まつたけ秘帖

徒然なるままmy daily & cinema,TV drama,カープ日記

復讐の妖精

2012-10-14 | フランス、ベルギー映画
 お松のイザベル・アジャーニ映画祭③
 「殺意の夏」
 南仏の田舎町に、エルという美しい娘が両親と共に引っ越して来る。気のいい自動車修理工の青年パンポンは、気まぐれなエルに翻弄されながらも彼女を愛するように。エルはある恐ろしい企みを胸に秘め、パンポンに近づいたのだった…
 フランスの国民的人気作家セバスチャン・ジャプリゾが、イザベル・アジャーニのために自作を脚色した愛と復讐のドラマ。「クリクリのいた夏」や「ピエロの赤い鼻」など、フランスの田舎を舞台にした人情ものが得意なジャン・ベッケル監督作品。 伏線の張られた謎めいた展開や、衝撃的で悲痛で皮肉すぎる結末など、ミステリとしても面白く巧妙な映画です。忌まわしい出生の秘密や戦争の傷跡など、暗く悲しい話なのですが、明るい陽光降り注ぐ、素朴な人々の住む田舎町が舞台なためか、陰惨な感じは皆無。パンポンや彼の家族がみんな善良で、クスっと笑えるシーンも多く、ほのぼのコメディ?と錯覚してしまいそうにもなります。ヒロインのエルも、内面には暗い怨念を隠しもっているのですが、表面的にはアッパラパーなニート娘で頭カラッポそうだけど、的を射たキツい皮肉や毒舌を吐いて相手をギャフンとさせるところなど、かなり笑えます。

 エルの復讐劇を見てると、人間って思い込みが激しすぎるのはよくないなあ、とシミジミ思いました。人目を惹く美貌と、悪だくみを計画し実行する頭脳を備えていたのも、エルを不幸にするだけでした。もし彼女がブスでバカだったら、彼女も彼女に関わる人々も、運命を狂わされることはなかったはずだし。自分も他人も不幸にしてしまうほどの美しさって、憧れるけど…やはり美しすぎるのは害毒かもしれません。
 エルをチャーミングに熱演して、2度目のセザール賞主演女優賞を受賞したイザベル・アジャーニ。小麦色に焼けた肌を惜しみなくさらし(まさに文字通り、すっぽんぽん!)コケティッシュな天使とクールな悪魔の二つの顔を使い分け、パンポンと観客を翻弄し惑わし魅了するイザベル。少女?売女?無邪気?腹黒?優しい?残酷?彼女特有のアンヴィバレントな魅力を炸裂させています。毎度のことながら、その美しさ、演技もフツーじゃないのですが、イザベルの魔力の源は、やはりその瞳ではないでしょうか。狂気の淵をのぞいているような、常人には見ることができない異郷を見つめてるような、張りつめてるけど虚ろな瞳が美しすぎて怖いです。アッパラパーだけど、精神不安定で今にもコワレそうな脆さは最初からヤバい感じで、だんだん期待通り狂気へと落ちていく姿は、これぞイザベル・アジャーニ!と拍手したくなります。狂ってないイザベルなんて、辛くないキムチみたいなもんだし。

 イザベルのワイルドすぎるヌード(家の中で行水、庭で放尿など)や、ファンシーすぎるカラフルでエッチな超ミニなど、絶対に真似できないけど可愛いファッションも目に楽しいです。
 イザベルのファンにとっては有名なエピソードですが。イザベルは一度エル役のオファーを断ったものの、やっぱやる!と思い直し、代役の女優からヒロインを奪い返したのです。うう~ん。その身勝手さや気まぐれ、情熱がイザベルらしいというか。まさに業の深い女優そのもの。惚れ直した。イザベルほどの特別な大女優だから許されるワガママ、暴挙ですね。

 パンポン役は、フランスの人気歌手アラン・スーシュン。美男とか男前ではないけど、優しそうで女に甘い感じが微笑ましく素敵でした。
 パンポンの耳の遠い伯母さん役は、ベッケル監督作品の常連だった名女優の故シュザンヌ・フロン。おちゃめで可愛いおばあちゃんを好演して、セザール賞の助演女優賞を獲得しています。彼女とイザベルのやりとりは、ほのぼのしててコミカルなんだけど、劇的な展開につながる重要なシーンでもあるので、要注意です。あと、エルの引きこもりパパ(イザベルの「サブウェイ」では刑事役だったミシェル・ガラブリュが好演)も重要な存在なので注意が必要です。
コメント (2)
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