まつたけ秘帖

徒然なるままmy daily & cinema,TV drama,カープ日記

娼婦体験

2021-06-30 | フランス、ベルギー映画
 「夜よ、さようなら」
 パリで家族と暮らす19歳のマリーは、ジェラールという男と出会い恋に落ちる。ジェラールの正体はポン引きで、マリーはすぐに売春を強要されるが…
 主演のミュウミュウ(当時28歳ぐらい)が娼婦をリアルに演じた1978年のフランス映画です。入魂、渾身の演技を絶賛された若きミュウミュウがセザール賞主演女優賞受賞を拒否したことは、マニアックなフランス映画ファンの間では有名な話。この映画を観れば、それも理解できます。よくできました!とご褒美をもらって喜べるような作品、役じゃないですもん。とにかく内容もミュウミュウの演技も、シビアで生臭いんです。娼婦がヒロインの映画は枚挙にいとまがありませんが、これほど痛ましくて気が滅入る作品はそうそうありません。若い人気女優が娼婦を演じると、やはりどこか見た目もキャラも美しく悲しくなりがちで作り物めいたものになってしまいがちですが、この映画のミュウミュウにはそんな自己愛とか美意識など微塵もありません。まるでドキュメンタリーの中の本物の娼婦みたい。役作りで実際にも娼婦をしてみたのではないか、と心配になってしまうほどの本物っぽさです。

 身も心も擦り切れ汚れながら、暗渠のような娼婦の世界から抜け出せないミュウミュウの姿に、こっちまで息苦しくなったり疲労感を覚えてしまいますが、ちっとも悲劇のヒロインって感じではないんですよ。日本ならもっと生き地獄っぽく描く世界とヒロイン。ボロボロになりながらも、どこかあっけらかんとしててドライな様子や言動は、いかにもフランス女、いかにもミュウミュウでした。仕方なく体を売ってるのではなく、自分の体をどう使おうが自由、自分の意思で泥濘に沈んでいる、好きでやってんだからほっといて、みたいなふてぶてしさがカッコよくもあって。そういう役が似合うのもやはりフランス女優ならではでしょうか。

 全裸など当たり前、本番としか思えぬ客とのお仕事シーンなどにも、決意のヌードとか女優生命を賭けた演技、とかいった重さやセンセーショナルなもったいぶりは皆無、でも壮絶で強烈なミュウミュウですが、やっぱ素人とは違う美人!可愛いです!娼婦になる前とか仕事してない時は、すっぴんで飾り気のないフレンチギャル。仕事中はいかにも夜の女なメイクとファッションで凄気さえ漂わせてます。あの娼婦ファッション、ちょっと憧れるかもとにかく、こんなに若くて可愛い女優が何もここまでしなくてもと思いつつ、当時のミュウミュウの女優魂の100分の1でも今の日本の女優にあれば、邦画ももっと面白くなるのに…とも思ってしまいました。

 パリの裏町、娼婦たちの生態、売春宿の場末感もリアルでインパクトあり。それにしても。世の中には危険な仕事っていっぱいありますが、娼婦ほど命がけな仕事ってないですよね~。客が暴力男や変態なんか珍しくもない、ヘタすりゃ殺人鬼と遭遇してメッタ刺し、バラバラ死体に、なんてこともよく起こる事件。病気も怖い。暴力男や変態にはほとんど動じなかった肝っ玉娼婦マリーでしたが、優しい金持ちの青年と出会い幸せな恋に落ちたと思ったら、彼の正体を知って発狂寸前のダメージをくらう、というエピソードが衝撃的かつ笑えた。
 それにしても。マリーを娼婦に落とすヒモ男ジェラールが最低最悪なクズゲス野郎。何でこんな男の言いなりになるのか、私にはまったくもって理解不可能でした。マリーとジェラールが、国民をザワつかせてるA宮家のM子さん&K氏とカブってしまった。恋というよりマインドコントロールだったのでしょうか。

 
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ひと目逢ったその日から

2021-03-12 | フランス、ベルギー映画
 「女ともだち」
 1952年のフランス、リヨン。子どもたちの学芸会で出会ったレナとマドレーヌは意気投合、親友同士となって家族ぐるみの付き合いをするように。二人は一緒にブティックを経営したいという夢を抱くようになるが、親密すぎる彼女たちにレナの夫は不満を募らせて…
 以前から観たいと思ってたフランス映画、やっと観ることができました!\(^o^)/アカデミー賞の外国語映画賞にもノミネートされた1983年の佳作。W主演のイザベル・ユペールとミュウミュウが、わ、若い!きれい!二人とも30代前半、最も美しかった、そして演技に円熟味が増した時代の彼女たちではないでしょうか。「バルスーズ」では可愛くて大胆不敵なギャルだった二人が、年月を経て素敵な大人の女性に。大人の女性だけど、可愛さと大胆さは失っていないところが驚異です。大人カワイイといっても、日本の30代女優のようないい年してブリっこ、人工的な可愛さ若さとは大違い。ナチュラルでありながら、生々しい女でもある。この映画のユペール&ミュウミュウが、今の綾瀬はるかとか新垣結衣とかとより年下とか、ほんと信じられないし、なぜか何か絶望的な気分になってしまいます。

 女性の自由や権利、生きづらさや歓びを描いた映画は、えてしてフェミニズムが強すぎたり深刻すぎたりしがちですが、この映画は明るく軽妙、それでいて心に刺さる痛みもあって。それはやはり、ユペール&ミュウミュウのフランス女優ならではの個性と魅力によるところでしょう。とにかく二人とも、しなやかで軽やか。ハリウッドや日本ではありえない、同じことやればとんでもない悪妻たち、身勝手でふしだらな悪女になってしまうかもしれないヒロインたちなのですが、ユペール&ミュウミュウだと黙って耐えるとかバカらしい、自分らしく生きないなんて間違っていると思わせてくれる、強く自由なヒロインになるのです。

