意図(意識)して歪ませる場合。

   a) 轆轤挽き終了の作品に糸(シッピキ)を入れる際、轆轤を回転させながら切ると作品は

    引っ張られて歪みます。即ち、糸が一回転半した時、糸を水平に引き切ります。その際、

    糸が抜き出た方向に、作品全体(底)が引っ張られ、更に回転している為に、口縁が自然に

    歪みます。多くの作品はこの様にして歪みが発生した物です。それ故極自然な歪みと成って

    います。当然、回転速度や糸(シッピキ)の種類、引き切る速さ等によって、歪み方も

    変化します。勿論、回転させずに切り、歪ませない方法もあります。

   b) 轆轤目や箆(へら)目を入れて作品を歪ませる。

   ・ 轆轤目は、土を薄く上に伸ばす際、指の動きが速い場合に起こります。更に轆轤の回転が

    遅い程、轆轤目の間隔(ピッチ)が広がります。轆轤目は肉厚と肉薄い処が螺旋状に連なった

    形をしたものです。それ故、作品の乾燥と共に、捩れなどの歪みが生じ易いです。

   ・ 箆目は竹箆などを使い、作品の外側の側面に押し傷を付けるものです。

    当然押された部分は凹みます。多くの場合肉が薄いですので、内側にも跡がでます。

    箆をどの様に使うかによって、歪みや形が変化します。勿論、素地が軟らかい程、力が強い

    程、箆目の効果は大きく出ます。箆は縦、横、斜め方向に入れる事が多いです。作品の一部

    に入れたり、円周上に入れる等、人によってバラバラですが、効果的に使います。

   ・ 箆目を口縁の真下に入れる程、口縁の歪みは大きくなります。一部に箆目を入れた場合

     当然入れた部分の高さは低くなります。即ち、口縁の一部が低くなります。

  c) 掌(てのひら)や用具を使って作品を歪ませる。

    円形の作品の口縁を、立てる様にして中心に押し込むと、その部分は高くなります。

    当然、立てる範囲をどの位にすれば良いかによって、口縁の歪み方も変化します。

 ③ 電動轆轤ではない、昔の手回し轆轤の方が、歪みのある作品ができ易い?

以下次回に続きます。
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素朴な疑問 194 歪みと変形の美とは1?

2015-11-17 17:17:18 | 素朴な疑問
陶芸の作品の制作方法には、大きく分けて手捻りと轆轤(ろくろ)作りがあります。

手捻りでは、主に手や指を使い、補助的に手轆轤を使います。その為、綺麗な形には成り難く、

作品表面に指跡等が付き、非対称型の作品になり、歪み(ゆがみ)と成って現れるのが一般的です。

但しこの歪みが、返って作品の暖か味を表す物として、賞賛される事も珍しくもありません。

一方(電動)轆轤での制作では、なるべく歪みのない形にする様に、練習(修行)するのが一般的

です。轆轤の初心者であれば、作品は肉厚も一定せず、歪み易く真円にならなかったり、最上部

(口縁)の高さにも差が出る事も多いです。ある程度、轆轤に慣れれば、綺麗な形の作品を作れる

様になります。尚、初心者の作った作品も、適度に歪み賞賛される事もあります。

1) 陶芸の作品は、綺麗な形の物も大事ですが、少々歪んだ物が良いとも言われています。

 多くの市販品の焼き物は、完全な円形の物も多いです。その他、型物と呼ばれる、きっちりした

 形の物が多いです。それ故、綺麗な形であれば市販品で代用出来る事になり、手で轆轤を操作して

 綺麗な形にする必要も無いと思う方も多い様です。そこで、轆轤で作った作品でも、歪んだ形や

 変形した形が、持てはやされる事が多くなります。

2) 轆轤挽きした作品に歪みを付けたり、変形させる事は意外と難しいです。

 歪ませたり、変形させる事で必ずしも良くなる訳では有りません。場合によっては、歪みや変形を

 行わない方が良い場合も多いのが悩みです。

3) どの様にして、変形や歪みを与えるのか?

