釉の調合に於いて、天然灰を使うのを灰釉(かいゆ、はいゆ)、又は灰立と言い、合成灰や石灰石を
使う釉を石灰立と言って区別する事もあります。
同じ自然灰であっても、その成分にバラツキが多く、ゼーゲル式には馴染めません。
石灰石を釉に用いる以前には、灰釉が使われていました。多くの場合その灰は廃物利用として利用
されていた物です。即ち、有機質であるならば、その灰は釉として使う事が出来るのですが、当然
ある一定量の灰が取れる事が必要です。有機物を燃やすと、その体積は数万分の一になってしまい
一定量集める事は意外と難しいです。
各窯場には当地の粘土や磁土に、当地で調達した灰を混ぜ合わせた、その窯場独自の釉が存在
していました。その調合は割合簡単な組み合わせでなされているのが普通です。
1) 灰の種類と特徴: 灰の種類は多いですので、代表的な灰に付いて述べます。
) 松灰: 一番多く使われる灰です。多くは、薪窯で使われる赤松の灰を利用します。
a) 鉄分などの無機質の不純物を含み、福島長石と半々(50%)に混ぜると、綺麗な釉に
成ります。還元焼成では、流れ難い深緑色になります。
b) 松灰が70%程度になると艶消し釉となり、落ち着いた淡い色調になります。
) 樫(かし)灰: 比較的多く使われる灰色の灰です。
a) 福島長石 70、樫灰 30%: 艶のある綺麗に澄んだ色調になります。酸化焼成でやや
明るい黄色味を帯、還元焼成で淡い青色になります。
b) 福島長石 50、樫灰 50%: 綺麗に澄んだ釉に成りますが、熔けて少し流れます。
c) 福島長石 30、樫灰 70%: 一段と熔け易くなり、完全に流れ落ちてしまいます。
) 栗皮釉: 建築材として不要な栗の樹皮を燃やした灰です。
やや黄色味を帯びた綺麗な灰で、鉄分などの雑味も少ない灰です。
a) 福島長石 70、栗皮灰 30%: 酸化で薄い黄色、還元で淡い綺麗な青紫色になります。
厚めに施釉すると、わずかに白濁します。
b) 福島長石 50、栗皮灰 50%: 綺麗な釉肌ですが、流れ易く成ります。
c) 栗皮灰が多くなるに従い、釉は流れ落ちてしまいます。
) 橡(くぬぎ)釉: 黒い粒子の粗めの灰で、雑味成分も多く、釉調も複雑に変化します。
一般的な灰では無いので、陶芸材料店でも入手困難な場合があります。
a) 福島長石 70、橡灰 30%: 乳濁成分を含む為、厚く施釉した部分は少し艶消し状で
乳濁します。
b) 福島長石 50、橡灰 50%: 熔融温度も高くなり、厚掛けした部分は、熔けきらず
かさついた状態になります。
c) 福島長石 30、橡灰 70%:灰に含まれる雑味で、艶も無く黒っぽい濁った釉になります。
一応熔けます。
) 藁灰: 真っ黒い灰ですが、釉に使うと、真っ白に成ります。乳濁剤として広い範囲で、
多く使われています。
) 土灰(どばい): 雑木の灰で、その成分は一定していません。その為合成土灰を使う事も
多いです。
2) 灰系透明釉について。
以下次回に続きます。