 レナ役のイザベル・ユペールは、この映画でもクールでドライ、そしてやっぱシレっとしてます。どんな状況にあってもジタバタしたりウジウジ悩んだりは絶対しない、けれども必死になってる力みも全然ない、冷ややかに泰然自若なところが好き。愛してない男との結婚にも、夫の金をくすねる時も、それを夫に打ち明ける時も、嘘をつく時も、常に何喰わぬ顔してるところが笑えます。夫に対してかなり非情で薄情な仕打ちをするのですが、夫に対して悪意とか害意とかは全然なく、自分がやりたいようにやる、ただそれだけ、それの何が悪いの?という軽やかな図太さ、したたかさがチャーミング。「主婦マリーがしたこと」のヒロインとかなりカブります。楽しそうな大笑い顔や元気いっぱいに動き回る姿も多く、出演作の中では最も明るいユペりんかもしれません。
 マドレーヌ役のミュウミュウは「読書する女」など、可愛い熟女ってイメージですが、この作品では美人!颯爽と闊達だけど繊細で、どこか脆さも感じさせる演技、雰囲気が、いつもの彼女とちょっと違った感じで新鮮でした。ユペールへのちょっとした視線やスキンシップに、ひょっとして友だち以上の感情を?を思わせる妖しさがあって、それがまたすごくさりげない。ああいう自然な感じも、さすがフランス女優。

 二人ともかなり過酷な戦中生活を送ったのに、苦労も悲しみも引きずっておらず、幸せな今を謳歌し未来を夢見る前向きさに好感。二人のマダムファッションも素敵。小柄で華奢なユペールは少女っぽい可憐さ、ちょっと宝塚の元男役っぽいミュウミュウはマニッシュな感じ。服の趣味同様、性格も生い立ちも違うけど、初めて出会った瞬間から運命的なもの、男とか女とかいった範を超えた愛情で結ばれた関係が、優しいときめきと高揚感で描かれていました。結婚とかセックスとか必要ない、魂が優しく触れ合うような愛情が尊かったです。妻であることよりも、母であることよりも、女性にとって大切なことがある。自由をあきらめて埋没することを拒む女たちに共感。同時に、彼女たちに振り回される夫たちには同情。ヤボ亭主だったりダメ亭主だったり、欠点だらけとはいえ根は超善人な夫たち、特にレナの夫は妻のことをすごく愛していて、彼女のために一生懸命働いて尽くしていただけに、裏切られてブチギレし大暴れ、ブティックをメチャクチャに破壊する姿が可哀想すぎて胸が痛んだ。愛って努力では報われないものなのですね。

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絶海に咲いた百合

2021-01-08 | フランス、ベルギー映画
 「燃ゆる女の肖像」
 18世紀のフランス。島にある屋敷に令嬢エロイーズの肖像画を描くためやって来たマリアンヌは、モデルになることを拒否し続けているエロイーズに画家であることを隠し、彼女の話し相手や散歩を共にしながらひそかに肖像画を描き進める。エロイーズとマリアンヌはしだいに惹かれ合うようになるが…
 昨年「パラサイト 半地下の家族」と並んで高く評価されたフランス映画。日本でもやたらと批評家や意識高い系映画ファンから賞賛されたので、そんなに秀作ならスルーはできんな、でも百合映画だしな~…と、映画館に行くに当たって揺れる想い~♪by ZARD だったのですが、この映画も観にいってよかったと心から思いました!今まで観た百合映画の中ではいちばん好きかも。ご存じの通り私は、三度のメシよりBL好きな腐。でも女性同士の恋愛ものは苦手。それも一種の性差別だよな~と、常々気になってました。でもどうしても、女性同士の恋愛には違和感や抵抗感を覚えてしまうのです。でも嫌悪感とか、絶対あり得ない!許せない!なんて狭量な気持ちは微塵もありません。

 女性同士の性愛シーンは見たくない…と観る前は気重でしたが、いざ観てみると評判通りの佳作でした。憂慮していた性愛シーンも、扇情的に激しくも生々しくもなく、何よりヒロイン二人が女にありがちなヒステリックさとか忍耐しすぎとかがなく、感情に流されることなく自分たちの想いに冷静に正直に従うところがカッコよかったです。親密だけど狎れ合わない関係。甘く切なくなりがちなBLと違って、理性的で現実的なヒロインたちでした。今まで観た百合映画の女たちは、どちらかといえば女性特有の病っぽいヤバいイカレ系が多かったので、暴走しないクールなエロイーズとマリアンヌは新鮮でした。

 肉体的にも結ばれるエロイーズとマリアンヌですが、なにげない会話や一緒にいる時の安らかな雰囲気が培う友愛、信頼が素敵でした。気のきいた台詞や愉快な軽口をたたくわけではなく、二人とも寡黙で内省的、でも正直で誠実。人間関係にもミニマリズムって必要。相手の顔色をうかがって忖度ばかり、心にもない追従やくだらない戯言ばかりな自分が嫌になりました。
 社会的、肉体的精神的な女性の生きづらさも、声高に訴えるのではなく、さりげないシーンで描いていたのもよかったです。生理痛には温めたさくらんぼの種をおなかに当てる、とか興味深い当時の治療法でした。母上の留守中はメイドのソフィーを加えた3人で、身分差のない交流を楽しむ姿も微笑ましかったです。それにしても。望まない結婚、生理、妊娠・中絶と、ほんと女性は大変。呪縛のような辛苦を抱えながらも、弱音を吐かず絶望もせず強く優しく生きることができたら…
 
 毅然と気高い二人のヒロインと、それらを演じた女優たちが魅力的でした。エロイーズ役のアデル・エネルは、今やフランス映画界屈指の実力派女優。まだ若いのに、すごい貫禄と風格。ケイト・ウィンスレット系?ニヒルな演技、たくましい風貌といい、男より男らしいです。媚び媚なぶりっこ女優とはまさに真逆な女優。ふれくされたような表情だけど、屈折してるのではなく超絶冷静沈着。要らんことは言わないしないので、誤解されやすいタイプだけどそんなことどうでもいい、みたいな孤高がカッコいいです。フテ顔だけど、笑ったらあどけなくて可愛い。マリアンヌ、ソフィーと3人でトランプしてるシーンの笑顔が無邪気で可愛かった。マリアンヌ役のノエミ・メルランは、ちょっとエマ・ワトソンに似てる?アデルもノエミも脱ぎっぷりがいい。ナチュラルな脱ぎに好感。アデルのワイルドな腋毛に圧倒されました