  変形と歪みでは、変形の方が容易に行う事ができます。勿論、歪ませる事自体は、さほど難しく

  はありませんが、どの様な方法でどの様に歪ませるかが、かなり難しくなります。

 ① 変形の仕方。

  ) 轆轤挽きした作品は円形ですので、これを規則的な三、四、五、六、八角形に変形する

   事は比較的容易に行う事ができます。即ち、作品の外側から、平らな板(1~2枚)を使い

   中心に向かって押し込む(押し倒す)様にします。押し込む事は土を圧縮させる方向ですので

   作品に「ヒビ」が入る恐れは少ないです。逆に外側に引っ張り出す方向ですと、肉厚も薄く

   なり勝ちで「ヒビ」が入り易いです。

  ) 作品のどの部分を変形させるかによって、変形の効果も異なります。

   一般に口縁周辺を変形させる事が多いのですが、高台脇のみを変形する事もあります。

   又、底から上部に掛けて全体に変形する事もあります。

   尚、綺麗な形の角鉢や角皿の場合、轆轤挽きの作品を変形させるのではなく、タタラ板による

   貼り合わせや、鋳込み成型で行う事が多いです。

  ) 良くある変形は、湯飲みや徳利などの胴体部分を、握り易くする為に、凹ます事です。

   持ち易さの他に、容量を調節する事も可能です。片手で胴体部を親指と他の指を向かい合わ

   せて握る事で、指と握った跡を付けます。但し、強めに握らないと、元の円形に戻り易く

   なり易くなりますので、強めに行う事です。

  ) 変形させるには、適した道具(用具)を使う事です。道具類はご自分で作る事が多いです

  ) 変形させるには、タイミングが重要です。

   轆轤挽き直後の作品は、表面に「ヌメリ」がありますので、手や板での変形が難しいです。

   表面がある程度乾燥させた後に行うと、作業がし易くなるのですが、乾燥具合によってその

   効果に差が出ます。

   a) 乾燥が甘いほど、変形した線や面、カーブは軟らかくなります。

   b) 乾燥が進むに従い、線や面、カーブが固い感じになります。

   c) 乾燥が進み過ぎると、作業も困難になります。更に変形部分に「ヒビ」が入り易くなり

    ます。

 ② 歪みの付け方。

以下次回に続きます。

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素朴な疑問 193 流れ易い釉の功罪とは3

2015-11-12 17:51:36 | 素朴な疑問
  流紋を活かした作品で人間国宝(重要無形文化財「彩釉磁器」の保持者)になった陶芸家に 

  三代目徳田八十吉(とくだやそきち、1933年~2009年)氏がいます。現在は四代目で女性ですが、

  同様の作品を作っています。

3) 流れ難い釉や、流れ易い釉を作るには?。

  流れ易い釉も流れ難い釉も使い(取り扱い)難いのが普通ですが、あえて流れ易くしたり、

  逆に流れ難い釉が欲しい場合があります。そのような時、どの様に対処したらよいのでしょうか。

  尚、焼成温度が高く成り過ぎれば釉は流れ易くなり、温度を下げれば流れ難くなりますので、

  ここでは、焼成温度を陶器では一般的な1230~1250℃の範囲内で行う事にします。

 ① 流れ易い釉

  流紋や斑紋など、釉の流動性を活かし文様になる釉で、海鼠(なまこ)釉や鈞窯(きんよう)

