


新居に越した劇作家のアランは、長年車上生活をしている老女、ミス・シェパードと出会う。住民に煙たがられながらも、自由に我が道を行くミス・シェパードに辟易しつつ、いつしかアランは彼女の生活を支えるように。ミス・シェパードには誰にも言えない過去があった…
高齢化と迷惑住人、という身近で深刻な社会問題について、いろいろ考えさせられました。ミス・シェパードもアランの老母も、悪い意味で元気すぎます。足腰がきかなくなった、ボケ始めた、でもなかなか死なない、死ねないんですよ。医療の発達と福祉の充実のおかげで、本来ならとっくに来てるはずのお迎えが来ない。ミス・シェパードも、昔なら行き倒れ、野垂れ死にして無縁仏になるはずが、周囲の人や社会の気遣いや手厚いケアのおかげで、長寿をまっとうしちゃうし。でもそれって、お年よりにとっては極楽なのか、それとも生き地獄なのか。ミス・シェパードの尊厳を失うほどの老醜や、社会への迷惑を見ていて、長生きなんてちっとも幸せなことじゃない、とあらためてゾっとしました。心身ともに苦痛なだけでなく、周囲にとって忌むべき存在となってまで長く生きたくない。けど、多くの人間にとっては避けられない人生の終着。どーすりゃいいんだろ、と怖くて夜も眠れなくなります。

ヒロインのミス・シェパードですが。彼女のどこをお手本にすればいいのでしょうか。こうはなりたくない!なってはいけない!な、むしろ反面教師にしたいような、常識もモラルも通用しない迷惑老人っぷりでした。勝手に強引に他人の家の前、庭に入り込んで車上生活。ゴミや糞尿も撒き散らす不潔さ、言動の憎々しさ頑なさ、厚かましさには、老人だからと許せないものがありました。周囲の親切や小心さにつけこむ狡賢さにも腹立ったわ~。自由に生きる=他人に迷惑をかける、じゃダメだと思うのです。精神的に疾患がある、という設定だったので納得。そして、ミス・シェパードの図々しさ同様、アランを筆頭とする近隣住人の寛容さにも呆れた。イギリス人って、あんなに人が善いの?!ボケた実母は施設に入れて、ミス・シェパードはそばで面倒をみるアランに違和感を覚えましたが、作品のネタとしてミス・シェパードを必要としていた部分もあったのでしょうか。作家はやっぱ、業が深くないとできない職業なんですね。
ミス・シェパード役は、英国の至宝的名女優のマギー・スミス。もともと舞台で好評を博した役を、そのまま映画版で再演したとか。実に憎々しい意地悪ばあさんっぷりなのですが、周囲が従ってしまうのも理解できるような凛とした威厳が、単なる老女優ではないことを証明しています。40そこそこで引退する某人気歌手を、多くの人は潔いとかカッコいいとか賞賛してるけど、私は高齢になっても映画やTV、舞台で活躍し続けているマギー・スミスのほうが、偉大で尊敬に値すると思います。ミス・シェパードに負けず、元気に仕事を続けてほしいものです。

ゲイであるアランが新居に次々と引っ張り込む若い男たちの一人として、大好きなドミニク・クーパー


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