 絶海の孤島の風景が美しかったです。生きるために最低限度のものしかないけど、ああいうシンプルライフには憧れます。余計なものがない屋敷内もミニマリズムのお手本でした。衣装も派手さはないけど、やはりシンプルかつ清らかな色合いで素敵でした。でもドレスとかコルセットとか、しんどそう~。普段はジャージが、やっぱいちばん楽で幸せ
 佳い映画でしたが、でもやっぱ百合より薔薇のほうがいいなイギリスならハリス・ディキンソンとビリー・ハウル、フランスならグザヴィエ・ドランとピエール・ニネ、ドイツならルイス・ホフマンとヤニス・ニーヴナー、韓国ならキム・スヒョンとパク・ソジュン、が理想かな(^^♪条件は20代か30代前半の脱げる男優!日本は、うう~ん、山崎賢人と池松壮亮がいいかも(^^♪
 
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き〇がい農場

2020-11-26 | フランス、ベルギー映画
 「狼獣たちの熱い日」
 巨額の現金を強奪し逃亡したジミーは、田舎の農場に身を潜める。しかし、農場を営む一家はみな狂っており、ジミーは異常な世界を目の当たりにするのだった…
 世間で評判のよい、老若男女誰が見ても大丈夫な、無難で無害で破綻のないポリコレ映画よりも、駄作のレッテルを貼られながらも危険で有毒でハチャメチャなトンデモ映画ほうが好きです。B級犯罪映画のレジェンドスター、リー・マーヴィン主演のこの作品、類まれなる珍&怪作として一部マニアの間ではカルト的な人気らしく、私も以前から気になっていたのですが、ようやく観ることができました。期待通りの笑撃でした。こんな映画、今のポリコレ時代では絶対に製作不可能ですよ。話も展開も登場人物も、支離滅裂でアナーキーで意味不明で狂ってて笑えます。冒頭の現金強奪シーンから、もうハチャメチャ。市街戦みたいなチープかつ問答無用なドンパチ、幼い子どもまで無残に撃ち殺されます。舞台が農場に移ってからは、もうシュールなカオス状態。とにかく農場一家がどいつもこいつもヤバい異常者。

 いきなり出てくるのが、下半身をいじりながらプッシープッシーとわめいてる色き〇がいおばさん。性奴隷にしてる黒人の男にファックを狂おしくねだってます。色情狂ばばあ役は、フランスの秀作映画にも出演してたベルナデット・ラフォン。よーやるわ!と呆れてしまうほどの奇演でした。ジミーにも欲情して逆レイプしようとし、怒ったジミーに首絞められて死ぬ顔は、まさに妖怪な醜さ。家長であるおっさんは粗暴な変態で、コレクションしてる女もののパンティをクンクンかぐのが日課で、案山子に化けてヌードギャルをのぞき見したり(後に襲いかかるのですが、抵抗されたので惨殺しちゃう!)、若い妻を台所でバックからファック。妻は無表情で早く終われよ顔。家政婦は痴呆症?みたいなおばさんで、意味不明なことをブツブツ言ってます。いきなり発狂して首吊って死んだりします。

 家長夫婦の10歳ぐらいの息子が、当時の表現の自由に呆れるほど見た目もキャラもヤバすぎ。ギャングに憧れていて、タバコ吸うわ酒飲むわ危険運転するわ、娼館で豪遊するわ。こんな役、こんな演技、子役にやらせるなんてありえない!このトンデモガキンチョを演じてるのは、あの傑作「ブリキの太鼓」で主役のオスカル少年を怪演したダーヴィット・ベネント。まさに世界最恐の子役。オスカル少年もぶっ飛んでましたが、今回の息子も尋常じゃない異様さ。気持ち悪い!けどノリノリで楽しそうなところが笑えました。

 いちばん狂ってたのは、表面的にはクールで寡黙な若妻です。ジミーを匿う彼女ですが、それは恐ろしい魂胆があったから。夫を殺した後は、尾行する刑事を誘惑してファックした後に彼も殺したり、すごい暴走!すべて無表情でつまらなさそうにやってるのが怖い。演じてるのは、若き日のミュウミュウ。可愛い!けどニヒルでアンニュイ。場末のカフェのウェイトレスみたいな衣装も可愛かったです。農場で身を隠す男、匿う若い人妻、といえば「刑事ジョン・ブック 目撃者」を思い出しますが、あんな甘美で切ないロマンスには1ミリもなりません。
 
 ジミーも逃げようと思えばいくらでも逃げられたし、言いなりになる必要なんか全然なかったのに、何で?!と理解不可能な身の処し方。ただ繰り広げられる異常者一家の変態狂態におとなしくドン引きしてるだけなんですよ。レジェンドスター、リー・マーヴィンもすでに当時キャリア晩節、ヨタヨタしたお爺さんで、無様で無残な姿はまるで老人虐待な痛々しさ。は?!な彼の末路、映画の終わり方にも失笑。まともな筋なんかなく、潔いまでのコワレたイカレ映画。みんな狂い死に、屍累々な惨劇なのに、何かあっけらかんとした突き抜けた明るさが。シリアスな犯罪ドラマとしては大失敗、トンデモお笑い映画としては大成功。岡田あーみん先生の漫画が好きな人なら楽しめるかも。
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社長夫人と…

