草木灰は、昔より釉として使われています。むしろ釉の始まりは草木灰から始まったと
言われています。
草木灰には種類が多く、ほとんどの草木類の灰が釉として使う事が出来ますが、
灰の成分はどの灰であっても、ほとんど同じ様な物です。
しかしその含有量には大きな差があります。
1) 草木灰に含まれる成分。
草木灰の成分には大きく分けて2種類があります。
① 珪酸質を多く含む灰。
禾本科の稲の藁(わら)、籾殻(もみがら)、糠(ぬか)等は、70~80%の
珪酸を含みます。(尚、一般の灰は30%前後です。)
又、竹や羊歯(しだ)類などにも多く含まれています。
それ故、珪石(SiO2)の代わりに使われます。
② 樹木灰には、松、柏、杉、樫(かし)、楢(なら)、欅(けやき)、橡(くぬぎ)
等があります。
又栗皮、椿、橙(だいだい)、 蜜柑など多くの種類があります。
樹木の灰には、カルシウム(CaO)、ナトリウム(NaO)、カリウム(K2O)、
マグネシウム(MgO)等のアルカリ成分(媒熔剤)が多く含まれています。
釉の色に関係する鉄分やマンガン等や、乳濁作用のあるリン酸も含まいます。
更に、ガラス成分になる珪酸や、釉を安定化させるアルミナ成分も含まれて
いますので、数種の灰の混合物のみでも、釉を作る事ができます。
但しこの場合素地に含まれるアルミナ成分や、シリカ成分も寄与しています。
2) 天然灰と合成灰。
① 天然灰は、同じ樹木であっても産地、生育の土壌、木の老若、木の部位の違い
によって大きく異なります。それ故、天然物には同じ成分の灰は無いとも言われ
ています。 一般に石灰分(CaO)が、20~50%と、珪酸分が30%前後
含まれています。その他は、アルミナ成分(Al2O3)、酸化鉄、他のアルカリ
成分などです。
ⅰ) 樹木の部位と含まれる成分。
樹皮、枝、葉などは、石灰分(CaO)が多く、幹には珪酸分(SiO2)が、
根にはリン酸成分が多いです。尚、リン酸成分の多い物に、芋(いも)、卵殻、
獣骨(骨灰)があります。
ⅱ) 天然灰には、微量な金属などの無機物が含まれていますので、微妙な釉や
色に成ります。
陶芸家の中には、好んで使う人も多いです。特に民芸調の陶器に利用されます。
ⅲ) 土灰(どばい)とは、単一種類の草木灰ではなく、色々混じりあった雑木の
灰の事です。土灰はマグネシア(4~10%)や鉄分など不純物を多く含み、
透明釉の他、飴釉や黒い釉を作るのに向いています。
ⅳ) 鉄分の少ない灰に、柞(いす)灰があります。磁器の様に白い肌に焼き
上げる為には、鉄分が少ない灰が必要で、九州の宮崎県産の、柞の木から
採ります。
ⅴ) 松灰や樫灰にには、金属のマンガンを多く含み、黒い釉を作るのに使われます。
② 合成灰は、天然灰の不安定な状態を解消する為、安定した釉が作れる様に化学的
に合成した灰です。それ故、常に同じ条件で使う事ができます。
但し、釉として変化が乏しく、面白味や味わいが無いとも言われています。
種類としては、合成土灰、合成藁灰、合成籾殻灰、合成栗皮灰、合成柞(いす)灰
など、種類も豊富です。
尚、陶芸材料店では、各種灰を販売しています。但し、ご自分で草木を燃やして
天然灰を作る事も可能です。その為の注意点に付いて述べます。
a) 草木灰は、燃やして出来た灰を良く磨り潰し、水簸(すいひ)した後、何度も
水に浸し上澄み液を捨てて、水溶性のアルカリ成分(灰汁、あく)を取り除きます。
b) 篩(ふるい)を通して、砂や燃えカス等を取り除きます。
c) 草木灰には完全に燃えずに、炭素成分が残ります。なるべく白くなる様に焼いた
としても、20~30%程度の灼熱減量(ロス)が存在するのが普通です。
(市販されている自然灰も同様との事です。) ロス部分は焼成の際CO2として
発散してしまいます。それ故、調合の際分量に注意が必要です。
d) 燃やした草木灰には、少量の硫黄分を含む物もあります。水簸(すいひ)では
取り除けません。完成した乾燥灰を再度燃やす事で取り除きます。
以下次回に続きます。