公的医療保険の対象となる診療(保険診療)と、保険対象外の診療(自由診療)を併用する「混合診療」解禁にむけ、安倍晋三首相が政府の会議で具体化を加速するよう指示しました。柱は、混合診療の事実上の全面解禁に道を開く「選択療養(仮称)」の導入です。医師と患者が「合意」すれば、安全性が未確立の診療でも混合診療として認める仕組みです。医療の安全を揺るがし、所得の違いで受けられる医療の格差を広げる混合診療解禁は、国民に深刻な不利益をもたらすだけです。
患者の「自己責任」に
「選択療養」は3月末に、政府の規制改革会議が提案したものです。安倍政権は6月策定予定の「成長戦略」の目玉にしたい意向です。「選択療養」は、医師から説明された治療法に患者が同意すれば未承認の治療法や医薬品でも混合診療の対象にするものです。「選択」の名で患者に「自己責任」を求める発想です。
どんな治療法や医薬品を対象にするか明確に決めません。効果がはっきりしない診療も除外されません。これらに“混合診療を通じて保険診療のお墨付き”を与えることは、不確かな医療をまん延させて、医療への信頼を損なう事態を生み出しかねません。
現行の「保険外併用療養費制度」のなかに「選択療養」を盛り込むことが検討されています。しかし、現行制度は、対象の医療機関や診療内容を事前に決めるなど一定のルールのもとで運用されています。安全性や有効性が確認された先進医療は、保険診療の対象に加えることも大前提になっています。混合診療を野放図に拡大する「選択療養」は、現行制度の枠を突き崩す、きわめて危険な方向です。
「混合診療の原則禁止」は、「国民皆保険」の理念にもとづき、国民にたいして医療を平等に保障する重要な仕組みとして確立したものです。高額な最新の治療でも、安全性や有効性を厚労省が確認すれば、速やかに保険の対象にして、広く国民が利用できるようにすることが大原則となっています。
混合診療の解禁は、この仕組みと原則を根本から覆すものです。いったん混合診療に組み込まれた最新の治療や薬は、なかなか保険診療の対象にはされません。一部の診療に保険が使えたとしても、自由診療分は数百万円単位の高額な治療費のまま固定されてしまいます。その結果、お金を工面できない人は、必要な最新の医療を受診する道が阻まれます。“命の沙汰も金次第”―。こんな荒廃した医療に未来はありません。
規制改革会議が、混合診療解禁に執着するのは、公的医療の範囲を縮小し、民間保険会社など医療ビジネス参入を拡大する狙いからです。社会保障の公的支出を削減したい政府の思惑もあります。大企業の利益のため、国民の命と健康を脅かすことは許されません。
日本医師会や健康保険組合連合会が反対表明
「選択療養」には、約30万人が加盟する日本難病・疾病団体協議会が「多くの患者が最先端の医療を受けられなくなる」と抗議の声をあげ、日本医師会や健康保険組合連合会などは「患者の健康に不利益」と反対を表明しました。
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