6) 既存の釉の配合例(重量比)から、その配合例のゼーゲル式を求める。
多くの陶芸関係の本や、ネット上でも色々な釉の配合例(レシピ)が掲載されています。
大いに参考に成るのですが、レシピ通りに調合したとしても、必ずしも望む色や艶が出る訳では
有りません。その原因として、レシピに載せていない、何か隠された物が有るのではないかと
感じるかも知れません。当然の事ですが、実際釉を研究している人は、その技術は秘密
(公にしていない事)にしているのも事実です。
しかし、実際には、窯詰めや窯の状態、更には窯の焚き方などの諸条件によって、変化する
事の方が多いと思われます。但し、この条件を持ち出すと、話が進みませんので、ここでは
棚上げする事にします。
① 公表されているレシピは、ほとんどが一般的な釉です。それ故、釉に大きな狂いは無い事が
多いはずです。但し、この釉を自分好みの釉に改良する為には、何処をどの様に変えれば
良いか、試行錯誤的に実行するよりも、理論的裏付けに基づく実施の方が確実かも知れません
その為には、与えられたレシピをゼーゲル式に当て嵌め、式から向かう方向を決めるのも
良い方法ではないかと思います。
② 一般的な調合例は、各釉の材料をグラム(g)単位で表示しています。
次の様な調合例を元に、ゼーレル式に直す計算をしたいと思います。
正長石 50g、珪石 20g、石灰石 30g、タルク 20g 合計100g
) 釉の三要素に分ける。
a) 正(かり)長石には、カリ(KO2)、アルミナ(Al2O3)、シリカ(SiO2)が含まれています。
b) 珪石にはシリカ(SIO2)のみが含まれます。
c) 石灰石には、CaOと CO2(炭酸ガス、熱分解して発散します。)が含まれます。
d) タルク(3MgO ・ 4SiO2 ・ H2O)には、MgOとSiO2が含まれています。
以上の事から、媒熔剤は、長石、石灰石、タルクの一部から採る事になります。
アルミナは長石から、シリカ成分は、長石、珪石、タルクの一部から採ります。
) 各材料の量を三要素の重量gに分けまする。
a) 前回述べた様に、正長石の1モルは556.8gで、カリ成分の1モル94.2gとアルミナ成分の
1モルの102.0g、シリカ成分1モル360.6gで構成されています。50gの長石は以下の
様な重量になります。
イ) K2O(カリ成分)=(94.2x50)/556.8=8.5g
ロ) Al2O3(アルミナ成分)=(102.0x50)/556.8=9.2g
ハ) SiO2(シリカ成分)=(360.6x50)/556.8=32.4g
b) 珪石はほぼ100%SiO2ですので、20gはそのままです。
c) 石灰石の1モルは100.1gで、CaOが56.1g、残りがCO2となります。
石灰石10g中には、CaOが(56.1x10)/100.1=5.6g入っている事になります。
d) タルク(3MgO ・ 4SiO2 ・ H2O)の1モルは379.3gです。
MgOの1モルは40.3gで、3MgOでは120.9gとなります。
タルクの20g中には、MgOが(120.9X20)/379.3=6.4g入っています。
同様にしてSiO2の1モルは60.1gで、4SiO2では240.4gですので、タルク20gでは
(240x20)/379.3=12.7gとなります。
以上まとめると、RO(媒熔剤)=K2Oが8.5g、CaOが5.6g、MgOが6.4gとなります。
Al2O3=9.2g。SiO2=32.4g+12.7g=45.1gです。
) 重量g数をモルに換算します。
a) K2Oの8.5g=(1X8.5)/ 94.2=0.090 モル
CaOの5.6g=(1X5.6)/56.1=0.100 モル
MgOの6.4g=(1X6.4)/403= 0.016 モル
b) Al2O3の9.2g。=(1X9.2)/.120=0.077 モル
c) SiO2の45.1g=(1X45.1)/60.1=0.750 モル
) ゼーゲル式に変換する。
式ではRO(媒熔剤、アルカリ成分)は1モルとしています。それ故上記 a)の合計が1になる
様に書き換えます。即ち 0.090+0.100+0.016=0.206 モル
1/0.206=4.854倍します。
・ K2O=0.090X4.854= 0.437 モル ・ CaO=0.100X4.854=0.485モル
・ MgO=0.016X4.854= 0.078 モル
・ Al2O3=0.077X4.854=0.374 モル
・ SiO2=0750X4.854=3.640 モル
結論 以上の事から、配合例の釉のゼーゲル式は以下の様になります。
RO ・ 0.374 Al2O3 ・ 3.640 SiO2 となります。
MgOを若干含んでいますが、透明系の釉になると思われます。
尚、ゼーゲル式は面倒な計算に成りますが、ゼーゲル式の計算ソフトが存在しています(有料、無料)
ので、興味のある方は、ネットで検索して下さい。
以上でゼーゲル式の話を終わります。