2020-10-19 | フランス、ベルギー映画
 「暮れ逢い」
 第一次世界大戦直前のドイツ。鉄鋼会社に勤める青年フレデリックは、その才気を社長であるホフマン氏に認められ、彼の秘書に抜擢される。やがてフレデリックは、ホフマンの妻ロッテに恋心を抱くようになるが…
 パトリス・ルコント監督初の英語作品。社長夫人と社長秘書のプラトニックかつ情熱的なラブストーリー。セックスはしないけど心で愛し合ってたら、それもまた不倫になるのでしょうか。セックスなしだと、道ならぬ恋でもゲスくならないですね。私はインポな純愛よりも、ゲスい痴情のもつれのほうが好きなんだけどこの映画の二人、決して一線は超えない、キス、いや、手さえ握らず、想いだけが募ってくすぶって、もどかしくも切ない関係が続くのですが、韓流ドラマのインポな純愛とは何か違うんですよね~。優雅な上流階級を舞台にしてるけど、イギリスのそれともまた違う。ドイツのお話だからというより、パトリス・ルコント監督だからでしょう。

 表面的には上品で慎ましいけど、かなり変態的、エロおやじっぽくもあるのが、さすがというか、いかにもルコント監督って感じでした。まず主人公のフレデリックが、真面目な堅物に見えて実は変態。年上の人妻への、なめまわすような執拗な粘着質目線や、彼女が弾いたピアノの鍵盤をわななきながらキスしたり(まるで誰もいない放課後の教室で、好きな女子のリコーダーの吹き口をなめる男子みたいで笑えた。メイドに目撃されてるのも笑えた)。高嶺の花な社長夫人には礼儀正しく想いを秘めてるのに、同じ階級の娘は性欲のはけ口扱いし、出世したら冷たく切り捨てるフレデリックは、ゲスだけどありえないほど誠実で清廉潔白な男よりは魅力的。誰も傷つけない人畜無害な男なんて退屈ですもんね。

 社長もなかなかの変態じいさん。妻と秘書の恋に嫉妬しながらも、気づかないふりして二人を挑発したり煽ったり、ドMっぷりが笑えた。そう、シリアスなんだけど何か滑稽なところは、まさにルコント監督の真骨頂。おやじな変態テイストと皮肉な滑稽さが、毒にも薬にもならない純愛ものとは一線を画してます。でも、そんなルコント節がこの映作品ではかなり薄まっていたのが物足りなくはありました。フランス語でフランス映画、フランスのエッセンスであるエスプリたっぷり、それこそルコント監督に本領を発揮させるのでしょう。
 この映画を観たのは、言うまでもなくリチャード・マッデン目当てです(^^♪

 リチャマ!時代劇でもイケメン無精ひげなしでこざっぱりしていると、かなり若く見えて可愛い!さっぱり可愛い風貌でも、ほどよく濃ゆいところがリチャマの魅力。無味無臭イケメンが多いので、リチャマの濃ゆい♂フェロモンが美味です。貧相すぎてスーツが似合わないキムタクとかと違って、たくましい体躯のリチャマはフォーマルファッションも男らしくてカッコいい。恋心や性欲を抑えて悶々としてる表情が、エロくて可愛かったです。リチャマといえば、やはりあの不幸顔と不幸オーラ。不幸じゃないシーンでも不幸に見える。もっと不幸になればいいのに、とドSな気分にさせてくれるリチャマが素敵です。社長夫妻の息子と仲良くしてるシーンのリチャマがすごく優しそうで、息子がもうちょっと大きくて美少年だったら、さぞや…なんて腐にありがちな妄想を楽しんでしまいました

 ヒロインであるロッテ役のレベッカ・ホールは美人なんだけど、で、でかい!リチャマより背が高い!リチャマが小柄なのかな?キビキビとテキパキした感じなので、恋に揺れる人妻というより有能な女教師みたいで、彼女と一緒だどリチャマは恋人ではなく生徒に見えてしまい、ムードがロマンティックにも官能的にもならない。もっと嫋々としたたおやかな美女のほうが、ロッテ役に合ってたのでは。社長役は、今は亡きアラン・リックマン。いい人なんだけどちょっと怪しい、何か企んでる感がハンパないおじさん、という彼のオハコな役でした。都合が悪くなったり、ロッテとフレデリックが燃え上がりそうになるところで必ず発作を起こして邪魔をする、というお約束がコントみたいで笑えた。

 リチャマの新作、マーベルの「エターナルズ」も公開延期みたいでガッカリ😞
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フランキー

2020-10-08 | フランス、ベルギー映画
 「ポルトガル、夏の終わり」
 余命宣告を受けた大女優フランキーは、最後のバカンスを家族や友人と過ごすため、彼らをポルトガルのシントラに集める。フランキーにはある企みがあったが…
 やっと観ることができたイザベル・ユペール主演作です。末期がんにおかされた大女優に扮したユペールですが、やはり彼女なのでお涙ちょうだいな湿っぽさとか感動の押し売りなど、見事なまでに微塵もありません。そもそもそんな映画にイザベル・ユペールは出ないでしょうし、彼女を想定して脚本を書いたというアイラ・サックス監督も、そんな安っぽいありきたりなキャラを彼女に当てはめる気など毛頭なかったようです。イザベル・ユペールの個性と魅力にインスパイアされて生まれたヒロインであることは、フランキーを見ていると一目瞭然。

 命が終わろうとしていても、骨の髄まで女優。気質も生き方も変わらない、変えようとしない女優の業の深さに畏怖、そして魅了されました。冒頭のプールでの初登場シーンから、まさにザ・大女優のオーラはハンパないです。気さくで気前がよく、軽やかに大胆で気まぐれ、そして自己中心的で冷徹でもあるフランキー。周囲の都合や思惑など全然お構いなく自分のしたいようにし、みんながそれに従うことを当然だと思ってる無邪気な支配者っぷりも、ぜんぜん不快ではなくとにかくカッコいいんですよ。フランキーが何をしようと何を言おうと、みんな不満はあっても結局は仕方ないと諦めたり許したりしてしまう、まるで神の宣託のごとき大女優の優雅で絶対的な命令。それは選ばれし大女優だけにある魔法のようでした。イザベル・ユペールは、そんな役を自然に演じることができる数少ない本物の大女優です。