  釉や、その他に流動性を活かした結晶釉などが代表的な釉です。

  ) 流れ易い釉とは、ガラス質に成る成分と、融け易くする成分を多く配合した釉です。

   a) 焼くとガラス質に成る成分は、珪酸(シリカ=SiO2)、硼酸(ほうさん=B2O3)、

    リン酸(P2O5)などがあります。珪酸は珪石から調合する方法と、珪酸を多く含む天然の

    木灰類から取る方法があります。但し、後で述べる様に、珪酸は釉の流れを阻害します。

    即ち、粘度を増す働きがあります。一般には、硼酸(砂)を多くします。

    多くの流れる釉には、木灰類を使う事が多い様です。

   b) 釉を融け易する成分は、カリウム、ナトリウム、カルシュウム等のアルカリ類で種類も

    多いです。

  ) 炭酸リチュムを僅かに添加する事(1%程度)で、流れる釉を作る事も出来ると言われて

    います。添加する事で、光沢も増し、ピンホールも少なくする働きがあります。

    炭酸リチウム(Li2CO3): 融点が700℃の熔剤です。

 ② 釉を二度掛けして、より流れ易くする。

  単体で流れ易くする事よりも、二重掛けして流す方法が一般的です。即ち、上絵付けの要領で

  熔け難い釉で一度焼成した上に、熔け易い釉を施釉し一度目より低い温度で焼成する方法です。

 ③ 一度掛けの焼成では、融点の低い温度の釉の上に、一般の釉を二重掛けすると、下の釉の

   流れに載って、上の釉も流れる事になります。上の釉は流れ易い釉である必要はありません。

 ④ 流れ過ぎる釉を流れ難くする為には、粘着性を持つ原料を添加すれば良い訳です。

   粘度を大きくするには、珪酸(珪石)を増やす。アルミナ成分を増す。硼酸(砂)を含んで

   いる釉では、硼酸を減らす。などの方法があります。

4) 流れ過ぎる釉薬は、棚板まで流れ、作品を「だいなし」にしてしまう事です。

 ① 作品は棚板に固着し、作品を壊さなければ成らない場合も発生します。又棚板に釉が流れ落ち

  棚板を汚します。綺麗に取り除くのも容易ではありません。棚板上には、アルミナコーチングが

  塗られていますので、コーチングごと取り除く事にまります。剥がされたコーチンング部分に

  新たのコ-チングを塗る作業が必要になります。

 ② 施釉する範囲を限定する必要があります。即ち作品の下部に施釉しない部分を残す事です。

   但し、どの位流れるかは、窯の状態や釉の調合方法によって違いがでますので、予め予想を

   立てて置く必要があります。空けすぎても見栄えが良くありませんし、流れ過ぎると大変です。

  試行錯誤の上実施する事になります。

  以上にて、流れ易い釉の功罪の話を終わります。
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質問 17 桑田卓郎さんの作品に付いて。

2015-11-08 17:19:14 | 質問、問い合わせ、相談事
「まさ」様より以下の質問を頂戴しました。

 桑田卓郎さんの作品のような釉の剥がれ方はどうやってると思われますか?

 私の推測では釉薬がカリ長石を主成分としている可能性が高いと思います。そしてたっぷりと

 厚がけをする。化粧は蛙目粘土を添加してるのでしょうか?

