まつたけ秘帖

徒然なるままmy daily & cinema,TV drama,カープ日記

さすらいの熟女

2021-06-08 | 北米映画 15~21
 「ノマドランド」
 60代の未亡人ファーンは、リーマンショックで家を失ってしまう。キャンピングカーで各地を旅する生活の中、ファーンはノマドと呼ばれる人々と出会い交流を重ねるが…
 本年度アカデミー賞作品賞、監督賞、主演女優賞受賞作!佳作、秀作には違いなさそうだけど、おばさんが放浪する話とか内容的にはあまり食指が動かない…イケメンが出てこなさそうな点も観に行くことを躊躇させましたが、映画ファンとしてはやはりスルーすべきではない、と意識を高くもって劇場に足を運んだのでした。結論としては、観に行ってよかったです!評判通り、佳い映画でした。自分の生活や人生についていろいろ考えさせられました。しがらみを捨てて自由な放浪生活、あこがれる!けれど、私には絶対できないわ~とファーンのノマドライフを見ていて痛感しました。車のタイヤ交換さえできない私が、ノマドになれるわけがありません。まずはタイヤ交換できるようになりたいと思いました

 自由だけど、気ままな感じは微塵もなく、まるで修行僧の苦行のようなファーンのノマド生活。孤独には耐えられるかもしれないけど、暑さ寒さ風雨など厳しい自然のみならず、洗濯や入浴、排泄もままならない不便さ不衛生さには耐えられません。とにかくノマドになるには、とてつもない気力体力が必要。今の快適で便利な生活を捨てることは、やはりできそうにありません。自由って楽じゃない。私は不自由な楽を選びます。
 ファーンやノマドの人たちって、お金も家も失って仕方なくというより、すごい強固な意志と覚悟で社会のレールから外れた生き方を選んでるみたいでした。公共機関や家族にも、よほどのことがないがぎり頼らない姿は、偏狭なまでに誇り高すぎ。まるで悟りを求めて厳しい修行の旅を続けてるようなノマドには、ちょっと宗教じみたものを感じてしまいました。

 ノマド生活をするにあたって最も怖いのが、病気やケガです。ノマドのほとんどが高齢者で、まさに死と隣り合わせの車上生活でした。映画では描かれていなかったけど、力尽きて野垂れ死にとか、暴力で命を落とすノマドもきっといるんだろうな~。ノマドも一般人たちもみんないい人ばかりでしたが、実際にはそんなわけないし。アメリカって凶人狂人ばかりの超危険な国だもんね。ファーンが特に危険な目に遭うことなく旅を続けてたのが、ありえないほど奇跡的でした。
 ファーン役のフランシス・マクドーマンドは、この作品で3度目!のアカデミー賞主演女優賞受賞!それも納得の名演、ていうか、演じてるって感じのないドキュメンタリーっぽいリアルさ、かつ動きや表情、雰囲気には素人では出せない絶妙なユーモアとペーソスがあふれていて、まさに誰ともカブらない唯一無二な、天上天下唯我独尊的な女優であることを今回も証明していました。

 キレイに見えたい、見せたいなんて微塵も思ってない、もはや女でも男でもない性を超越したような風貌は、社会が押し付けてくるあらゆるものを捨て去った勇気を軽やかに清々しくまとっているようでした。一匹狼なハードボイルドさも、チャラチャラした軽薄な女優にはない魅力。排便シーンや全裸水浴びシーンなど、大物女優がこんなのよくもまあ、いや、本物の大物女優だからこそできたかもしれない生々しい人間味ある姿でした。
 ファーンを厳しく優しく迎える自然の美しさが感動的です。この景色を撮りたかったから映画を作ったのかな、と思わせるようなフォトジェニックさで、アメリカの自然の雄大さにあらためて圧倒されました。アカデミー賞監督賞を受賞したクロエ・ジャオ監督の豊かな感性にも感嘆。次回作であるマーベル映画「エターナル」も楽しみ!
コメント (2)
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