 家族やファンから愛され賞賛されながらも、時折にじみ出る孤独や虚しさとか、それらをクールな微笑で隠す静かに美しい韜晦とか、イザベル・ユペールがまとう大女優の光と影は決して重苦しくも悲痛でもなく、あくまでサラっとフワっと乾いていて軽やかなところに感銘を受けました。基本的には台詞は英語なのですが、息子や元夫とはフランス語で話すフランキー=ユペールの自然な語学力にも憧れます。最も目を惹かれたのは、彼女のファッションです。1日だけの話なので、衣装をとっかけひっかえではなく、2回だけ着替えるのすが、どちらも本当にカッコいい!ファッショナブル!パープルのワンピースの上にデニムのジャッケット、オレンジのワンピースの上に革のジャケット、靴も素敵だった。絶対に一般人には真似のできない趣味の高さでした。
 
 とにかく余命いくばくもないという設定以外は、イザベル・ユペールそのまんまな役?私生活でもフランキーのように家族や友人に接してる彼女、想像に難くないです。美しいけど容色の老いは明らかで、それをあまり隠してないところもイザベル・ユペールらしかったです。夫とベッドで愛し合う裸の彼女、どう見てもおばあさんでした。
 フランキーを取り巻く人々を演じてる役者たちは、豪華というよりはシブい、かつ国際的な面々でした。夫役は「ヒットマンズ・レクイエム」でもいい味を出していたブレンダン・グリーソン(アイルランド)、元夫役は「ガブリエル」でもユペールの夫役だったパスカル・グレゴリー(フランス)、息子役はジェレミー・レニエ(ベルギー)、親友役のマリサ・トメイとその恋人役のグレッグ・キニアはアメリカ。

 「Nue propriété」以来のユペりんとの母子役共演?ジェレミーもすっかりおじさんになりましたが、今でも少年っぽさが残っていて可愛い。マリサ・トメイもすっかりおばさんになりましたが、大人女子って感じの親しみやすさと可愛さに好感。彼女の髪飾りもおしゃれだった。ゲイの元夫と行動を共にしてる現地人ガイトがイケメン!グレッグ・キニアの役が可哀想だった。彼へのフランキーの優雅な冷酷さも、まさにザ・大女優でフランキーの複雑な人柄を上手に表してました。

 愛する人たちを幸せにしようと彼らの人生の筋書きを勝手に書き、彼らを操ろうとしたフランキーでしたが、結局彼女の企て通りにはなりそうにない、でもそれでいいわ…みたいなラストのフランキーのホロ苦い微笑みも印象的でした。ままならない人生や愛を寡黙に優しく描くアイラ・サックス監督の作風、すごく好きです。他の作品も観たい。

 物語の舞台となったポルトガルのシントラは、イザベル・ユペールと並ぶこの映画の主役です。世界遺産のひとつであるシントラ、初めて知りましたが美しい街ですね。ひんやりと神秘的な雰囲気。童話の中に出てくるような森でフランキーが彷徨う姿が、まるで絵画のような美しさでした。静かな場所なのかな?と思いきや、名所では韓国人や中国人と思しき騒々しいアジア人の団体観光客がうじゃうじゃいるのが映っていて苦笑
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相棒は変態熟女

2020-10-04 | フランス、ベルギー映画
 「ティップ・トップ ふたりは最高」
 とあるフランスの地方都市。警察の情報屋だったアルジェリア人の男が他殺死体で発見される。女性監察官のエステールとサリーが事件を捜査することになるが…
 世界一働き者な大女優といえばイザベル・ユペール、御年や女優としてのステイタスを考えれば、驚異的なバイタリティとフットワークの軽さです。出演作がまったく途切れないのはファンにとっては喜ばしいけれど、コロナ禍の真っただ中でもあるので心配でもあります。今年も日本では「ポルトガル、夏の終わり」が公開されましたが、この作品は特別上映の形で日本でもお目見え。「マダム・ハイド」と同じセルジュ・ボゾン監督の作品です。

 マダム・ハイドもでしたが、うう~ん…あまり面白くなかった、いや、ぶっちゃけ全然面白くなかったです淡々としずぎてかったるいし、意味不明な描写が多い。フランス映画の悪い点が凝縮されてるような作品でした。いちおうコメディみたいでしたが、まったく笑えなかった。同じ淡々系、同じイザベル・ユペール主演でも「アスファルト」はクスっと笑えるユニークな喜劇だったし、同じ意味不明系なら「TENET テネット」は退屈を許さない圧倒的な映像と演出だったけど、この作品みたいな解かる人だけ好きな人だけ楽しんだらいい、みたいな狭さや突き放した感じがする映画は苦手です。まあ、結局は好みなのでしょう。わし、この監督とは合わないみたいです。

 コメディなのに笑えないのも残念すぎますが、せっかくの刑事もの、女性のバディものなのに、事件の真相とか人間関係とかはどうでもよさそうで、ヒロイン二人の奇矯な性癖を執拗に描いて笑わせようとしてたみたいだけど、ただ薄気味悪くて不愉快なだけでした。フランス女ならではな魅力とか駆け引きとか、せっかく移民問題がらみの事件を扱っていたんだから、その闇に女二人が踏み込む社会派ミステリー、サスペンスにしてほしかったです。

 エステール役のイザベル・ユペールは、相変わらず冷ややかで珍妙で変態でした。攻撃的で暴力的、殴り合いでエクスタシーを感じるというドS女で、冷然と無機質な見た目とか「ピアニスト」のエリカ先生が警察にトラバーユ?みたいなキャラでした。マダム・ハイドもそうでしたが、エリカ先生のイメージが強烈すぎて、監督たちは同じような役をイザベル・ユペールに演じさせたい、演じさせてしまうんでしょうか。血だらけになった顔面,鼻をつたって滴り落ちる血をペロっと舐めたり、他の女優だったら気持ち悪いだけ、でもカラっと乾いててシレっとスットボケてるユペりんなので笑える。彼女のファン限定ですが。冷ややかな美しさ、エレガントさも彼女の魅力ですが、さすがに下着姿とかだと老いが目立って痛々しい。首や生足とかシワシワ。そんなグロテスクさで観客を狼狽させるのも、ひょっとしたら彼女らしい確信犯的な露悪かもしれません。