 全くわかりません。

 宜しければご解答頂きたいです。


明窓窯より

小生勉強不足の為、桑田卓郎さんの名前を存じ上げていませんで、初めて知りました。

ネットで検索した所、ある程度の経歴や、作品を見る事ができました。要約すると次の如くです。

 注: 桑田卓郎(くわたたくろう)氏:1981年 広島県生まれ。岐阜県土岐市に工房を構えて制作中。

  経歴

  2001年:京都嵯峨芸術大学短期大学部を卒業。

  2002年:陶芸家の財満進氏に師事。

  2007年:多治見市陶磁器意匠研究所を修了。

  2006年:第6回益子陶芸展で濱田庄司賞を受賞。

  2015年:イサムノグチ制作の「天国」(東京赤坂の草月会館 1 階)でオブジェの作品展示。

  国内(金沢21世紀美術館)及び海外(ニューヨーク、ブリュッセル、ロンドン等)で、個展や

  グループ展を行なっています。

◎ 作品の特徴

  作品は、大胆にデフォルメされた形とポップな色彩が特徴です。

  長石釉(志野釉)の「梅華皮」(かいらぎ=釉のひび割れの一種)や、「石爆」(磁土に混ぜた

  石が、焼成によってはぜて表面に現れたもの)。大きく剥がれた釉の作品などがあります。 

  直接作品を拝見した訳では有りませんが、釉が大きく剥がれている作品が多い様に思われます。

 質問の意味も、この剥がれがどの様にして出来たかの原因を問うものと思われます。

 当方の考えを述べたいと思います。当然ですが、あくまでも推量ですので、真実とは異なる事が

 多いと思われますが、参考程度にして下さい。


 大きく釉剥げのある作品は、青や赤、黄色の地に、白やピンク、金色などの肉厚な釉が掛けられて

 います。下地には釉の剥げた跡もなく、上部の釉が大きく剥がれている作品です。一般の貫入と

 比べ格段に割れ目が幅広く、作品によっては、一部が剥げ落ちたり、蜜柑の皮をむいた様に、

 外側に反り返っている物も見受けられます。

1) 作品は施釉し本焼き後、再度別の釉(長石釉)を厚掛けした物と思われます。

 ① 釉が大きく「ひび割れ」たり、剥がれたりするのは、素地と釉の収縮率の差が大きい程、

  効果が増すからです。特別な場合を除き、素地と釉の収縮率に大きいな違いがある事は稀な事

  です。尚、特別な場合とは、備前焼の事です。備前の土は収縮率が20%とも言われ、釉の

  12~13%とは大きく異なり、釉が剥げ落ちる為、施釉が出来ないと言われています。

 ② 下地に成っている釉(赤、青、黄色など)を掛けて、一度高い温度で本焼きし下地の色を

  定着させます。当然、素地も収縮します。高い温度程大きく縮む事になります。

  次に前回以下の温度で焼成すれば、素地の収縮は0%ですので、上に掛けた釉の収縮がそのまま

   現れる事になり、一度の施釉と一度の本焼きよりも、釉は多く縮み割れ目も大きくなります。

2) 釉の厚みが極端に厚いのも特徴です。

 写真で見る限り1~3mm程度ある様に見えあます。(著作権の関係で写真は、表示できませんが)

 一般の釉の厚みは、ハガキ一枚分と言われていますので、極端な厚みですが、釉が流れている

 様子は見えません。既存の大きな貫入(割れ目)と言えば、鬼萩を思い出します。又蛇肌や、

 氷裂釉などもありますが、それ以上の割れ目に成っていますので、流れ難い釉(志野釉など)で

 ありながら、比較的低い温度で熔ける釉を厚く掛けていると思われます。更に白以外は着色されて

 いると思われます。ご指摘の「カリ長石」を多く含んでいるかは不明です。

 蛙目粘土を添加すれば、流動性を少なくし、釉を盛り上げ易くなりますが、熔け難くなります。

 それ故、蛙目粘土の使用状態も不明です。

3)二度目の施釉時に、何らかの細工が施されている可能性があります。

 一般に幾ら厚く施釉しても、上の釉のみが剥がれ落ちる事は少ないです。考えられる事は、釉が

 一部剥がれ易い様に、何らかの技法が取り入れられていると思われます。

 ご存知の様に、素焼きした作品に施釉する際、作品の表面の埃(ほこり)を取り除く為、「はたき」

 を掛けたり、水拭きしたり、場合によっては、水洗いをする事があります。その目的は、釉剥げを

 防止する事です。即ち埃は厳禁なのです。しかしこれを逆手にとって活用する事も可能です。

 一度本焼きした作品の表面に、埃に相当する物質を塗り付ける事です。但し、二度目の本焼で

 焼失してしまう有機物質でなければなりません。例えば「片栗粉」等が最有力になります。

 その他、身の回りに、これに類する物が見つかるはずです。これらを部分的に任意の場所に使用

 すれば、その部分のみに釉剥げを起こす事が可能に成ると思われます。勿論、何度かの試行錯誤の

 実験が必要であるのは当然です。


以上が私の見解です、参考に成れば幸いです。

尚、桑田卓郎さんの技術は未公開ですので、直ぐに真似が出来るとは思われません。別の秘密がある

のかも知れません。
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素朴な疑問 192 流れ易い釉の功罪とは2?