 相棒のサリー役は、地味に名女優なサンドリーヌ・キベルラン。小柄なユペールとはまさに凸凹な身長差。デカいけど何か頼りない、いろんな意味で大丈夫なのかな?と不安にさせるメンヘラな雰囲気が独特でした。のぞき癖がある役で、男の裸をのぞきながら全裸で自慰してるシーンとかイタすぎる。テシネ監督の「Quand on a 17 ans」の彼女のほうが好きです。
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教会で少年が汚された…

2020-08-07 | フランス、ベルギー映画
 「グレイス・オブ・ゴッド 告発の時」
 少年の頃に神父から性的虐待を受けたアレクサンドルは、加害者のプレナ神父が今も子どもたちに聖書を教えていることを知り、彼を告発する決意をする。やはりプレナ神父の被害者だったフランソワは、被害者の会を立ち上げプレナ神父を庇護するカトリック教会を糾弾する運動を始めるが…
 フランソワ・オゾン監督の社会派映画って、珍しい、てういか、初?これまでの作品とは毛色が違っていたのが、意表を突いていて興味深かったです。常に新しいジャンルや手法に挑みながらも、その独特さ特異さは保っているところに、オゾン監督の豊かな才能を感じます。この新作は実話ベースの内容であるためか、いつものような現実と妄想がスタイリッシュに入り混じった作風ではなく、ごくごく真面目な正統派テイストに仕上がっていて、オゾン監督こんな映画も撮れるのねとそのオールマイティぶりに感嘆。私はいつものオゾン監督の、あのちょっと洗練された珍妙さが好きなので、それが排除されてたのはちょっと寂しく物足りなかった、けれども、現実的な人間関係や社会事情を描いたドラマにとしては上質で、あらためてオゾン監督の非凡さを証明した映画と言えるでしょう。

 この作品、オスカーを受賞した「スポットライト 世紀のスクープ」と同じ題材を扱っているのですが、記者視点のスポットライトと違い、こちらは被害者視点なので、起こった悲劇がより生々しく痛ましく伝わってきました。プレナ神父に狙われ怯える子ども、プレナ神父に選ばれ逆らえず連れていかれる子ども…はっきりとした虐待シーンはありませんが、これから起こるだろう忌まわしい出来事を想像させるシーンの数々に、やめて!逃げて!と叫びたくなるほどの緊迫感と恐怖に襲われ、さながらサスペンス映画、いや、心理ホラー映画な要素も。とにかくプレナ神父がおぞましくて不快!いたいけな子どもを性的いたずら、強姦だなんて、殺人より許せんわ。畜生以下ですよ。小児愛者がよりによって聖職者になるとか、ほんと信じられません。百歩譲って、小児愛は病気で罪ではないと認めるとしても、自ら小児愛と気づいていて子どもと深くかかわる仕事をするとか、もう子ども目当てとしか思えません。糾弾するほうが非情なのでは、と勘違いしてしまいそうになるほど、プレナ神父がおどおどと弱々しい哀れな老人風なのも腹が立ちました。自分の行為は認めても、それは病気のせいだから悪事ではない、神父も辞めない、という彼の言い分には心底吐き気がしました。

 プレナ神父を守る、庇うというより、のらりくらりと波風を避けようとするカトリック教会の体質にはイラっとさせられます。決して強権的になったり圧をかけてきたりはせず、優しげに理解ある風を装って自分たちの不利になることはしない、という教会の欺瞞、偽善には神も仏もない絶望を覚えます。
 主人公3人の癒えないトラウマに胸が痛みましたが、彼らの苦悩をひたすら暗く重く描くのではなく、正義のため誇りを失わないために戦う彼らの姿は、勇ましく快活でさえありました。立ち上げた被害者の会での集会とか、知的かつ和気あいあいとした雰囲気で、ワインとか軽食とかフレンチな小粋さ。ちょっと不謹慎なほど楽しそうだったり。激しい口論、討論もフランス人らしかったです。

 3人の奥さんたちがみんな協力的で、アレクサンドルの長男と次男が少年とは思えないほど冷静に理解を示す様子に感銘を受けました。逆にアレクサンドルの両親とエマニュエルの父の無関心さにはゾっとしました。自分の子どもが傷つけられたのに、あの冷淡さはないだろ~。あの親たちが怒って行動してくれてたら、トラウマもちょっとは軽減されてたでしょうに。
 主演の3人がそれぞれ素晴らしい演技!4部構成みたいになっていて、1部がアレクサンドル、2部がフランソワ、3部がエマニュエル、最終部が3人一緒、という感じ。アレクサンドル役は、「ぼくを葬る」以来のオゾン監督作主演となったメルヴィル・プポー。

 美青年だったメルヴィルもすっかりおじさんになりましたが、今でも美しいしカッコいい。素敵な熟年になりました。フランスの中年俳優にしては珍しく、スレンダーな体型を維持してます。5人の子持ち役にしては生活感が希薄なところもトレビアン。フランソワ役は、「ジュリアン」での怪演が忘れ難いドゥニ・メノーシェ。今回は正義感と活気あふれる役。アメリカならブサイク役か悪役専門な風貌の彼が、キレイな奥さんが当たり前のようにいて仕事もデキるいい男の役、も違和感なく演じてる。役者も見た目よりも実力重視なフランス映画らしいキャスティング。スカーフを小粋に巻いてるのもフランス男って感じでした。

 メルヴィルもドゥニも好演してましたが、やはり最優秀だったのはエマニュエル役のスワン・アルロー。虐待のせいで身も心も人生もズタボロになってしまった男の荒廃と絶望には、同情よりも不気味さを覚える。そんなザワつく演技が強烈でした。発作を起こしてバタリ&ブルブル姿がリアルすぎ。この人ほんとに大丈夫なのかな、と不安にさせる見た目、表情、言動など、デリケートすぎる演技に目がクギづけ。すごい個性的な顔(佐々木蔵之介を鋭く超神経質にした感じ?)は、役のせいもあって怖いのですが、アップになった時とかハっとなるほど美しくも見える不思議な顔でもあります。特にプレナ神父との対面シーンでは、痛ましくも美しく見入ってしまった。だんだん心を開いて明るくなっていく様子がすごく可愛かったり。今やフランス映画界屈指の演技派としての評判は耳にしていたけど、予想以上のすぐれものだった。彼はこの作品でセザール賞の助演男優賞を受賞。主演男優賞を獲得した旧作「ブラッディ・ミルク」の彼も素晴らしいと評判なので観たい!

 真面目な社会派映画でしたが、脇役やチョイ役、モブに至るまで目を惹くイケメンや男前が散りばめられていたのが、やっぱマドモアゼル・オゾンらしくニヤリ。アレクサンドルの友人役は、ちょっと濃い目のいい男エリック・カラヴァカ。アレクサンドルの息子二人も可愛いイケメンだったし、アレクサンドルが告訴をすすめる元被害者のイケメン青年や、フランソワの兄もシブい美男だった(弟と似てなさずぎ!ほんとに兄弟?!)子役もみんな可愛くて、演技とは思えぬほどナチュラル。厳かで美しい教会や儀式、心温まるクリスマスの風景には、おぞましい悲劇を忘れてしまいそうになります。 


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革命女子

2020-06-28 | フランス、ベルギー映画
 「マイ・レボリューション」
 共産主義者の両親に育てられたアンジェルは、仲間たちとの社会運動や恋愛、家族関係にも行き詰まり、田舎に移り住んだ母に会いに行く。活動と思想だけでなく自分も捨てた母に対して、アンジェルは長年わだかまりを抱いていたが…
 渡辺美里?と思った人は立派な高齢者です昨年のフランス映画祭で上映された作品。掘り出しもの的な佳作でした。社会や周囲の人々に激怒しまくってばかりのヒロインが、どことなく滑稽でクスっと笑えるユニークなコメディでした。

 何でもかんでも社会のせいにして、俗な生き方をしてる周囲の人々を否定したり責めたりするアンジェル。人間って生きてれば少々のズルいことやセコいこと、汚いことも避けられないじゃないですか。好きでそうしてるわけじゃないけど妥協も必要。それをヒステリックに指摘して糾弾するアンジェルの偏狭さ狭量さには、俗まみれな私からすると聞き苦しいキレイゴトとしか思えませんでした。あまりにも感情的で偏執的ともえいる頑固さなので、これって左思想礼賛映画ではなくその逆、左の人たちってこんなに変なんです!と嗤う内容なのかな、と思えました。

 でも、すごく真面目で一生けん命で、まったく私利私欲がないアンジェルのバイタリティや純真さには、好感と敬意を覚えました。私なんか一緒にいたら怒られてばかり、全否定されてばかりだろうけど、彼女みたいに大多数に流されない、長いものに巻かれない人も必要。史上最悪なアベ政権をうかうかと許してしまったことを、もしアンジェルに責めれても私たちには言い返す言葉もありません。それにしても、フランス人ってほんと議論好きですね!疲れる人たちですが、日本人ももっと自分の意見や信条をもって議論や行動をしてもいいのでは、とも思いました。ただし過激なのは反対。公共物に落書きをしたり、銀行で騒いで営業妨害するなど、迷惑行為も辞さないアンジェルの行動力は、やっぱ間違ってると思います。

 以前、左な人と親しくしていたことがあったのですが。すごい立派な理想や小難しい理論を滔々と語るくせに、平気で煙草の吸殻や空き缶をポイ捨てして私を呆れさせてくれました。大言壮語と矛盾するモラルのなさ、他人に厳しく自分に甘い、これって左の人に多いような気がします。エコロジストとして知られるレオナルド・ディカプリオとかも、政府や大企業には厳しいけどご自分はパーティー三昧、豪華ヨットやジェット機使用で、大量のゴミや排気ガスをまき散らしてるわけだし。

 アンジェル役のジュディス・デイヴィスは、この映画の監督も兼ねています。吉田沙保里を美人にした感じの顔?アンジェルに恋する保育園の園長さん役で、大好きなマリク・ジディが出演してます。マリくん、すっかりおっさんになっててちょっとショック。このハゲー!と豊田真由子に罵られそうな薄い髪が切なかった。顔も干しブドウみたいにカサカサシワシワ。でも、やっぱ可愛いです。少年っぽい可愛さと、大人の落ち着き、優しさがあわさった魅力。なにげなく、さりげなく女性を褒めたり意味深に見つめたりするところは、さすがフランス男。子どもたちと仲良しなシーンも微笑ましかったです。ヘンな踊りも笑えた。

 ↑こんなに可愛かったマリク・ジディも、すっかりおじさんに…でも、老いた容貌に逆らう若づくりや役をする日本の某スターと違って、若い雰囲気を保ちつつ包容力のある大人の男を演じるマリクは、やっぱハゲても素敵です
 
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マザコン美男奮闘記

2020-05-08 | フランス、ベルギー映画
 久々の更新!皆さま、息災にお過ごしのことでしょうか。なかなか見えてこないコロナパニックの終わり。不安と不満は募るばかりですね。コロナが日々あぶり出す、政治家や有名人の欺瞞、偽善、独善、そして彼らと庶民との格差。日本がこんなにも弱者や貧乏人に冷たい国だったなんて。そんなに自覚してなかったけど、私がいかにワーキングプアかもあらためて気づかされました。生活に困ってない、コロナになってもすぐに検査や入院ができる権力者や芸能人が何を言おうと心に響かない。自分が気持ちいいだけ、ありがたく思え的な上から目線の励まし、応援メッセージとか、本当にやめてほしい。黙ってお金を医療機関に寄付するだけにしてほしい。河井案里夫妻がボーナスを満額受け取ることを許すような政治を、いったいどうやって信じればいいのでしょうか。

 とまあ、コロナのせいで私の心もますます暗く狭くなってしまってるようですこんな時にこそ、佳い映画やドラマをたくさん観たいのだけど…今は映画やドラマそっちのけで、アニメ「鬼滅の刃」にハマっちゃってます老いも若きも周囲がこぞって観てるので、私もいつの間にか乗せられて、今じゃすっかりaddicted!アニメにハマるなんて生まれて初めてかも。皆さま、コロナはもちろん、メンタルの健康にも気をつけて過ごしましょう。明けない夜はないと信じたい。でも夜明けはいつ?教えて富岡義勇!