2015-11-06 20:21:20 | 素朴な疑問
2) 流動性を持つと、どんな効果があるのか?。

 ① 釉が混ざり合い、綺麗な流れ文様ができます。

  ) 釉同士の境界線は不鮮明になります。

   a) 一般に異なる釉を、一部二重掛けした場合、その境界線がしっかり現れるのが普通です。

    釉が流れると、その境界線は不鮮明になり、場合によっては境界線上の色は、徐々に変化し

    グラデーションが掛かる様になります。但し、横方向の境界線もボケますが、下方向程では

    ありません。

   b) 流れて出来る紋様は多種多様です。

    大理石模様(マーブル)、ぼかし模様、筋状模様などで、釉の濃淡や施釉の仕方によって

    変化します。

  ) 流れ易い釉を総称して流紋釉と呼びます。

   a) 我が国では、一般に海鼠(なまこ)釉といいます。主に藁灰(わらばい)や土灰を主原料

    に酸化銅、酸化マンガン、酸化コバルト等の酸化金属を8~15%程度添加する事で、

    独自の色の海鼠釉を作る事が出来ます。

   b) 光沢のある結晶を析出するには、酸化バナジウム、酸化モリブデン、酸化タングステン等

    を添加します。特に酸化バナジュウムを0.2~2%添加し、更に5%の酸化錫を加えると

    とても綺麗な結晶が表れます。

   c) 艶消し(マット)の海鼠釉を作るには、釉にカオリンと亜鉛華を加えると良いでしょう。   

  ) 一般には素焼き後の作品に釉を掛けますが、一度本焼きした作品の上に流れる釉を掛ける

    方法もあります。即ち二色の釉の熔ける温度に差を持たせる(下釉が高温、上釉が低温)事で、

    より流れ易い釉が使える利点があります。

  ) 流れ落ちる量が大きくなると、最上部の釉は薄く伸ばされる為、ガラス層や釉の色が薄く

   なり勝ちです。流れ落ちた最下部の釉は厚くなり、盛り上がり滴く状になる場合もあります。

   尚、油滴天目と呼ばれる抹茶々碗は、落ちそうな天目釉(鉄系の結晶釉)の滴がギリギリの

   処で止まっているのも 一つの見所と成っています。この場合も、口縁の釉が薄く伸ばされて

   いる(ガラス質が薄い)為、金や銀覆輪が施され、口縁の保護と口当たりの良さを演出して

   います。

  ) 釉が流れる事により、単体の釉では出せない色を出す事ができます。

   前回も記した様に、混ざり合った釉は単体の色と異なる場合があります。二色の中間色に

   成る場合も有りますが、全く異なる色に仕上がる事もあります。又、光沢が増す場合や逆に

   光沢が減じる事もあります。還元焼成に敏感に反応する釉を使うと、更に色の変化が多様化

   します。

 ② 釉の流れる量は、完全に把握する事は難しいです。

  その為、流れ過ぎても棚板まで流れない様に、最下部には数cm無釉にしておく事が多いです。

  又、流れ落ちても、高台まで流れない様に、作品の上部のみに流れ易い釉を掛ける場合も多い

  です。

  ) 流れに大きく関係するのが、窯の温度です。

   窯の温度は場所場所によって変化します。即ち、容量の大きい窯では、中が均一の温度に成る

   事は稀です。特に燃料を使う窯では、炎が直接当たる火表が高温に成り易いです。

   電気窯であれば、熱源に近いほど高温になります。その為、作品を何処に置くかの、窯詰め

   作業も大切になります。

  ) 寝らし時間によって、流れる量も変化します。

   最高温度をどの程度引っ張る(時間を掛ける)かによって、流れる範囲や量も変化します。

3) 流れ難い釉や流れ易い釉を作るには?。

以下次回に続きます。
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