 「母との約束、250通の手紙」
 シングルマザーのニナは息子のロマンを溺愛し、将来彼が高名な人物となると信じていた。プレッシャーに苦しみながらも、そんな母の期待に応えるためロマンは作家を志す。第二次世界大戦が勃発、フランス軍に入隊してパイロットとなったロマンを、ニナは手紙で激励し続ける。やがてロマンは作家デビューするが…
 フランスの高名な作家ロマン・ガリの自伝「夜明けの約束」の映画化。愛しのボーギャルソン、ピエール・ニネの新作をようやく観ることができました~。ニネっち、やっぱ類まれな俳優ですね~。日本の同世代の男優たちが雀ならニネっちは孔雀。それぐらい容姿も演技もレベルが違い過ぎます。今回のニネっち、これまで以上に美しく可愛く、ドラマティックで凄絶でした。その美貌と入魂の演技には、ただただ魅了され圧倒されるばかりでした。

 明るく優しく知的でエレガント。若さと才気でキラキラ、絶望や狂気でボロボロ、まるで万華鏡の演技。チャーミングで印象的なシーンばかりでしたが、いろんな女の子とのエッチシーン連打やママとタンゴを踊るシーン、ロンドンでの決闘シーン、アフリカの戦地で熱病に犯され死の床から復活して全裸で屋外に飛び出すシーン、が特に好きです。どのシーンも日本の俳優には無理な難易度の高さです。キュートで優雅でエロくて狂気的なめくるめく演技と、まるで彼のプロモーション映画のようなファッション七変化に、ニネっちファンは満悦間違いなし。彼のファンではない人、彼が苦手な人には苦痛かもしれないほどに、ニネニネな映画となってます。

 高い演技力もニネっちの魅力ですが、私は彼の飾らない優雅さが好きなんですよ。どんな役、どんな服を着ても、いや全裸でも洗練されてるんすよね~。ロンドンでの粋なスーツ姿、フランス軍の軍服でのパイロット姿など、絵になりすぎなほどカッコいいけど、コスプレ感はなく自然に着こなしてました。とにかく気取りとか全然なくて、常に温かく優しいニネっちが好きです。演技も見た目も大したことない多くの凡百な俳優のほうが、傲慢でナルシストで鼻につきます。

 そんな優しく賢いニネっちにピッタリな、今回のママ命なウルトラマザコン役。ママは絶対的な神のような存在、彼女の望むまま言われるまま私欲や自我を捨てて血のにじむ努力や忍耐を自分に課して生きるロマン・ガリ役のニネっちが、痛々しくも愛おしい。とにかくけなげにママの期待に応えようと奮闘するロマン、悲壮なんだけど度が過ぎるともう滑稽で笑えた。そう、この映画ってかなり笑えるシーンが多くて意外でした。悲劇的な物語かと思いきや、喜劇の部分も色濃かった。ママに振り回されてオロオロアタフタ、テンパリすぎるニネっちはかなりコミカルでもあって、元々はコメディが得意な彼の面目躍如ともいえる珍妙さツボでした。

 ロマンの少年時代も、激烈かつ滑稽なエピソード満載で、ませた女の子に恋して彼女の言いなりになるロマンや他の男子たちは、ガキんちょでも恋に命をかけるなんてさすがフランス人!(役はポーランド人でしたが)と感嘆しました。カタツムリを生きたまま殻ごとバリバリ食べるのは、かなりゲロゲロ(死語)でしたが。ガキんちょロマン役の子役が可愛かった!世渡りのための処世術というか、母子そろってはったりやごまかしが上手で、詐欺の才能があるところも笑えました。

 ママ役はシャルロット・ゲンズブール。フレンチロリータだった彼女も、こんな役をやる年齢になったのですね~。隔世の念を禁じ得ませんが、おばさんって感じは希薄。若々しいとかアンチアイジングって感じではなく、いい感じに枯れてきているナチュラルさ。風情がカッコいい。煙草が似合う。過剰な愛情と期待を息子に押し付け、脅迫まがいのプレッシャーをかけまくるトンデモない毒母で、はじめはロマンが可哀想!とドン引きしたりムカついたりしてたのですが、だんだんと特異な形の応援、激励、後押しに思えてきました。

 怨念に近い信念で息子を大成させる猛母を激演してるシャルロットもまた、エキセントリックすぎて笑えるんですよね~。彼女もニネっち同様、笑いは確実に狙ってました。まだ少年の息子がエロいメイドとエッチしてる現場に遭遇してキエー!!と激怒して大暴れとか、かなり笑えました。ニネっちとタンゴを踊るシーンでは、とてもママには見えず年の差がある恋人同士にしか見えなかったです。

 母と息子の愛憎ドラマというより、数奇な運命を生きた男の波乱万丈な冒険物語、みたいな映画でした。ロマンをダイヤの原石と信じて疑うことがなかったママはすごい慧眼の持ち主でしたが、ロマンが才能と強運に恵まれた肉体的精神的にもタフな男だったのは、彼女にとっては本当に幸福なことでした。もしもロマンが凡庸な息子だったら、あんな過信は滑稽な狂気になるでしょうし。艱難辛苦だけど幸せな人生を送ったママと違って、自分を殺してママのためだけに生きたロマンの生涯は不幸でした。でも、夜空を一瞬だけ華やかに彩って消える美しい花火のような人生は、私には羨ましいかぎりです。

↑ ニネっちのお気に画像、集めてみましたわいな~。私生活では恋人がご懐妊!もう生まれたのかな?素敵なパパになりそう。わしもニネっちの子ども産みたい!大やけどを負うイケメン消防士役の“Sauver ou périr”が、日本で次に公開される主演作になりそう。親友フランソワ・シヴィル主演作“Deux moi”に友情出演、“Lisa Redler”ではセクシーなラブシーンもあるみたい。どれも待ち遠しい!

コメント (8)
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